老化個体の行動を決める嗅覚神経細胞死

老化した個体の行動変化の一因が、特定の匂いを感知する嗅覚神経細胞の細胞死であることを、東京大学大学院薬学系研究科の千原崇裕准教授と三浦正幸教授らがショウジョウバエの実験で突き止めた。老化過程の脳の神経や行動の変化を探る新しい手がかりになる発見といえる。6月27日の米オンライン科学誌プロスジェネティックスに発表した。
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老化した個体の行動変化の一因が、特定の匂いを感知する嗅覚神経細胞の細胞死であることを、東京大学大学院薬学系研究科の千原崇裕准教授と三浦正幸教授らがショウジョウバエの実験で突き止めた。老化過程の脳の神経や行動の変化を探る新しい手がかりになる発見といえる。6月27日の米オンライン科学誌プロスジェネティックスに発表した。

正常な老化の過程で、神経細胞死の研究はほとんど研究されていなかった。研究グループは、寿命が1~2カ月と短く、遺伝学的に解析しやすいショウジョウバエをモデル動物として使った。まず、正常な老化における脳内の細胞死を観察する目的で、細胞死のアポトーシスに必要な酵素のカスパーゼが、いつ、どの神経細胞で活性化しているか、を網羅的に解析した。

その結果、羽化約45日後の老化したショウジョウバエの神経細胞のうち、匂いを感知する嗅覚神経細胞でカスパーゼが活性化していることが見いだした。ショウジョウバエの嗅覚神経細胞は約50種類存在し、それぞれ感知する匂いが異なる。カスパーゼは、この50種類のうち、特に「リンゴ酢や酵母の匂い」を感知する嗅覚神経細胞で活性化しており、老化したショウジョウバエの脳で、リンゴ酢の匂いに反応する嗅覚神経の細胞数が減っていた。

ショウジョウバエはリンゴ酢の匂いを感知して誘引されるが、老化したショウジョウバエはその匂いを感じることができず、リンゴ酢の場所がわからない。しかし、この嗅覚神経の細胞死が起こらないように操作したショウジョウバエでは、老化した場合でもリンゴ酢を感知することができ、最終的にリンゴ酢の場所へ集まり、行動が若返った。

千原崇裕准教授は「老化に伴った個体の行動の変化を、特定の嗅覚神経細胞死で説明することに成功したのは初めてだ。パーキンソン病などヒトの神経変性疾患でも、運動機能障害に先だって嗅覚機能低下が現れる場合がある。今後は、なぜ正常な老化で特定の嗅覚神経が細胞死するのか、原因を探り、神経変性疾患での神経細胞死の原因や、その発症の仕組みの解明にも結びつけたい」と話している。