研究開発予算は聖域ではない

総合科学技術会議も、今までの18年間を棚卸しして、改革すべきは改革すべきである。もはや、研究開発予算は聖域ではないし、ましてや総務省が「文句を言うな」ということなど許されるはずもない。
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行政事業レビューは11月15日が最終日だが、僕の出番は一昨日13日昨日14日で完了した。その間に一番印象に残ったのは、総務省担当者がレビューの意味を理解していないことだった。問題となったのは総務省が進めてきた情報通信関連の研究開発プロジェクトだが、担当者は「総合科学技術会議でご承認いただいて実施しています」と説明。評価者からの「費用対効果を明らかにせよ」といった質問にはまともに答えられず、最後には「学会の権威の先生方にお認めいただいているのに、何を言うのですか。」と怒らんばかり。

おもちゃをねだって父親のOKを取ったが、母親からダメと言われ、「パパはいいって言ってるのに。」と泣き叫ぶ幼児を思い出した。家庭も企業も政府も、アクセル役とブレーキ役がいて、はじめて安定して動く。総合科学技術会議は研究開発のアクセル役で、行政改革推進会議はブレーキ役だ。ブレーキ役の前で「学会の権威のお墨付き」を振り回しても役には立たない。行政改革推進会議の構成員も総理大臣に任命された各界の権威だ。駄々をこねるのではなく、ブレーキ役が納得する説明をするのが総務省担当者の役割だったはずなのに、あまりにお粗末と感じた。

そもそも、科学技術の発展や競争力強化の司令塔という役割を、総合科学技術会議が果たしているかに疑問がある。この会議は1996年を起点として、5年単位で科学技術基本計画を策定・推進してきた。第一期には17兆円、第二期には24兆円、第三期には25兆円の政府予算が投下され、今は第四期が進行中である。財政のひっ迫で政府施策の多くで予算が削減されてきた中で、研究開発だけは聖域のように規模を拡大させてきた。情報通信は第二期と第三期で重点推進4分野の一つに指定され、その庇護の下で、総務省も研究開発プロジェクトを推進してきたのである。

文部科学省 科学技術・学術政策研究所が2011年6月に発表した、情報通信研究の世界動向を調査した報告書には、世界全体で研究が活発化している中、新しい研究領域を開拓し世界をリードしている米国などに比して、「日本は非常に特異な推移を示している」と書かれている。日本発の論文数は過去20年間横ばいで、急激に増加してきた中国・台湾・韓国に追い越され、研究分野のバランスも電気系が特に多く情報系が少ないなど偏りが大きく、「世界の研究の方向性とは乖離する方向にある」と、報告書は説明している。

それでは、通信機器の輸出入はどのような状況なのだろう。情報通信ネットワーク産業協会の統計データによると、通信機器の2012年輸出総額は2934億円で、輸入総額は3988億円の赤字。国際貿易投資研究所によれば、情報・コンピュータ、その他の情報提供サービスの2011年支払額は44542百万ドルで、受取額は36631百万ドルとこれも赤字。これらの数値を見る限り、情報通信の競争力が強化されたとは思えない。

学会の権威は過去の成功者であるが、電気系での成功者は電気系の研究開発をより高く評価するというように、成功体験に引きずられるところがある。それでは、情報系の研究力は成長しない。挑戦的な情報系プロジェクトに投資してこなかったから、グーグルのような企業がわが国に生まれなかったのかもしれない。

米国は、より一層挑戦的な研究開発への投資を強化しようと動き出しているという。総合科学技術会議も、今までの18年間を棚卸しして、改革すべきは改革すべきである。もはや、研究開発予算は聖域ではないし、ましてや総務省が「文句を言うな」ということなど許されるはずもない。