東京オリンピックと医療通訳

オリンピック・パラリンピックで世界中の注目が東京に集まる中で、言葉の壁のない医療サービスの提供ができれば、今後のさらなる国際医療への貢献につながるであろう。
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Workers hang a banner celebrating the city's successful bid to host the 2020 Summer Olympics as they prepare for an official event by the Tokyo Municipal Government to report the news to Tokyo citizens at the government office square in Tokyo Sunday morning, Sept. 8, 2013. The International Olympic Committee announced Tokyo as the host city of the 2020 games in Buenos Aires, Argentina. (AP Photo/Shizuo Kambayashi)
ASSOCIATED PRESS

東京オリンピック、パラリンピックの開催が5年後に迫っている。多くの外国人観光客の来日に備え、想定される様々なトラブルを未然に防ごうと、多方面で準備が進められている。そうした中で、医療面における大きな課題は外国人救急患者への速やかな対応である。そのために私が主張したいのが、医療通訳のさらなる拡充だ。

約20日間のオリンピック期間中には、80万人もの外国人が東京を訪れると予測されている。2014年の訪日外国人のデータから、中国語、韓国語、英語以外を公用語とする国の人々は約20%を占める。オリンピックでは、さらに世界中からの競技者のみならず、これまで日本に全く馴染みのなかった国々の人が観客として多数来日すると考えられる。つまり、いつも以上の高い割合で、英語や中国語など主要言語以外の言葉を話す人々が東京を訪れることは明白だ。

医療面のインフラ整備に目をやると、日本の高度な医療技術とその医療費の低さは、世界の中でも特筆すべきものがある。急性虫垂炎に対する手術+入院(約1週間)を例にとると、国内では国民健康保険による3割負担で約10万円、100%自費だとしても、30万円強である。アメリカでの場合、手術+入院(1日)で1万ドル以上の請求となる。外国人救急患者への外国語での対応については、すでに他言語対応への取り組みが進められているものの、救急電話(119)による直接の相談は、日本語の他には中国語と英語でしか対応できていない。一刻を争う緊迫した救急の現場で意志疎通に困難をきたしていては救命の機会を逸することになりかねない。

東京消防庁による救急搬送件数およびその内訳のデータから、オリンピック期間における東京都内での外国人(平均滞在日数予測5日間)の救急搬送件数を試算すると、1日あたり約30人であった。あくまで、東京で日常生活を行っている日本人を中心とした数値からの試算であるが、開催日程が真夏の炎天下であり、日本特有の高温多湿な気候に外国人が慣れていないことを考えると、熱中症の多発も懸念され、さらなる外国人救急搬送件数の増加が見込まれる。

その搬送例には、心筋梗塞や脳卒中などの重篤なケースも含まれることになるため、言語が対応していないために救急車を呼べない、救急車が来ても病状の把握を出来ない、という事態は絶対に回避せねばならない。

そこでこういった課題解決のためには、医療通訳が有効だと考える。具体的には、医療の基礎知識(バックグラウンド)を持った認定医療通訳者の採用を充実させること、もしくは医療用語を含めた多言語の音声を翻訳できるアプリを開発することなどが挙げられる。安全な東京をアピールする上でも、東京オリンピック、パラリンピックを大成功に終わらせるためにも、このような整備により幅広い医療面での救急事例への対応が重要となってくるはずである。

さらに、オリンピック・パラリンピックで世界中の注目が東京に集まる中で、言葉の壁のない医療サービスの提供ができれば、今後のさらなる国際医療への貢献につながるであろう。ひいては、優れた日本の医療環境への信頼の高まりが、オリンピック、パラリンピック後でもさらなる外国人旅行者数増加をもたらすであろう。まさに一石二鳥の投資になるというわけだ。