アメリカ、EU、そしてチベット。ダライ・ラマ14世、世界の「分断」と「統合」を語る

「私たちは同じ人間です。私の国、私の大陸、私の宗教、というのは古い考え方です。地球上の70億人が一丸とならなればならない時代になりました」(ダライ・ラマ14世)
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「お元気そうで嬉しいです」と挨拶をする私に、その方は穏やかに「表情だけ見れば60歳に見えるでしょう」と、微笑んだ。チベット仏教の最高指導者・ダライ・ラマ14世(81)。観音菩薩の生まれ変わりとされ、世界中の仏教徒から尊敬を集める彼は、冷たい風が肌をさす冬の日、大阪にいた。私は「報道ステーションSUNDAY」で特別な許可をいただきインタビューさせていただいた。

冒頭の発言でもわかるとおり、実際のダライ・ラマ14世は実に気さくで、お茶目という言葉がぴったりである。出会った誰をも暖かく包み込み、優しく癒すそんな空気をまとった方だった。

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インタビューをした時期、アメリカではトランプ氏が大統領選挙で勝利をおさめ、世界中が「トランプショック」に揺れていた。ダライ・ラマ14世も日本でそのニュースを見ていた。

結果についてどう思うかと尋ねると「驚きはありません」という。

「(選挙は)かなり洗練されたものだと思いますよ(笑)政策だけでなく個人的なことについて議論していましたしね。まあ気にしません。人間の社会ですからね。

表現などの自由や民主主義など、アメリカは成熟した国だと思います。だから今回の選挙も、人々の表現の自由を示したものだし、多くの議論を経てアメリカの人々がそのように選んだのであれば、受け入れなくてはなりません」

あくまで民主主義的選挙で決まった結果は受け入れるべきというダライ・ラマ14世だが、アメリカ大統領選挙やEU離脱を決めたイギリスでも、選挙結果を受けて国内の意見は対立し「分断」が起きている。そのことをどう考えるのだろうか。

「私はEUの精神をたたえています。チベットの問題にしても、歴史的に難しい状況がありますが、将来を見据えています。だから先ほども申し上げましたが、人間は1つであると認識しないといけません。そして最終的には、世界は1つだと認識する必要があります。

EUの精神は素晴らしいと思います。イギリスがそうは考えなかった(EUを素晴らしいとは思わなかった)のには最初少し驚きました。しかし、イギリスもまた民主主義国家であり、国民投票で離脱派が多かったわけです。ならば、彼らには自分の未来を選択する権利があります」

EUの精神でもある「統合」をたたえながらも、人々の選択する権利は尊重すべきと語る。ちなみにトランプ氏に会う予定はあるかと聞いてみると、「そのつもりですよ」との答え。メキシコ国境に壁を作るとか、移民受け入れを好まないなど、トランプ氏の考え方はダライ・ラマ14世のものとは異なるように思うのだが。。。

「私とはまったく対照的(反対)ですね。ユナイテッド・ステイツという名前はまさに「統合された州」のことですよね。その考えの中においては、メキシコも含まれるべきです。大きなユナイテッド・ステイツになるのです。こういう考え方は現在、必ずしも現実的ではないかもしれませんが、将来を見据えないといけません。分裂が生まれた状況で、いわゆるナショナリズムが芽生えれば、この世紀も戦い、騙し、しいたげる「悲惨な世紀」となるでしょう。だれもそんなものは望んでいません。

私たちは同じ人間です。私の国、私の大陸、私の宗教、というのは古い考え方です。地球上の70億人が一丸とならなければならない時代になりました」

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ダライ・ラマ14世自身、「分裂」の中で戦う人生である。1951年、中国の人民解放軍がチベット・ラサに進駐。その8年後に彼は24歳でインドに亡命した。チベットの「高度な自治」を求めているが、中国政府からは「分裂主義者」と敵視されている。

「私はダライ・ラマ制度は、もはや重要だとは考えていません。制度を継続するかどうかはチベットの人々が決めることです。中国から物質的に多くの恩恵を受けています。

一方、チベット側には非常に豊かな精神性があります。経済的には中国の一部として残りながら、精神的には解放されるべきです」

自らが「16歳で自由を失い、24歳で自国を失った。それから57年以上多くの問題に直面してきた」という波乱の人生でありながら、心の中は平穏である、というダライ・ラマ14世に、どうすれば心の平穏を保つことができるのか、最後に聞いてみた。

「知性と意志の力があれば、平穏な心を保てるのです。ある素晴らしい仏教の師の助言があります。

『問題や惨事に直面した時は、その惨事について考え、分析しなさい。克服する方法があるならば、心配する必要はない。頑張りなさい。克服する方法がないならば、心配しすぎるのは無駄だ』

克服する方法がないのに心配しすぎると、悲劇がますますひどくなりますよ」

そう言うと、彼はにっこり微笑んだ。