日本酒は世界に認められているのに、韓国のマッコリがダメなのはなぜ?

8月6日、ニューヨーク・タイムズに興味深い記事が載っていました。日本酒の酒蔵が欧州の市場を開拓するために奮闘しているという内容でした。この記事に特に注目したのには理由があります。韓国のマッコリ市場と実に対照的だからです。
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한겨레

8月6日、ニューヨーク・タイムズに興味深い記事が載っていました。日本酒の酒蔵が欧州の市場を開拓するために奮闘しているという内容でした。長い伝統を誇る日本酒の酒蔵は、日本酒がフランスやイタリア料理、さらにはハンバーガーのようなファストフードにも合うのだと説得するため、全世界を飛び回っています。記事で中心的に取り上げられているのは、韓国でもよく知られた天山酒造の若社長、七田謙介氏です。天山酒造といえば1835年から続く九州・佐賀県の銘酒で、七田社長は6代目です。彼は日本酒を世界に伝えるため奔走しながら、切迫した危機感を語りました。「日本酒業界は国内市場だけでは生き残れません。何かを変えなければ、この産業は20~30年以内に滅びてしまいます」

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この記事に特に注目したのには理由があります。韓国のマッコリ市場と実に対照的だからです。最近、韓国のマッコリ製造業者が金に目がくらんだ例をいくつか経験したからです。もちろん、大部分の地方の零細マッコリ製造業者は、まだ辛うじて伝統を守っている方々です。高齢の夫婦が手仕込みで造った銘酒を宅配してくれる業者もあることはあります。そういう方々が、私にマッコリ専門店を開こうと思わせてくれたのです。

しかし、規模がやや大きく、おかげで話題に上ることが多いとみられる業者は違います。マッコリブームの頃はお金にもなり、人々の注目も浴びたのに、市場や消費者、さらには協力会社にも全く関心がありません。マッコリブームが一段落した後もひどいものです。このようなメーカーは、実はよい製品を造って消費者に認められ、市場で売れること自体にさほど興味がありません。政府や大手企業から投資を受けた業者や、投資を受ける予定だった業者ほどそうです。マッコリがもうかるかもしれないと考えて、投資や契約の専門家ばかり雇い入れた会社ほどそうです。こうした会社の目的は、マッコリを売って利益を出すことではなく、他人の金を引き出して使うことではないかと思えるほどです。

私が最近経験した例をいくつか挙げます。

●私が経営するマッコリ専門店「月香」で販売しようと、ある地方で名の知れたマッコリ製造業者とOEM方式(製造を発注した相手先のブランドで販売される製品を製造すること)で供給契約を結ぼうとしました。ところが、戻ってきた契約書を見てびっくり。先方の要求にあぜんとしました。店が業者に5千万ウォン(約500万円)の保証金を払い、保証保険をかけることとなっていました。配送など費用一切は店の負担、製品に問題が生じたときは店が連帯責任を負う、毎月、配送経費を含め900万ウォン(約90万円)以上を売らなければならず、製品は月2回の配送後、2日以内に現金決済、何よりも店側は品質を検査する必要があるのに、製造工程を視察できないという条項まで入っていました。そんな危険なマッコリを誰がお客様に心から薦められるでしょうか。韓国を代表する伝統の酒だと外国人に薦められるでしょうか?

●それだけではありません。かなり以前から、いくつかの業者から製品を仕入れてお客様に販売して来ました。各地方を代表する、丹精込めて造られたマッコリは、消費者に広める必要があると思うからです。ところが、3、4カ月ほど納品すると、必ず品質が激しく低下します。原材料も減らし、熟成期間も短縮します。小規模な業者とのOEM契約では、こちらがレシピを渡して必ず条件を守るよう何度も指示します。でも数日も経たないうちに経費節減と工程の簡素化という名目で、味を台無しにしてしまいます。お客様から品質に苦情が出ても、メーカー側は「自分たちの方が詳しいのだ」と言い張ります。こんなことで外国人はおろか、韓国の消費者に「マッコリをよろしく」と言えるでしょうか。

●我々が人を雇って直接マッコリを醸造しても同じです。マッコリの製造は、明け方に起きて発酵の進み具合や衛生環境を点検しなければならない重労働です。マッコリを製造・販売するだけで利益を出すのは難しいでしょう。それでも品質を一定に保ち、消費者から支持され続けなければなりません。そんなことより投資家の資金を集めようと考えてばかりいるうちに、工場は廃れてしまいます。マッコリに関心があると言う方は多くても、人生を丸ごと投資したいという方を今まで見たことがありません。言葉だけです。

●今日のある新聞に出ていた、かなり有名なマッコリ製造業者のインタビューも、企業家精神とはかけ離れています。この方は、マッコリ産業が中小企業保護のため大企業の進出が制限され、事業に支障が出たと不満を述べていました。おそらくどこかの大企業と契約する予定だったのに、取り消されたのではないかと思います。しかし現在、マッコリにかつてのような人気がない理由は、資金や人材が流入しないからではありません。むしろ資金や人材が過剰に流出したからです。そのため金と人気に目覚めたマッコリ業者の企業家精神が崩壊したのです。しかし消費者や市場には目を閉ざしてしまいます。ベンチャー企業が経営判断を誤るのは資源が全くない時ではなく、資金が溢れる時です。マッコリ産業も同様です。

