これまでの音楽ビジネスは、「どうやって売るか」、「どうやって音楽に金を出させるか」であったのに対して、パーマーさんは、「どうしたら人々がお金を出したくなるか」、「どうしたら人々は音楽のためにお金を出してくれるのか」に発想や活動の焦点を変えることで音楽活動を続けられることを証明したのです。
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昨夜のNHK Eテレ「スーパープレゼンテーション」は、アルバムやツアーの資金120万ドル(およそ1億円)をクラウドファンディングで集め、注目を集めたミュージシャン、アマンダ・パーマーさんの特集でした。インターネットが出現することによって、音楽がストリーミングでも聴けるようになり、フリー化し、大手のレコード会社がCDを制作して売るというビジネス・モデルは揺らぎ始めています。パーマーさんはそんな時代のなかでの新しい音楽活動の新しいあり方の可能性を語っていたように感じました。見逃した方はTEDが提供している映像がありますからそちらをどうぞ。

これまでの音楽ビジネスは、「どうやって売るか」、「どうやって音楽に金を出させるか」であったのに対して、パーマーさんは、「どうしたら人々がお金を出したくなるか」、「どうしたら人々は音楽のためにお金を出してくれるのか」に発想や活動の焦点を変えることで音楽活動を続けられることを証明したのです。

なにかこの発想の転換は、「マーケティングは売ることではない、マーケティングは、売れる仕組みをつくって、顧客を創造することだ」というマーケティングの原点を感じさせます。

寄付によってアーティストを支えるクラウドファウンディングは、まさに、いかにCDを売るための活動を展開するか、人々に自らの音楽を支えるファンとなってもらえるかに活動の軸足を大きく転換させます。つまり、CDアルバムという「製品」ではなく、ファンはパーマーさんの音楽そのもの、またパルマさんの活動、またパーマーさんとのつながりにお金を払うのです。だから、パーマーさんはステージで活動するだけでなく、ファンのところに飛び込み、ファンの家に泊まってまで時を共有して楽しむ体験を広げます。

まさに、ファンから遠く離れた、スポットライトで浮き上がるステージ、映像のバーチャルな世界、機器から流れてくる音楽の世界からアーティストが降臨してくるのです。

パーマーさんが番組のなかでも語っていたことですが、工業化の時代がくるまでは、アーティストはそうやってファンに支えられ活動していたのです。日本でもそうでした。お金持ちが芸術家を呼び、自宅に逗留してもらって作品を描いてもらったり、大衆演劇では今でも残っている「おひねり」の世界がそうです。市場経済ではなく、寄付経済ともいえる世界でした。

こういったアーティストとファンのつながり方を変えただけでなく、インターネットはビジネスそのものの選択肢を増やしました。パーマーさんが大手のレコード会社からCDデビューした時に、最初の数週で25,000枚が売れたのですが、大手の音楽レーベルからすれば、たった25,000枚に過ぎません。だから失敗だという結論となり、パーマーさんは独立レーベルで活動を続けます。クラウドファウンディングで同じ人数の25000人が寄付したというのは偶然でしょうか。

それでおよそ1億円が集まったのですから、音楽活動は十分に続けることができます。アーティストにとって活動の選択肢が増えたのです。ファンの側からすれば、それでパーマーさんの音楽を聴き続けることができるようになりました。嗜好や価値観が多様化するなかでは、小さな市場でもビジネスが成り立つというのは重要な変化です。

社会や、市場は、いっきに大きく変わることもあれば、新しい変化によって、小さな新しい芽が生まれたり、これまでのビジネスにすこしずつ影響をおよぼしはじめることもあります。そのふたつの変化が同時に起こってきているのが現代です。

すくなくともファンと深いつながりをもつこと、製品ではなく、体験を共有することに顧客がお金を支払ってくれる時代の波が来ている、インターネットがそんな変化を促していることを感じさせてくれるプレゼンテーションでした。

ちなみに番組のなかでも紹介されていた、アマンダ・パーマーさんの裸体の上に歌詞を描く、3日間徹夜で撮影したストップモーション・アニメーション作品を紹介したサイトがあったのでリンクを張っておきます。

(※この記事は7月2日の「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載しました)