憲法論議の足元で「長いものに巻かれろ」や「自粛」

憲法「改正」をめぐっては、誰もが「国民的な議論を」と口を揃える。しかし、(国政選挙の運動がそうであるように)何かのテーマを巡って賛否が激しくぶつかり合う議論の場は、政治家や学者らによるテレビ討論や憲法裁判などを除けば、日本ではそう多くない。端的に言えば、護憲・改憲の動きは、「国民的議論」というよりも、現状は「陣取り合戦」だ。
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憲法改正論議が急速に高まっている。96条に「改正」の文言があるから「改正」論議と呼ばれるのだろうが、「改悪」であったり、「改変」であったり、呼び名を変えたくなる人もいるだろう。それとは別に、こういう流れの中で、必ず出るだろうな、と思っていた動きが、案の定、ぼつぼつ出始めたようだ。

福井新聞のオンラインニュースサイトは今月1日、<「政治色強い」と絵画作品撤去 アオッサ管理会社、県の注意応じ>という見出しのニュースを流した。公共施設「アオッサ」で「ピースアート展 憲法と平和」が開かれた際、ある出展者の作品が「政治的だ」として、撤去を求められたのだという。

福井新聞によると、半紙に戦争放棄をうたった9条や改正手続きを記した96条などを書き出した9枚の作品だった。展示初日の4月下旬、管理会社の統括責任者が「政治的な内容で気分を害する人もいる」と撤去を要請。作者らは「憲法を知ってもらうことは政治的なことではない」と主張したが聞き入れられず、全体の展示を継続するために撤去に応じたという。

室蘭市では、市のホームページに「憲法を守ろう」というバナー広告を出したいと要望した男性が、断られたらしい。4月25日の朝日新聞の声欄に出ていた話だ。男性が「憲法を守る自治体行政を応援する」というバナーを申し込んだら、市の担当者は「政治的主張」であり、市の要綱に反するとして拒んだのだという。憲法遵守義務のある公務員がこれでいいのか、と投稿主は書いている。

私の住む高知県でも似たようなことがあった。護憲団体が、屋外の広告媒体に「憲法96条を守ろう」というメッセージを出そうとした。すると、政治的な意見表明であるとして断られたのだ、と。憲法擁護の、同じような広告は毎年出しており、これまでは拒まれることがなかった、それなのになぜ今年に限って、、、というわけだ。どうやら、「96条」が引っかかったらしい。安倍晋三政権が焦点として持ち出し、世上を賑わす「96条」。媒体側はそこを慮ったのかもしれない。

憲法「改正」をめぐっては、誰もが「国民的な議論を」と口を揃える。しかし、(国政選挙の運動がそうであるように)何かのテーマを巡って賛否が激しくぶつかり合う議論の場は、政治家や学者らによるテレビ討論や憲法裁判などを除けば、日本ではそう多くない。

実際、今年の憲法記念日も護憲、改憲両派の集会はほとんどの地域で、それぞれ別個に行われ、自らの主張を賛同者が大半を占める(であろう)会場に向かって力説した。両派の代表選手が顔をそろえ、激しくぶつかり合った集会などは、ほとんどなかったのではないか。端的に言えば、護憲・改憲の動きは、「国民的議論」というよりも、現状は「陣取り合戦」だ。

どっちがより早く、よりたくさん、自らの仲間・賛同者を増やすか。いわば、政治勢力の拡大競争である。通常の選挙と一緒だ。

だから、様子見の動きも出る。何かもめ事になったら面倒だし、まして後々責任が問われるような事態になったら面倒さも倍加する、、、福井や室蘭の事例は、そんな「長いものに巻かれろ」式の風潮に見える。「自粛」の風景とも映る。たぶん、こういう風潮は今後、あちこちで、目立たぬ形で広がっていくのではないか。