3社のオウンドメディアの成功事例から学ぶ、「ちゃんと運営する」ことのメリット

オウンドメディアというのは、「企業が自社で所有するメディア」のことを言い、自社のウェブサイトや、メールマガジンなども含まれます。
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皆さま、あけましておめでとうございます。Six Apart ブログさわです。

昨年の12月に、東京(近郊)の Movable Type ユーザーコミュニティ「MT東京」が主催した「【MT東京-08】成果をあげる・支えるためのマーケティングとMTの技術」というイベントで、「オウンドメディア」についてプレゼンしてきました。

「企業のマーケティング担当者」という現場の人間として、Webなどで話題に上がったオウンドメディアの事例と、その傾向について、お話した内容をご紹介します。

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「オウンドメディア」について、おさらい

数年前から「オウンドメディア」という言葉をよく聞くようになり、かなり定着してきた感がありますが、ここで改めてその言葉について整理しておきたいと思います。

オウンドメディアというのは、「企業が自社で所有するメディア」のことを言い、自社のウェブサイトや、メールマガジンなども含まれます。Owned Media という言葉の通りの意味ですね。

自社の見込み顧客が興味・関心のある情報を発信し、見つけてもらう「インバウンドマーケティング」のプロセスの起点となる部分、「コンテンツを見つけてもらう」「サイトを訪問してもらう」ためのメディアとして多く活用されています。

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また、価値あるコンテンツを発信することにより、「コンテンツを見つけてもらう」「サイトを訪問してもらう」という意味で、オウンドメディアは「コンテンツ・マーケティング」の手法の一つとして考えられます。

「コンテンツ・マーケティング」とは、見込み顧客/顧客にとって価値があるコンテンツを提供し続けることで、興味・関心を引き、理解してもらい、売上につなげるマーケティング戦略のことで、WEBに限らず昔から用いられている手法です。WEBでは、ブログの普及に始まり、Googleが良質のコンテンツに対して高い評価をしようとしていること(=SEO的観点)、ソーシャルメディアとの相性が良いことなどから、効率の向上が期待され注目を集めました。

細かく突き詰めるといろいろな考え方がありますが、個人的には、「価値あるコンテンツの発信による集客」だけではなく、さらにそこから、より理解を深めてもらいロイヤルティの高い顧客を育てる、リテンションを高める、ところまで含むと考えています。

先ほど、オウンドメディアとは「自社のウェブサイトや、メールマガジンなども含まれる」と書きましたが、「より理解を深めてもらいロイヤルティの高い顧客を育てる」「リテンションを高める」という意味では、やはりそれらも欠かせないですよね。

自社のウェブサイトを持っていない企業は少ないですよね。Webマーケティングを実践する企業にとっては必須かと思います。獲得したリードに対して、メールマガジンを配信している企業も多いかと思います。となると......あれ? オウンドメディア始めたいって思ってたけど、もう持ってたのね、ということになってしまいますよね。

そうですよね。いや、そうじゃないんですけど、そうですよね。と言うのも、自社のウェブサイトと言っても、これまでのいわゆる「コーポレートサイト」では、「良質なコンテンツ」を「継続発信」するのは難しいです。製品サイトなどでは、製品について知ることができる説明をきちんと掲載し、FAQや関連情報などを分かりやすく掲載することで、価値を高めていくことが大切です。しかし、それだけでは、その製品に興味を持つ(かもしれない)人たちに届けることは難しいと、実際にウェブサイトを運用していて感じます。

そこで、継続的な更新・情報発信を前提としたメディアサイトを新たに立ち上げる、もしくはコーポレートサイト自体をメディア化する、という方向に向かいます。メールマガジンも活用し、読者を再度のウェブサイト訪問に導きます。そうすることで初めて今言われている「オウンドメディア」になれるのかと思います。

以前、「オウンドメディア」をよく目にするようになった当初は、「とにかく自社でブログを立ち上げて社員のナレッジを積極利用して情報を発信することで、SEO的な効果を高められる! 自社サイトに人を集められる! 初期投資も少なくすむので、簡単に始められる!」 といったイメージもあり、予算をほとんどかけない形で実践されていたように思います。

そのため、筆の立つ(かつSNSなどをうまく活用できる)社長や社員がいたり、もともとたくさんのコンテンツを持っている企業でもない限り、効果をあげる......どころか、始める、そして続けること自体が難しく、挫折......というケースを目にしたり、私自身が経験したりしました。

