2020年を見据えたセミナー「木材調達とボルネオの森林」開催報告

ボルネオでは過去25年間で森林が約3割減少しています。

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WWFジャパンは2016年10月5日、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会へ向けた木材調達に関するセミナーを開催しました。これは、大会関連の建築需要の高まりを見据え、日本が多量の木材を輸入しているボルネオから、森林保全に取り組むWWFのスタッフや、持続可能な木材生産・販売に取り組む企業を招聘し、その現状や課題、2020年へ向けた期待を解説するものです。

「持続可能な木材」とは?

今回のセミナーには、木材の生産・加工・販売企業や報道関係者など60名あまりが参加しました。

最初に、WWFジャパン森林グループの橋本務太から、世界で多くの森林が急速に失われ、その森に生息する野生生物が危機に瀕していること、特に熱帯地域における影響は深刻であることを説明。

ボルネオでは過去25年間で森林が約3割減少しています。

ボルネオ産材を多く消費している日本が、資源を調達する際は「合法性」だけでなく、環境や地域社会にも配慮した「持続可能性」を考慮するべきであると強調。

また法整備や遵守徹底が充分でない国、合法性の証明システム自体に課題がある国の存在を指摘し、現地事情の正確な把握とリスク管理が充分になされた「責任ある購入」が、森林保全へとつながると話しました。

インドネシア・カリマンタンの現状と課題

続いて、WWFの森林保全プログラムである「グローバル・フォレスト・トレード・ネットワーク(GFTN)」代表のジョコ・サルジトは、ボルネオ島のインドネシア領カリマンタンの現状について話しました。

カリマンタンでは2009年から2014年の5年間に、約140万ヘクタール(東京都の約6.4倍)の森林が失われたことを説明。

ボルネオ島の中でも特に貴重な生物多様性を誇る地域「ハート・オブ・ボルネオ」でも、オランウータンやサイチョウなど、多くの希少な野生生物が危機に瀕していると報告しました。

次に、インドネシア国内で遵守が義務付けられている2つの森林管理システムについて、それぞれ合法性と、持続可能な森林資源の利用を担保する仕組みを解説。その内容や評価基準、実際の現場で効果的に実施できているかという面において、まだ不十分な点があることを指摘しました。

まだ制度が整いきっていない地域でこそ、国際的な基準下で環境や野生生物、地域社会への配慮が担保されるFSC(Forest Stewardship Council®)認証の取得が、信頼性や透明性の担保に繋がることを述べ、2020年のオリンピック大会組織委員会が提言する木材調達基準との適合性にも言及しました。

現在カリマンタンには14カ所のFSC®認証林があり、今後更なる拡大も見込まれています。2020年へ向けてより多くの企業が持続可能な木材を積極的に選択することで、ボルネオの森林保全の取り組みを加速したいと期待を述べました。

持続可能な木材生産の現場から

次に、FSC®認証を取得し、カリマンタンで持続可能な木材生産に取り組んでいる企業「アラス・クスマ・グループ」のプトラ氏より、その取り組みの紹介がありました。

例として挙げたのは、保護価値の高い森林や野生動物の食物となる樹種の特定や、野生生物の調査に基づいて実践する森林の「低インパクト伐採」、地域住民の土地所有権への配慮や苗木の育成と植林なども含めた管理計画です。

その他にも地域住民と共同で違法伐採を防ぐためのパトロールや、地域の新たな収入源となる持続可能な産業の開発など、多岐にわたる取り組みを実施しています。これらの活動には、WWFも森林保全の一環として支援してきました。

また、伐採直後の森と5年後にその森が再生した比較写真を紹介。

持続可能な森林管理が奏功し、複数回の伐採後でも森林が良好に保たれ、多くの野生動物が生息している状態を報告しました。

一方で、木材市場ではまだ持続可能に生産された商品の認知度が充分でないことも指摘。「木材を扱う企業こそ、森林の保全や地域貢献にも目を向けてほしい」というメッセージを述べました。

マレーシア・サバ州の森林管理の現状と課題

続いて、WWFマレーシア・サバ・オフィスのニコラス・フォンは、サバ州の現状について話しました。

サバ州では2005年から2015年の10年間で、100万ヘクタール以上の森林が失われました。

サバ産木材の20%程度は日本に輸出されていることから、日本を含む市場の木材調達の在り方が、サバ州の森林に大きく影響してきたと伝えました。

マレーシアでは森林の所轄が各州の政府に委ねられているため、サバ州独自の合法性基準があります。

仕組みの整備は進んでいるものの、まだ課題は多く、文書上の情報と現場の実情が異なる場合も多々ある為、本当に信頼できる製品を見極めて調達すべきであると強調しました。

現在FSC®を取得済である12カ所の森林は、2か所のみが伐採対象であり、残りの森林は資源量の回復にあてられている状態です。

2020年へ向けて、持続可能な製品需要の高まりが、木材生産国での持続可能な森林管理の普及拡大を後押ししてくれることを期待したい、と話しました。

持続可能な木材の流通の現場から

次に、サバ州に本社があり、多くのFSC®認証木材を世界各地に輸出入する貿易会社「マッコーリ―グループ」のヤップ氏は、企業が持続可能な調達を選択する意義を述べました。

