プロ野球、パ・リーグ球団合併から10年。2日間のストライキは球界をどう変えたか

メディアでの報道やファンの間でのSNSであまり話題になっていないようにも感じるが、10年前の今頃、我々は野球のない夏場の週末を経験した。あのストライキは野球をどう変えたのだろうか。
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時事通信社

喉元過ぎれば熱さを忘れる、だろうか。メディアでの報道やファンの間でのSNSであまり話題になっていないようにも感じるが、10年前の今頃、我々は野球のない夏場の週末を経験した。あのストライキは野球をどう変えたのだろうか。

発端は、6月の近鉄のオリックスとの合併騒動だった。当初、この交渉は隠密裏に進められていたが、日本経済新聞にスッパ抜かれ衆人の知る所になった。合併はNPB全体の選手数の減少をもたらす。当然ながら選手会は反対した。個人的には、選手会は合併自体に断固反対すべきだったと思うが、その主張は「合併の1年間凍結」という現実路線だった。そこに時代の寵児だった堀江貴文氏が近鉄買収に名乗りを上げ、「第2の合併」話も持ち上がったこともあり、この件は球界の再編問題としてヒートアップした。

その後数度の労使交渉を経ても合意には至らず、9月18―19日に予定されていた公式戦は2軍戦も含め全てキャンセルされたが、9月22-23日に行われた交渉では「12球団制の維持」などの合意が得られ、一連の問題は終結した。

結果的には2日間だけだったが、NPBのストライキがその10年前のMLBのそれと比較し決定的に異なっていたことがある。まずは期間(MLBは8月12日以降の全日程がポストシーズンも含め中止となり、翌年の開幕も遅れた)で、もうひとつはファンの反応だ。MLBでは「ファン無視の百万長者同士のいがみあい」だったが、NPBではファンの多くは選手会を支持した。これは選手会の主張がファンの利益と一致していたことと、経営側の一部有力者の「たかが選手」発言がファンの反感を買い、「強欲な経営者に立ち向かう団結した選手たち」という図式が出来上がったことによるものだろう。また、選手会長の古田敦也の昼間は団体交渉、夜は球場に駆け付けヒットを放つという姿がファンの心を打った点も見逃せない。

また、オーナー側から見て合併が「失敗」した要因としては、合併判断を当事者間の問題と捉えていた(と思われる)ことが挙げられるだろう。彼らが所属する財界とは異なり、プロ野球は相手があって初めて成立するビジネスだ。どんな人気球団も対戦相手がいてこそチケットやテレビ放映権の収入が見込める。リーグあってこそのわが身なのだ。この点を軽視しNPB全体のコンセンサスを得ることが後回しになっていた印象は拭えなかった。言い換えれば、実は労使の二極対決ではなく、「使」が複数に分裂した三極以上の対立構造であったのだ。

ストライキを中心とする再編問題を経て、ファンは「近鉄」を失った。その点では、近鉄ファンの心情を察するに余りあるのだけれど、全体の方向としてはNPB、特にパ・リーグは健全な方向に向かったのは間違いない。「スト」の04年から日本ハムが東京から札幌へ移転していたこともあり、新加入の楽天の仙台も含め「地域密着型」というビジネスモデルが定着した。これはセ・リーグの「人気球団を中心とする護送船団方式(しかも足並みが時として揃わない)」よりも遥かに健全と言えるだろう。

若いファンの中にはピンと来ない方もいるかも知れないが、昔パ・リーグは大げさに言えば「東京と大阪だけでやっていた」。何せ、79年から88年までは首都圏に西武、ロッテ、日本ハムが、関西に阪急、南海、近鉄の電鉄3球団が集中していたのだから。少年時代は太平洋クラブ→クラウンライター時代のライオンズの熱烈なファンだったぼくは、その時代(本当を言えばさらにその前の時代)にもノルタルジーを禁じえないのだけれど、これでは一部の熱狂的なファンを除くと親会社の体面のために運営されていたと言わざるをえないだろう。

ストライキを経て、パ・リーグの経営は「企業対抗」から「地域対抗」へ変貌し、セ・リーグに人気の点でも引けを取らなくなった。交流戦も始まった(来季から縮小されるが)。ドン底時代のパ・リーグを通じ野球ファンになったぼくは、今でもガラガラの平和台球場で愛するライオンズをぐうの音も出ないくらい抑え込んだ憎っくき鈴木啓示の姿は、ダグアウト上でフライパンを叩きながらややお下劣な野次を飛ばしていた応援団のおじさんたちとともに大切な思い出なのだけれど、今のパ・リーグとプロ野球は当時よりもかなり健全な方向にシフトしてきたと思う。

そのきっかけとなったのも10年前の再編問題とあの2日間のストライキだった。

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke'm Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

(2014年9月16日J SPORTS「野球好きコラム」より転載)