こちらも最悪、マニラ国際空港

フィリピンにはとてもお世話になっている。なっていながら悪口を書き連ねるのは気が引けるが、記者の生業と割り切って、再び「最悪」を指摘したい。
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写真は、着陸から2時間たっても荷物が出てこないターンテーブル。説明のアナウンスすらない=マニラ国際空港第2ターミナルで、2月7日撮影。

フィリピンにはとてもお世話になっている。なっていながら悪口を書き連ねるのは気が引けるが、記者の生業と割り切って、再び「最悪」を指摘したい。

前回、マニラの交通渋滞を「アジア最悪」と書いた。アジア各地を出没した私の観察で、もうひとつ「最悪」と断言できるものがマニラにはある。空港だ。

すでに民間ウェブサイト「スリーピング・イン・エアポート」が2011年から3年連続でマニラ国際空港(NAIA)第1ターミナルビルを「世界最悪」と認定していたが、フィリピン政府が13億ペソをかけて同ビルの改修工事を実施し、15年版ではワーストテンから外れた。

それでもNAIAには4つのターミナルビルがあり、そのハード、ソフト両面を総合して勘案した私の結論は、「東南アジアで最悪」の空港だ。

経済を重視するアジア各国はおしなべて空港整備に力を入れている。国の玄関として威信がかかるとともに、観光客や外国投資を呼び込むための必須条件と考えているからだ。フィリピン政府を除いて。

東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国のなかで、国内総生産(GDP)がフィリピンより上位の国はもちろん、下にあるベトナム、カンボジア、ラオスのいずれもがNAIAよりましな空港をもっている。ハノイ、ホーチミン、プノンペン、観光地のシェムレアプ、ビエンチャン、ヤンゴン、ネピドー・・・。こうした空港を利用してきたが、NAIAよりお粗末な空港はない。

クアラルンプールは格安航空(LCC)専門の経済的なターミナルビルをつくったが、こちらのほうがNAIAの4つのビルのどれよりはるかに立派だ。

南アジアではNAIAよりひどいところもある。8年前に訪れたアフガニスタンのカブール空港と2年前のバングラデシュ・ダッカ空港ぐらい。カブールは空港は当時、砲撃などで窓ガラスは吹き飛びトイレは破壊されたままで補修されていなかった。ダッカでは入管の込み具合が半端ではなかった。

NAIAのハードは貧相だ。第1ビルは改修の結果、トイレに便座や石鹸が備え付けられた。割れたガラスを段ボールでふさいだところもなくなった。だが第2ビルは相変わらず待合室の椅子さえ十分な数がない。第3のエスカレーターはなぜいつも動いていないのか?

4つのビルの連結性がまったくないところが致命的だ。同じターミナルでなければ乗り換え時間が3時間はないと危ない。

NAIAの利用者は昨年、約3670万人。LCCの発達もあり、10年前の倍以上である。これに対して滑走路は3・7キロと2・4キロの2本だけ。能力の限界に近づいているため、離着陸とも遅延が常態化している。こうした現実を前にしても、フィリピン政府は計画づくりをJICAに丸投げしているだけだ。

JICAはカビテ州のサングレーポイントに新空港の建設を提案している。地元の複合企業サンミゲルはマニラ湾の別の場所を埋め立てる独自案を発表した。ところが、渋滞対策同様、アキノ大統領は、高支持率に支えられた6年間にほとんど何もしなかった。次の政権で具体化したとしても、完成は一体いつになるのだろうか?

大統領選に立候補した各候補からも具体的な公約は聞こえてこない。ここでも、ものごとを解決しようとする政治的意思が欠けている。経済にも投資にも悪影響が及んでいるのになぜ政治家は解決に乗り出そうとしないのか。不思議だが、それがこの国の現実だ。

ハードに劣らずソフト面も深刻だ。問題がこの国の習慣や文化に根差しているとも考えられるからだ。

昨年、X線検査担当職員が搭乗客のカバンに銃弾を入れて口止め料を恐喝する事件が相次いで発覚した。とんでもない事件だが、実行犯が刑務所に入ったわけでもない。

さらに日常的な恥さらしは、空港のタクシーだ。第2ビルは特にひどい。IDカードをぶらさげた業者がやってきて法外な値段をふっかける。通常200ペソ(500円)ほどのマカティまで、3000ペソ(7500円)という輩もいる。2月7日に第2ビルに到着したときは、ケソン市イーストウッドまで最初の業者が2780Pペソいうので「詐欺師」とののしると、次の業者は「うちなら1800」と胸を張っていた。結局グラブカーで350ペソで帰ったが、一見の客なら対抗のしようがない、一方で正規のタクシー乗り場は長蛇の列だ。

東南アジアの首都でこんな状況の国はない。フィリピンより貧しい国でも、もっとまっとうにやっている。空港の交通機関が市内より多少高いことは仕方ないだろう。それが同一料金なら問題はない。例えばバンコクでは定額の上乗せがあるし、プノンペンでは、市内まで10米ドルと決まっている。

問題は人によって値段が違い、どうみてもぼったくり業者が空港内を堂々と跋扈していることだ。観光でやってきた人が、入国した直後にこんな目にあったら、再訪しようと思うだろうか。

私は観光省の高官にこの件をただしたことがある。彼は「すぐにはなかなか改善できない」と口を濁した。It's More Fun in the Philippines と盛大に観光キャンペーンをやっていたころだ。私は「CMに多額の金を使うより、空港のタクシーを指導する方がよほど効果がある。その気になればすぐできることだ」と言って、気まずくなった。

ちなみに第2ビルは「ナショナル・フラッグ・キャリア」フィリピン航空専用のターミナルである。2月7日の到着時には、ターンテーブルで手荷物を受け取るまで着陸から2時間かかった。私の荷物が出てきたのはまだ早い方だった。延々と多数の客を待たせてもアナウンスの一つもない。これも他国の空港では経験しないことだ。

いまだに「チップ」を要求する職員もいる。恐喝といい、わいろといい。タクシーといい、行政にその意思があれば解決する。幹部がこうした行為をなくす、と宣言し実行する。従わない職員を罷免、訴追する。不当な業者を追放する。他国がふつうにやっていること、それができない。幹部もグルだからだろう。

空港のつまらない「犯罪」がどれだけ国のイメージを悪化させ、ひいては投資や観光で国家的損失になっているか、そこに気づくリーダーが求められているが、30年この国を見てきて、将来は楽観できない。

第1ビルが完成した2年後の1983年、ベニグノ・アキノ元上院議員が帰国時にタラップで射殺された。この事件をきっかけにマルコス独裁体制は崩壊した。そして妻のコラソン氏が大統領になり、空港は上院議員の名前が冠せられた。父の名を汚す空港の現状を放置して恥じない息子の感覚が私にはわからない。

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