大量に特許出願しても、経営危機に陥った企業に学ぶ

シャープである。経営危機が顕在化し始めたのが2009年で、今、再度、危機が叫ばれているが、この間、同社は大量のPCT出願を積み上げてきたのだ。
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特許は国ごとに与えられる権利であるため、何か国に出願するかは悩ましい問題である。また、日本で最初に出願したら、他国での出願はその後12か月以内でなければならないという、優先権主張の期限がある。他国で出願するには、その国の言語に翻訳する必要もある。

これらの面倒を緩和する仕組みがPCT出願(国際出願)である。日本語あるいは英語による1つの出願を日本国特許庁に行うことにより、国際出願日が与えられ、指定する多数の国々への出願日を確保できる。すべて国際出願に対して、新規性や進歩性に関する国際調査が特許庁によって行われ、さらに、希望すれば、特許取得要件について国際予備審査を受けることもできる。各国の国内手続きに移行するまでの猶予期間は30か月と、優先権主張の期限よりも長い。しかし、国際調査や国際予備審査には費用がかかり、その額は1件の出願についておよそ40万円と見積もられている。

世界知的所有権機関(WIPO)は、3月19日に、2014年にPCT出願を利用した出願人の統計を発表した。第1位は中国ファーウェイ3442件、第2位は米国クアルコム2409件、第3位は中国ZTEで2179件だった。読売新聞は、「国際特許出願件数は企業やその企業が属する国の研究開発の実力を知る目安となる」として、日本企業全体としては後退している様子を問題視する記事を掲載している。

ところで、PCT出願件数と世界順位が以下のように推移している企業がどこか、読者は想像がつくだろうか。

2009年 997件 10位

2010年 1287件 8位

2011年 1757件 4位

2012年 2002件 3位

2013年 1839件 6位

2014年 1227件 14位

シャープである。経営危機が顕在化し始めたのが2009年で、今、再度、危機が叫ばれているが、この間、同社は大量のPCT出願を積み上げてきたのだ。同社の国内出願件数は、2010年5416件、2011年5518件、2012年6674件と推移しているから、国内出願のおよそ3割をPCT出願していた様子がうかがえる。

もし、読売新聞の言うように、国際特許出願件数が企業の研究開発の実力を知る目安となるのであれば、高い研究開発能力を持つシャープはなぜ経営危機に陥ったのだろうか。

PCT出願世界第2位のクアルコムは、移動通信関係で強大な特許群を保有している。世界に出回るほとんどすべての携帯電話・スマートフォンから特許使用料を徴収し、膨大な特許収入を移動通信の研究開発に集中投資し、次世代の特許を大量蓄積するという経営を進めている。

シャープと好対照をなす企業であり、クアルコムと比較すれば、シャープは特許という資産を有効活用する能力に欠けていることがわかる。件数や順位に一喜一憂するのではなく、特許戦略という観点から分析しなければ、WIPOの発表の意味は分からない。