危険タックル問題で、日大生が伝えたいこと。日芸映画祭で問いかける「声あげることが大切」

日芸映画祭「スポーツの光と影」が12月13日〜19日、ユーロスペース(東京都渋谷区)で開かれる。

無防備な相手選手に浴びせられた、背後からの激しいタックル。

2018年5月に日本大学と関西学院大学のアメリカンフットボールの定期戦で起きた「危険タックル」問題は、スポーツ界の体質そのものを問う事態にまで発展した。

タックルをした選手本人や、監督・コーチがそれぞれ記者会見を開いて謝罪・釈明したほか、第三者委員会による検証、相手選手から被害届が出される(不起訴)など、大きな影響が広がった。

あれから1年半。タックル問題は私たちに何を残したのか。

同じ日大の学生が、映画祭を通じてこの問題に向き合おうとしている。

芸術学部映画学科が主催する日芸映画祭「スポーツの光と影」が12月13日〜19日、ユーロスペース(東京都渋谷区)で開かれる。

当時「知らないふり」をしてしまったという学生が、なぜいまこの問題を取り上げたのか。

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佐々木尭さん(左)と伊東奈央さん(右)
Rio Hamada / Huffpost Japan

「自分のたちの声を伝えることの大切さ」

発案したのは映画学科3年の佐々木尭(たかし)さん。体罰など報道で取り上げられるスポーツの「影」の部分を目にして、スポーツで何かを表現したいと考えていた。

小中高と柔道をしてきた経験も踏まえて、タックル問題が起きた背景に目を向けた時、「競技スポーツをしている人は、基本同じ方向に向かないといけないので、異論があっても封じ込められたりする風潮がある」と感じていた。

「古い根性論や制度に異議を唱えて、先生やコーチに対してであっても、自分のたちの声をあげることの大切さを伝えていけたら」

そんな思いから、自分たちの大学で起きたタックル問題に向き合う意味を込めて「スポーツの光と影」にテーマを決めた。

問題が起きた当時、大学側の対応にも疑問を感じていた。

「日大は『スポーツ日大』を掲げているのですが、そう言っている上の人たちが会見でだらしのない感じで、スポーツをしていた人間としてそこは言いたいという反骨心もありました」

映画祭を通じて「アスリートの人たちに、今あるスポーツの問題を考えて欲しい」というメッセージも込めた。

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佐々木尭さん
Rio Hamada / Huffpost Japan

「怖かった」テーマに感じた不安

日芸映画祭は今年で9回目。古賀太教授の映画ビジネスのゼミ生がそれぞれアイデアを持ち寄り、例年は「朝鮮半島と私たち」「天皇と映画」といったテーマが選ばれていた。今回は、「移民」「裁判」といった候補の中から、自分たちにも関わるタックル問題を扱うテーマが選ばれた。

「日大生がアメフト問題を定義するのが問題視されるのでは...」

「当時自分には関係ないと思っていた人たちがいたので、ちゃんと向き合っていると思ってもらえるのか」

佐々木さんの提案に当初、そんな不安や恐怖心を覚えたメンバーもいた。 

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映画学科の学生
Rio Hamada / Huffpost Japan

伊東奈央さんは、名古屋で開かれたオープンキャンパスで、タックル問題を理由に「親から反対されている」という受験生からの相談を受けた。身近なこととして捉えていた分、「安易に手をつけてはいけないんじゃないか。お遊びのように見られたらまずいと思ったので、このテーマですごく怖かった」と打ち明ける。

一方で、同じ日大でも、学部や分野も異なり、キャンパスも離れた映画学科の学生にとって、どこか「人事」のようにも写っていた。それでも佐々木さんの熱意が伝わり、少しづつ賛同を得ていった。

「メディアで『日大』『日大』と出ていて、正直早くその話題が消えて、忘れて欲しいと思っていました。この問題を見返す意味について佐々木さんの熱い想いを聞いて、これは日大生として考えないといけないことなのかと感じました」(田迎生成さん)

