徒歩帰宅訓練、やってみました ! ~そうか、そうだったのか! 点と点がつながる地上踏査:研究員の眼

災害は会社にいる時に起きるとは限らない。外出先で起きるかもしれない。その意味で、日頃よく行く所からどのように帰宅するかをシミュレートしておくことも必要である。
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25㎞の徒歩帰宅訓練

5月の連休に、自分にとって以前から懸案事項だった、会社から自宅まで徒歩による帰宅訓練を敢行した。

直接のきっかけは4月に発生した熊本地震であったが、5年前の2011年3月11日、実は、筆者はたまたま在宅勤務で出社しておらず、多くの人が経験した"帰宅困難"を知らないのである。

会社(千代田区の市ヶ谷)から自宅(東京都西部の市部)まで直線距離22㎞・道距25㎞を、還暦を過ぎ膝も完全ではない身体がどこまで耐えられるのか。

どのルートがベストで、何時間かかるのか。ある知人は千葉市まで8時間かかったと言い、別の知人は途中で断念して会社に戻ったと言う。

山手線を越すまでが一苦労

さて、帰宅開始。Gパン・Tシャツ・運動靴。ペットボトル一本、ベーグル一個を通勤用リュックに詰めて、折畳式(紙製)の地図を手に会社を出たのが午後4時。晴れ、気温21度。風はやや強いが、歩くには悪くない。まず「靖国通り」に出て、防衛省を右に見ながら新宿方面をめざす。

この道を歩くのは初めてではあったが、1kmほど行くと、さっそく"ややこしい"陸橋が出てきた。そのため、1分で済むところをあちこちウロウロして15分も費やした。

夜ならば、間違いなく迷っていた。ここに限らず、都心部は大きな道路が錯綜し、様々な建物が密集しているため、路上で地図を見ても位置関係がつかみにくい。交差点、特に三叉路は悩ましい。それでも進むしかない。

新宿に近づくにつれ、歩道は狭くないが混み始め、前から来る人も増えてきた。かなり歩きにくい。いろんな外国語も聞こえてくる。新宿って、こんなに人が多いのかと改めて驚いた。実際の災害時には、この何倍にも膨れあがるだろう。

人混みの中を何とか歩いて行くと、前方を塞ぐように横切る「新宿大ガード」が見えてきた。JR山手線など何本もの線路が通るこの大ガードで、靖国通りは終わる。時計を見ると、午後5時半。地下鉄なら3駅だが、5kmの距離を1時間30分かかったことになる。

景色は一転、視界が広がり、ひたすら歩く

大ガードをくぐると、そこから「青梅街道」が始まる。左には高層ビル群が真近かに迫るが、急に人通りは減り、視界が広がる。ここからはひたすら西に向かって20㎞歩くのみ。

車道の車が勢い良く横を追い越していく。こちらも自ずと速足となった。日が暮れてきて中野坂上を通過。午後8時に荻窪でJR中央線を斜めに横切った。この辺りで帰宅半分。

ただ、そのまま進むと自宅から北に逸れるので、どこかで玉川上水に沿う五日市街道に入る必要があるが、歩きながら判断せざるを得ない。

途中、「五日市街道入口」という交差点もあったが、ここは見切って少し先の三鷹付近で入ることにした。商店街の明かりで、歩道はまだ明るい。

やがて大きな三叉路にさしかかると、思いがけなく「五日市街道方面」の標識が街灯の薄明かりの中でみえた。既に午後9時を過ぎて人通りはなく、想定したルートではないため不安もあったが、意を決してそちらに進んだ。

暫く行くと、武蔵野大学前の五叉路に出た。ここでも悩んだ。しかし、何と幸運なことか、偶然にも「鈴木街道」の小さな看板を発見したのである。これは、日頃通勤で通る自宅のそばの道である。

そうか、ここが始点だったのか。それなら、このまま行けばよい。驚きと同時にほっとして、急に自宅に近づいた気がした。あと5km、急ごう。体調も特に問題ない。住宅街の夜道ゆえ、すれ違う人はほとんどいない。

やがて、「都立小金井公園」の北側に出ると、見慣れた地形や建物が増えてきた。後は時間の問題。そして、10時半、ついに自宅にたどり着いた。途中三回ほどベンチで休憩したが、6時間30分の徒歩帰宅であった。平均時速3.8km。これは人の通常歩速よりやや遅い。

点と点がつながり、新発見の連続

今回地上を歩いて分かったのは、自分が知っている地名と地名が道路を介してつながり、いわば点と点がつながり面的な広がりができたこと。それゆえ方向感覚も確実になった。

また、地下鉄がどの道路の下を走っているのかも分かった。特に、山手線内(西半分)の"ナビゲーション・マップ"が頭の中にインストールされた感じである。

日頃、仕事や生活で当然のように電車に乗る。郊外部では地上の車窓風景があるため、自分がどこにいるかわかる。

しかし、都心部の地下鉄では乗り降りの駅名は確認するが、どこをどう走っているのか、ましてや地上ならどの辺りなのか、ほとんど意識したことがない。ここが帰宅困難の一つの盲点かも知れない。

あぁ、ここだったのか、と歩きながら様々な"発見"もあった。細かく言えばキリがないが、上述の鈴木街道の発見は、私にとって今回の徒歩帰宅訓練における最大の発見だったと思う。やはり、事前に地上踏査しておくことで、"帰宅"に関する様々な情報を得ることができると確信した。

頭の中の"ナビゲーション・マップ"が必要

ただ、実際の災害時には雨風雪もあろう。猛暑あるいは酷寒かもしれない。今回、トイレは道筋のコンビニに二回寄った。多くの"帰宅民"が道に溢れる場合、都県や自治体、また企業も対策を講じているとは思うが、トイレだけでなく、円滑な食事・水補給や一時避難などにも期待したい。

災害は会社にいる時に起きるとは限らない。外出先で起きるかもしれない。その意味で、日頃よく行く所からどのように帰宅するかをシミュレートしておくことも必要である。

その際役に立つのが、頭の中の"ナビゲーション・マップ"であろう。その範囲を広げ、かつ精度を上げるために、いつかまた会社とは異なる地点から徒歩帰宅してみようと思う。

関連レポート

(参考)東京都防災マップ 帰宅支援対象道路一覧

帰宅ルートの全体イメージは、東京都のホームページ「東京都防災マップ」の帰宅支援対象道路のカラフルな地図を基に事前に決めていた。当日の通信事情がよければ、スマホも役に立つと思う。

(2016年6月10日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 上席研究員、ESG研究室長