かといって、お金をかけてプロに完全に丸投げする、というのでは、企業の人格が表れにくく、信頼につながるような情報発信もなかなか難しいのです。

ということで、「とりあえず簡単に始めてみるなんて無理。自力でやるならかなりの覚悟が必要なんだ」ということを思い知った次第でした。

しかし、ここ数年は、トリプルメディアの連携を前提とした、企業のデジタルマーケティングの一環として、より戦略的に(それなりにお金をかけて......)運用されるケースが増えてきているようです。

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』横山隆治著/インプレスジャパン刊

上の図は、トリプルメディアマーケティングの概念図です。そこにもちょこっと書き加えていますが、近頃では、ネイティブ広告を活用したコンテンツへの誘導施策も注目集めており、オウンドメディア上のコンテンツが、より重要になってきています。

単純にオウンドメディアを活用することで広告予算を削減、というよりも、トリプルメディアを効果的に活用することで、新規見込顧客の獲得〜ファンの醸成、ロイヤルティの高い顧客の育成にもつなげ、中長期的に効果を上げられるのだと思います。

ちょっと気になるオウンドメディア事例

MT東京のイベントでは、30分で、Movable Type クラウド版や、MovableType.net のお話もさせていただいただめ、もっと駆け足でお話させていただいたのですが、文章にするとなると駆け足しづらく、ダラダラと書いてしまい、「おさらい」が長くなってしまいました。すみません。

ここでようやく、私が今ちょっと気になっているオウンドメディアを少し紹介させていただきたいと思います。

昨年10月にオープンした、ライオン株式会社の「Lidea」。「暮らしのマイスター」と呼ばれるスペシャリストが、オーラルケア、ヘルスケア、洗濯、リビングケアなどについての知識を元にしたコンテンツを展開されているのだそうです。

MarkeZine の記事でくわしく紹介されているので、まずはそちらをぜひお読みください。

ポイントとしては、

  • 自社研究員などの専門的なナレッジが主なコンテンツ
  • ペイドメディア、アーンドメディアの活用
  • DMPデータを活用したパーソナライズ
    • サイト内のコンテンツリコメンド
    • ネイティブアド配信
    • DSPによる広告配信
  • 外部ソースを積極活用
    • 企画・編集
    • DMP
    • DSP広告配信
    • ネイティブ広告配信

といったあたりで、「Lidea」をデジタルマーケティング戦略の核とされています。私の長い「おさらい」に書いたとおり、トリプルメディアを効果的に活用することを前提にされている完璧な例かと思います。まだ始まったばかりのメディアですが、今後の展開に注目しています。CMSは何を使っていらっしゃるのかしら(笑)。

ECサイトのメディア化で有名な株式会社クラシコムの「北欧、暮らしの道具店」。北欧系の雑貨、食器が好きな人にはファンが多いのではないかと。私も食器や雑貨を探していて、たどり着くことが多いサイトの一つです。

こちらも、MarkeZine でインタビュー記事(記事広告)が掲載されていて、いろいろと参考になるので紹介します。

ポイントとしては、

  • スタッフ全員を、採用段階でライティングやスタイリング、写真撮影の実技テストを経て採用
  • 商品は、編集方針やコンテンツに沿って仕入れ
    • "売るものありき"のコンテンツ作りでは、メディア化はできない、とのこと
  • プラットフォームはGMOペパボ社の「カラーミーショップ」(ASP)を使用
    • カート部分のサーバー管理やメンテナンスを全て任せられるのが大きい
    • オペレーションの効率化により、メディア作りに集中できている
  • 年間で1.8倍ずつ訪問者が増加
  • CVRは微減傾向でも、質の高いアクセス増で、低CVRを凌駕し、ビジネスとしては1.6~1.7倍成長

といったあたりですが、「スタッフ全員を、採用段階でライティングやスタイリング、写真撮影の実技テストを経て採用」というのが、最も「すごいな......」と思ったところかもしれません(笑)。

オウンドメディアをやろう!という流れになると、「社員が仕事などで得たナレッジを記事にしよう」「他の社員に協力してもらうには?」といった方向に進んでしまいませんか? でも個人的には、かなり難しいことだと思っています。過去に挫折も経験もしています。