「普通のニュースと同じで関係ないという目で見ていたのですが、『日大』というひとくくりで自分たちも判断されているという状況になった時に、当事者じゃない分、発言する機会がなくてもどかしさを感じていました。それを今回、自分たちの意見を出せる機会が来たので賛同しました」(石原空さん)

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談笑する映画学科の学生たち
Rio Hamada / Huffpost Japan

選手らを招いてシンポジウム

企画を進める上でアスリートたちの意見を聞きたいと、スポーツ科学部の学生や選手を招いて11月15日にシンポジウムを開いた。

アメフト部員の参加は叶わなかったが、「スポーツを映画という切り口で考えたことがなかった」「斬新」といった好意的な反応が寄せられたという。こうした対話を通して、当初抱いていた不安は徐々にほぐれていった。

2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えて、映画祭は「スポーツが美化がされている」という疑問も投げかけている。

大浜衣(きぬ)さんは企画をきっかけに、運動技能で成績・評価をつける学校の体育の授業の枠組みが、スポーツへの苦手意識を植え付ける要因だと感じたと語る。

「根本的に教育の現場から問題があったのではと感じました。スポーツを嫌いと思っている人たちも、部外者だから関わらないのではなくて、むしろ問題提起していかないといけないと思いました」

イチ押し作品は?

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『疑惑のチャンピオン』
©︎2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED.

映画祭では17本の作品が上映される。約50本の候補から絞り込み、権利元の海外の配給会社と交渉したり、直前で作品を入れ替えたりと苦労の連続だった。

佐々木さんの一押しは、ツール・ド・フランスを7連覇したランス アームストロングのドーピング疑惑を描いた『疑惑のチャンピオン』(2016年)。アームストロングと同じレースに出走した経験のある元プロロードレーサーの栗村修さんのゲストトークも開かれる。

プロボクサーの恋愛模様を描く『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(2016年)は、2016年カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門作品賞。1月の国内上映を前に先行上映する。

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『オリ・マキの人生で最も幸せな日』
©︎2016 Aamu Film Company Ltd

アメフト映画として当初、日大が創立100周年を記念して制作した、日大アメフト部のストーリーを描いた『マイフェニックス』(1989年)が候補に上がっていた。

大学や配給会社に問い合わせたところ、フィルムが存在しないと言われて断念したが、佐々木さんは「100周年記念作品なので、絶対にどこかにあると思うのですが...(笑)」と話した。

現代の価値観とは相容れない「スパルタ」を題材にした作品や、スポーツと性の問題を描いた『セックス・チェック 第二の性』(1968年)など、日本スポーツの「影」の作品も揃えた。

「作品選定で気付いたのは、邦画は、初めはスポーツが娯楽みたいなもので、『花形選手』(1937年)といったほのぼのした作品。年代を追うごとに精神論が強くなって、現代に近づくと『スポーツいいよね』という作品が多くなってくる。基本的にスポーツの『光』を扱っている作品がほとんどで、野球やボクシングが多いです。反対に海外映画は、邦画と比べて問題提起したような作品が圧倒的に多いなと感じました」(佐々木さん)

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『セックス・チェック 第二の性』
©︎1968 KADOKAWA

映画祭は一般1300円、学生・会員・シニア1100円、3回券2850円。1日4作品が上映され、作品監督やゲストによるトークショーも開催する。スケジュールは公式サイトまで。

「スポーツを入り口に映画を好きになって欲しいです。それから、映画祭を見た若い人や指導者が、変わっていない日本の古い体制や習慣に疑問を持ってもらえたらいい。また、若者が疑問に思ったり発信したりすることの大切さに気づいてもらえたら嬉しいです」(佐々木さん)

危険タックルをした選手は今シーズンで引退を迎える。11月に実戦復帰し、12月1日に今シーズンのリーグ最終戦に出場し、勝利を飾った。

佐々木さんら映画学科の学生も、同じ日大生として、スポーツ映画を通じて自分たちの声を届けようとしている。

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映画祭「スポーツの光と影」
日大芸術学部映画学科提供
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『長距離ランナーの孤独』
©︎Images courtesy of Park Circus/Woodfall Films