天山酒造の記事を読んでうらやましかったのは、単に日本酒がグローバルに展開しているからだけではありません。日本酒の酒蔵は100年以上の歴史があり、その中で自らのブランドを築いたからこそできるのでしょう。海外市場への挑戦は私が代行することもできます。しかしそれ以前に、国内の消費者に地道に愛される一貫した品質のマッコリを持続的に生産できなければなりません。地域ごとに特色のある、多様なマッコリです。各地方のマッコリを売る前に必ず試飲する私には、まだ韓国のマッコリ製造業者が精魂込めてマッコリを造れるとは思えません。その点が残念です。

韓国語

佐賀の日本酒 写真集(「佐賀酒ものがたり」より)
鍋島(富久千代酒造)(01 of19)
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鍋島大吟醸。ご存知IWC受賞酒です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
七田、天山、岩の蔵(天山酒造)(02 of19)
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七田、天山、岩の蔵のともに純米吟醸です。\n天山純米吟醸は、残念ながらIWC トロフィー酒にはもれましたが、今や佐賀の実力酒\n七田は東京限定、岩の蔵は北部九州限定です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
東長(瀬頭酒造)(03 of19)
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東長純米酒。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
能古見(馬場酒酒造)(04 of19)
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能古見純米吟醸活性にごり生酒。\nこれは旨かった。楽しめた。アテは佐賀牛を奢った

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
宮の松(松尾酒造場)(05 of19)
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宮の松純米吟醸あらばしり。控え目な色香が気品を漂わせる好ましいお酒です。\nアテは野菜煮浸しにしました。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
松浦一(松浦一酒造)(06 of19)
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松浦一の純米吟醸雄町です。\nやや甘めですが、美味しいお酒です。クラシカルなラベルがいいのですね。\nアテは筍煮です。酒器はボヘミアングラスです。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
天吹(天吹酒造)(07 of19)
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天吹大吟醸冬色です。\nもちろん花酵母使用。香りも味もやさしく飲みやすいお酒です。お値段も手頃。\nアテは聖護院と油揚げ煮。グラスは花酵母にあわせ花柄の江戸切子。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
聚楽太閤(鳴滝酒造)(08 of19)
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「聚楽太閤純米吟醸」です。唐津のお酒です。やや甘めですがすーと流れるようなところが他の佐賀の酒と違うところでしょうか。この軽めの飲み口が、私は大好きです。持論を言わせていただくと、佐賀のお酒は、この聚楽太閤とそれ以外のお酒に分けられる、と思います。この分け方に賛同する人は、今のところ約一名。佐賀駅北口の銘酒居酒屋Sの女将です。器は、唐津焼の中里隆さんです。いい土ものです。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
東鶴(東鶴酒造)(09 of19)
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東鶴特別純米吟醸山田錦荒走り生。ちょっとまろやかなお味が旨い

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
窓の梅(窓乃梅酒造)(10 of19)
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窓の梅濃辛(こゆから)です。プラス15という超辛口です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
肥前杜氏(大和酒造)(11 of19)
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肥前杜氏吟醸白ラベル。飲みやすいやや辛口のお酒です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
笑酒(幸姫酒造)(12 of19)
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幸姫酒造の笑酒【えぐし】です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
宗政(宗政酒造)(13 of19)
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宗政純米吟醸マイナス15です。\n日本酒度マイナス15という超甘口ですが、軽めの酒質楽はしつこさは感じません。\n煮魚などに合いそうです。今夜は太刀魚にしました。\n酒器は琉球漆器です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
万齢(小松酒造)(14 of19)
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万齢純米吟醸無濾過生原酒。辛口だけど旨味、切れもあるバランスの良い酒。小松さん脱帽です。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
前(古伊万里酒造)(15 of19)
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古伊万里前吟醸無濾過生原酒。大好きな平盃でいただいています。この盃、実は蔵元からいただいたもの

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
東一(五町田酒造)(16 of19)
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東一純米酒しぼりたて生酒です。\nぶれないお米の旨さ、さすが東一ですね。\nアテは京から送ってきた玉ねぎの醤油漬け。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
大洋潮(樋渡酒造)(17 of19)
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樋渡酒造の大洋潮にごりざけ原酒です。度数20度まったり濃い。ロックでも美味しい。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
基峰鶴(基山商店)(18 of19)
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基峰鶴の辛口です。純米は燗でいただきました。\nアテの揚げは基山の地元でしか入手できない荒巻商店のです。こんな厚いもの、佐賀では見かけません。蔵元オススメのアテです

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)
菊王将(峰松酒蔵場)(19 of19)
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鹿島の峰松酒蔵場の菊王将純米大吟醸をリーデルの大吟醸ワイングラスでいただいています。このワイングラスは、リーデルが澤乃井、大七、加賀鳶、浦霞、司牡丹、真澄などと共同開発した、大吟醸用のワイングラスです。

佐賀酒ものがたり」(西日本新聞社刊)より\n
(credit:Shigeru Hirao)