現場の仕事ができるからって、それをきちんとした記事にできる人は少ないです。特に筆の立つ社員がいるわけではない、編集経験のある人間もいない、そんな現場では、やはりプロに頼るのが良いと思っている部分もあります。社内で方向性を決めて企画を立て、外部のライターに取材やライティングを発注する、などなど。

※ ケースによっては、そこで担当者が苦労するフェーズも大切と思っている部分もあります(笑)。

でも、「スタッフ全員を、採用段階でライティングやスタイリング、写真撮影の実技テストを経て採用」されていると話は違いますよね。すごいなと思いました。「ECサイトのメディア化」に本気を感じました。

実際、「北欧、暮らしの道具店」を見ると、スタッフによるコラムの写真がとてもオシャレ。スタッフが自宅で愛用してるそのアイロン、使ってみたい!と思ってしまうのです。即買いするわけではないのですが、「次、アイロンを買うときの候補」になる感じです。そもそも記事内での商品への誘導も遠慮がちです。まずはコンテンツを楽しんでもらう、親しみを持ってもらうのが第一目的になっているのが強く感じられます。商品へのリンクが無い記事もあったり。確実にあるのは、他の記事への誘導や、Facebook、Instagram、メルマガ購読への誘導です。

この「Six Apart ブログ」もそうなのですが、セミナーや製品の広告を出しても、あまりクリックされないのですよね。やはりFacebookなどのSNSでフォローしてね、メルマガを購読してね、という流れがごく自然な感じのようです。「継続的に情報を受け取ってもらえる関係」を築くには、オウンドメディアはやはりとても良いのだなと感じました。

こちらもオウンドメディアとして有名なサイトですね。こちらは、シックス・アパートの「Movable Type クラウド版」をお使いいただいていることもあり、導入事例取材という形で、昨年、直接お話を伺わせていただきました。

さらに、またまた MarkeZine さんの記事を紹介させていただく形となりますが、

こちらで、編集長の大槻幸夫さんが詳しく語られています。

どのような感じで運用されているかというと、

  • 編集部は、編集長の大槻さんと副編集長の藤村能光さんを含めた6人体制(取材当時)
  • 企画は編集部で練り、取材に応じて随時、外部のライターやカメラマンに依頼
    • 自社のグループウェアを活用してクラウド上でアイデアや企画案の共有
    • 週1回の編集会議で揉んで企画化
  • 記事のテーマは、「チームワーク」と「働き方」に関するものであれば何でもよい
    • 立ち上げ当初は、サイトの性格がぶれないように、テーマの軸は崩さないようにして心がけていた
    • 最近はメディアが成長してきたので、それ以外の話題も扱うことはある
  • 「会社が伝えたいこと」ではなく「読者の"ネタにしやすい"世の中の話題に乗る」
    • ソーシャルメディアの声に耳を傾ける

ざっくりこんな感じのようです。

先に紹介した2つと比較すると、ぱっと見、ブログ色が濃いのですが、筆の立つ社員がバズる記事を書く、社内のナレッジを記事にする、というよりも、アイデア出しをして、企画を立て、ライターやカメラマンに取材やライティングを依頼するといった形です。もう普通に「メディア」の仕事の流れですね。

プロをうまく使うことで、自分たちでできる範囲で頭打ちになることもありません。もちろん、立ち上げ当初はいろいろと壁にぶち当たったり、逆にブレークスルーを感じたりしながら、色々模索して、この形になってきたのかと思われますが、結果、サイボウズさんのカラーがちゃんと出つつ、興味深い記事満載のメディアになっているように思います。

オウンドメディアを「ちゃんと」やる

というわけで、それぞれ注目しているポイントは違うのですが、私が注目しているオウンドメディアを3サイト紹介させていただきました。

それぞれ切り口は異なるものの「ちゃんと」やってる感がすごいですね。「ブログだと簡単に作れるから、コストがかからない」とかではなく、かけるべきコストをちゃんとかけて、ちゃんと予算化して運用して、ちゃんと効果を最大化させるための施策とセットで実施することで、ちゃんと効果が出るのですね。そうすることで、ただのスタッフブログになってしまうのも避けられます。

口で言うのは簡単ですが(文字で書くのも簡単ですが)、実践するのは大変です。私も引き続き、気になるオウンドメディアや、関連情報を追いかけていきたいと思います。

最後に、このSix Apartブログでのオウンドメディア実践のノウハウやドタバタ(笑)は、こちらのカテゴリにまとまっていますのでご参考まで。