「豊かな森を保全し、良い状態で次世代へ引き渡すことは、現代に生きる我々が果たすべき義務である」と述べ、木材を扱う企業こそ、限りある森林資源の保全と、責任ある購入・販売に真剣に取り組むべきだと強調しました。

また、持続可能な木材を調達することは、顧客の信頼獲得や、サプライチェーンリスクの低減、提供価値の向上にもつながると言及。

資源の生産から消費までの背景が追跡可能であり、環境や地域社会にも充分配慮した上で、国内基準・国際基準ともに満たす証明となるFSC®認証材を選択する意義を説きました。

マレーシア・サラワク州の森林管理の現状と課題

続いて、WWFマレーシア・サラワク・オフィスのジェイソン・ホンは、サラワク州の現状について話しました。

サラワク州では2005年から2015年の10年間で、約260万ヘクタールの森林が失われたこと、その多くは沿岸部の低地における農業プランテーションへの転換であることを説明。

保護区域以外の森林は既にほぼ失われている為、これからの国際的な需要に対しての木材供給ができるのかという懸念や、自然林の減少と共に木材生産量が年々減少傾向である一方、植林地での木材生産量が増加する中、伐採後の植林がなされていない地域が存在していることも報告しました。

次に、サラワク州の合法性証明システムにはまだ課題が多いことや、FSC®認証取得林がない現状も指摘。

サラワク州政府も2015年に森林犯罪の制裁を強化した新たな森林法を制定したこと、合法性証明システムの改訂なども進めているものの、新たなシステムが現場での木材の合法性を証明できるかは不透明であると指摘しました。

マレーシアが輸出する合板の約3/4は日本向けであること、そしてマレーシア産合板の輸出総量の7割はサラワク産であることから、日本が「責任ある木材調達」にどれくらい真剣に取り組むかが、サラワク州の森の未来に大きく影響すると強く述べました。

2020年の東京大会をサラワク州の森林管理の改善の契機とするためにも、日本企業には持続可能な調達へとシフトするビジネスチャンスと捉えてほしい、と伝えました。

持続可能な木材利用で森林保全を

セミナーの終盤では、WWFインドネシア森林コモディティリーダーのアディタヤ・バユナンダから、ボルネオの森林保全にはまだ課題もあるものの、この数年間で確実に進展している地域があること、そして持続可能な方法で管理すれば森林は再生し、継続的に利用ができることを改めて説明し、原産国と消費国が連携した、森林保全の取り組みの必要性について話しました。

また、熱帯の国でFSC®が取得できない理由の一つである94年ルール(1994年11月以降に自然林を転換して造られた人工林を含む管理区画は、通常、認証の対象とはならないというルール)についても改定の議論が進んでおり、一定の条件下で取得できるようになる可能性が高いことを報告。

FSC®のルールが改定されてから森林管理の改善に取り組むのではなく、今から準備を始めることが重要であると指摘しました。

もちろん、保護区のような厳正に保全すべき地域の選定は必要ですが、その一方で、単純に「伐らない、使わない」という極端な取り組みでは、抜本的な課題解決はできません。

森林減少の背景にある多様な社会問題や、木材生産や流通・販売に携わる多くの人々や地域住民の暮らしの改善には、「持続可能な水準で利用可能な量の木材を生産する」ことが重要です。

2020年へ向けて、日本はロンドン、ソチ、リオに続く「持続可能」な大会運営を実現し、次の会場へとバトンを繋ぐことが、世界から期待されています。そのためにも、持続可能な木材の調達を積極的に選択していく必要があります。

WWFはこれまでも、オリンピック大会を「持続可能な社会の実現に向けた変革のチャンス」と位置づけ、国内外でさまざまな働きかけを行なっています。

2015年 10 月にはWWFジャパンも、東京大会を「持続可能」に実現するための提言「One Planet, One Future 一つの地球、一つの未来」を発表。

大会建造物のための建材や、選手村で提供される食材などの調達において、地球環境の保全に配慮した国際的な認証制度を取得した産品の活用を求めてきました。

限りある資源を、未来へとつないでゆくために。

WWFはこれからも、環境に配慮した木材、紙、パーム油、水産物の生産・利用拡大や、自然エネルギー利用の普及拡大を目指して活動を続けてゆきます。

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