プログラミングを6歳の女の子にも 北欧から世界に広がる女性プログラマの輪

女性向けの無料プログラミング・ワークショップとして2010年に始まった「Rails Girls」創始者のリンダ・リウカス(Linda Liukas)さんは最近、子どもたちにプログラミングを教えるための絵本を描いている。

どうやったら6歳の女の子に「ガベージ・コレクション」や「抽象化」というプログラミングの概念が分かるのか? 女性向けの無料プログラミング・ワークショップとして2010年に始まった「Rails Girls」創始者のリンダ・リウカス(Linda Liukas)さんは最近、子どもたちにプログラミングを教えるための絵本を描いている。主人公は、Rubyという名前の女の子だ。

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「フィンランドでは2016年から学校でプログラミングが必修になります。7歳以上、男女問わずです。ですが、これまでは小さな女の子もプログラムをやるべきだ、と言う風になっていませんでした。私は女の子にもプログラミングをやってほしいと思っています。なぜなら、プログラミングやソフトウェアといったものは、もう世界中どこにもあるものですから」

リンダさんが描くのは、プログラミングの概念を日常生活にたとえた一種の喩え話だ。

プログラムの実行には順序が重要である。これは、朝の着替えのときには先にパジャマを脱がないとだめという絵になる。コンピューターもこれと同じで、順序を指示しないといけない。ガベージ・コレクションは部屋の中に散らかったモノやゴミとして説明する。お洋服のコレクションを分類するには、グループに名前を付けることが大切。プログラミングでも正しい名前を付けることは極めて重要だ、といった具合。こんな風にして、反復、選択、関数、変数、アルゴリズム、抽象化、デバッグなど、全部で12個のプログラミングの基礎が学べるという。

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「女の子は集中力もあるし、ストーリーを語るのも大好き」だから、絵本で小さな女の子がプログラミングを学ぶのを支援しようとしているのだという。「Hello Ruby」と名付けられたこの絵本はKickstarterのプロジェクトとして9258人の支援者から総計38万ドルもの資金を集め、2015年10月に英語圏で大手出版社のマクミランから出版予定という。具体的な予定はないものの、リンダさんはこの絵本を日本でも出版したいという。

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来日中で、東京・広尾にあるフィンランド大使館で2月18日に講演をしたリンダさん。集まった少数の報道関係者に向かって、自身の活動について紹介する中で、なぜ女の子たちにプログラミングを教えるのかということについて、こう語った。

「全ての会社が近い将来、ソフトウェアの会社になるからです。例えば林業はソフトウェアじゃないという人もいます。そこには森と木があるだけだ、と。でも、そんなことはありません。どの木材を伐採するのかは、市場価格を見て計算して決定したりしています。銀行もソフトウェアの会社になるでしょう」

「いまの大人が子供の頃には、コンピューターは大きな部屋にも収まりませんでした。でも牛乳パックにコンピューターを入れることすらできるようになる。日本ではトイレがコンピューターだという話をすると子どもたちは笑い出しますが、もうどこにでもコンピューターがあるんです。自動車にも、犬の首輪にも、お店にも」

「だから、もっとプログラマが必要だし、プログラマと同じ言語を使って話をができる人がもっと必要です」

実用目的だけではなく、プログラミングには自己表現の側面もあるとリンダさんは言う。

「今後、世界で生きていくのに必要な言語は、中国語、英語、JavaScriptだという人もいます。もしJavaScriptが新しいリンガ・フランカになるのだとすれば、文法の授業はもう不要です。むしろ詩の勉強が必要です。プログラミングは、自己表現の道具。クレヨンやレゴと同じです」

リンダさんは13歳のときに、自分の力でホームページを立ち上げた経験があるものの、それっきり10年後までプログラミングを深く学ぶことがなかったという。ビジネススクールのバックグラウンドを持つリンダさんだが、かつてプログラミングや数学は退屈なものだと想像していたからだ、という。

「でも、プログラミングは世界を変えるいちばんの方法だと思うようになったのです。だから、もっとプログラミングの世界に多様性を持ち込もうということ。そのための活動がRails Girlsです」

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2010年11月にフィンランド・ヘルシンキで単発イベントとしてリンダさんが企画した女性向けの無料プログラミング・ワークショップの「Rails Girls」は、これまでに227都市で開催され、参加総人数は1万人以上を数える規模に成長している。その活動はグローバルで、北京の人がブラジルのボランティアの人を助けるようなことが起こっているという。

Rails Girlsは週末を使ってソフトウェアを作る体験をするワークショップで、その場で作って楽しめるという特徴があるという。参加者はアプリ開発フレームワークの「Ruby on Rails」を使って何らかの「リスティングアプリ」を作る。「シンガポールだと、かわいい赤いハイヒールのコレクションを集めるアプリ、ヘルシンキでは観光名所ランキングといったふうに、いろんなアイデアが出てきます」。

Rails Girlsはグローバルなボランティアコミュニティとなっていて、多くは職業Rubyプログラマ、中でも多様性が重要だと思っている人々に支えられているという。Rails Girlsで使う資料やガイドなどはボランティアの手によって各国語に翻訳されていて、これを使うことに特別な許可は必要ない。ガイドには、どうやってアプリを作るかとか、どうやったらワークショップが楽しくなるのかといったことが書かれている。興味深いのは、教える側と教わる側の比率が、そんなに違わないこと。逆に言えば、教える人たちの割合が高いことで、Rails Girlsが「講習」というようりも「コミュニティ」となっている様子が伺える。

Rails Girlsのノウハウはオープンに共有されていて、利用に多くの制限はない。ただ、有料の職業訓練のようなものではないので、参加を無料とすることが必須条件となっている。強いニーズが存在していることから、事業化の誘いや問い合わせもリンダさんのところにあるそうだが、あくまでもボランティアベースの無料講習にこだわるという。「世の中に与えるインパクトのほうが、私にとって大事だから。それに、フィンランドのような小さな国だけじゃ考えられなかったような書籍市場があって、アーティストの私にとってはそれで十分なんです」。

日本でRails Girlsの活動に取り組む株式会社万葉の鳥井雪さんも、IT業界の男女比のアンバランスを是正したいと考えている。日本のソフトウェア業界の女性比率は19%に過ぎないという統計を引用して、鳥井さんは言う。

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「これは男性にとっても居心地が悪く、男性・女性のどちらにとっても良くない。日常と同じぐらいにしたほうがいい。そのためには女性にIT技術に触れてもらうこと。より普通のバランス、多様性の保たれた業界にしたい」

Rails Girlsは日本では2012年9月に参加者25人、コーチ・スタッフ16人でスタート。その後、京都や名古屋など10カ所で開催され、これまでの総参加者数は230人。参加者が主催者側に回るという流れも出てきているという。もともとRubyのようなプログラミング言語は、各地に言語別コミュニティが存在しているが、Rails Girlsは、こうしたコミュニティへの入り口としての機能を果たしているという。Rails Girls出身者の中には自主的に勉強会を継続する人や、エンジニアとして就職した女性も出てきている。

女性向けというと「逆差別ではないか?」という話も出てくるそうだが、これに対して鳥井さんは、こう言う。

「中学校では1958年に男子は技術、女子は家庭科が必修とされ、男女とも技術が必修となったのは1993年のこと。つまり、現在の30代女性は義務教育の中で技術教育に触れる機会を奪われてきたのです。Ruby言語の言語設計思想に多様性は善というものがある。もっと多くの人に技術の楽しさを知ってほしい」