リオ五輪直前:青木功に聞く(上)若手プロゴルファーたちへの違和感

「人」を育てたい。そう青木功に感じさせた理由は、いまの若い選手たちが、プロゴルファーである以前に大切な挨拶や礼儀がなっていないことからだ。
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日本人初の米ツアー優勝、海外19勝(シニア含む)など通算85勝を記録し、2004年には日本男子初の「世界ゴルフ殿堂」入りを果たした「レジェンド」「世界のアオキ」ことプロゴルファーの青木功氏が、今年3月、男子プロゴルフツアーを統括する「日本ゴルフツアー機構(JGTO)」会長に就任した。現役のプロゴルファーとしては初代の故・島田幸作氏以来。

常々「歩けなくなるまで生涯現役」と公言してきた青木プロは、これまで幾度も就任要請を受けながら固辞してきた。それがここにきて、自身の現役生活をなげうってまで要請に応じたのは何故なのか。そして「人を育む」を理念に掲げたその真意は何だったのか。

折しも、ゴルフが112年ぶりに正式種目として復活したオリンピックが、ブラジル・リオで間もなく8月5日に開幕式を迎える。ジカ熱や治安の不安などから世界のトッププレーヤーたちが相次いで出場を辞退し、日本からも松山英樹、谷原秀人が同じく辞退。競技形式や日程などを巡っても世界のゴルフ界で議論を巻き起こすなど、開催前から混乱の様相を呈している。

JGTO会長就任から5カ月。初めてメディアの独占インタビューに応じ、時に激しく、秘めた思いを語った。

――これまで固辞し続けてきたのに、今回、選手会(ジャパンゴルフツアー選手会=JGTPC)からのたっての要請に応じたのは何故ですか。

2、3年前からずっと頼まれ続けていたけど、なんでおれがやんなきゃいけないんだ、誰かほかにいるだろうってずっと断り続けてきたわけ。それが、とくに去年の9月くらいから強烈に言われるようになり、正直、ノイローゼになるくらいでした。それでだんだん断りにくくなったことが1つ。

そこにきて、たまたま去年は怪我もあったし、何となく体調もよくなくてね。それで、ひょっとしたらゴルフの神さまが、これまで我が儘通してゴルフやってこれたんだから、まだ身体が言うこと聞くうちに何か恩返しすることがあってもいいんじゃないかって教えてくれてるのかなって気がしたことも1つありました。

――会長就任後も4月の「中日クラウンズ」、5月の「ザ・レジェンド・チャリティ プロアマトーナメント」と出場し、現役プロとの二足の草鞋を履き続けていますね。

それでも、昨季までと比べたら試合数は4分の1くらいにまで減ったね。自分の身体、気持ちはプロゴルファーのままだけど、これだけ試合に出ていないと、やっぱりプレーヤーとしては卒業が近くなる感じかな。実際、最近は周りから「背広姿が似合いますね」とか言われるしね(笑)。余計なこと言うなって感じだけど。それに、時々キャディバッグ担いでみると、お、こんなに重かったっけ? とか感じることもあるしね(笑)

それは冗談としても、まだ試合には出たいと思ってるし、今季あと2試合くらいは何とかできないかといろいろ調整もしてる。もちろんトレーニングもね。

けどね、そういうふうになることをみんなも承知の上でおれに(会長就任を)頼んできて、おれ自身もそれを覚悟の上で引き受けたんだから、それはまあ「しゃんめえ」と思ってます。

ただ、おれは自分のやりたいことを封じたわけだから、お前たちもおれの言うことを聞けよ、ってことです。そうじゃなかったら決断した意味がない。おれはやると言った以上はきっちりやるから、お前たちも頼んできた以上はきっちりやりなさい、それが頼んだ方の責任でもあるぞ、ってね。

――就任会見で「人を育む」という理念を掲げましたが、その意味は?

いまの若い選手たちは、プロゴルファーである以前に大切な挨拶や礼儀がなっていない。そこがまず崩れていると思う。

その一方で、自己主張だけはすごく強い。自分たちはプロゴルファーでござい、って調子で、自分たちが試合をやってるんだという意識だけが強すぎる。そうじゃなくて、試合というのはまずはスポンサーがいて、ギャラリーがいて、支えてくれるたくさんのボランティアがいて、コースがあってそこのスタッフがいて、プロゴルファーってのはその最後の最後にいる存在。

そうやって支えてくれる人たちのお蔭でおれたちはゴルフで飯が食えるわけ。そこの意識をきちんと持たなくちゃだめ。まずはその意味で「人」を育てたい。

――男子のツアー数はどんどん少なくなっています。その点の危機感は?

おれがやることで、減り続けている試合数が増えることを期待されていることは分かってます。でもおれに言わせれば、いい加減にしろってこと。ふざけるんじゃないよってことだよ。選手以前に人としての礼儀もなっちゃいないくせに、自己主張は強い。逆に、プロとしてギャラリーを沸かせるような技でちゃんと魅せてるのか。いまのお前たちにどんな魅力があるのかってことですよ。

確かにね、おれたちも若い頃はいろいろ悪さもしたかもしれない。口の利き方もなってなかったかもしれない。ゴルフやってたお蔭で政財界のエライ人たちと交流ができて、角さん(田中角栄元首相)のキャディやったこともあるけど、そういう人たちから「おい青木、お前は言葉遣い悪いな」って怒られたりもしたよ(笑)

でもね、おれたちはとにかくゴルフに対しては遮二無二勝ちにこだわって、魅せるプレーをしてギャラリーも沸かせて、ちゃんと結果を残してきた。ジャンボ(尾崎)にしても中嶋(常幸)くんにしても、杉原(輝雄)さんにしてもだ。そうやって勝って勝って結果を残して、スポンサーやギャラリーを沸かせてゴルフ界を引っ張ってきたという自負がおれたちにはある。だから周りも認めてくれた。その点、お前たちはどうなんだってことを言いたい。

礼儀をわきまえ、意識を変え、そのうえでプロとして魅せる技を駆使し、熱い闘いでギャラリーを沸かせる。そうすりゃメディアだってどんどん大きく取り上げてくれるし、スポンサーだって、ああやっぱりやってよかったなあって思ってくれる。じゃあ次はうちでもやろうかって思ってくれる。そういう積み重ねでしか試合数は増やせない。お願いしますからって頼んだって、簡単にスポンサーにはなってくれませんよ。自分たちがプロとして魅力あるゲームを見せていかなきゃ。

――若い選手たちにそういう意識が乏しいのは何故なのでしょう。

我々のときは、まずは師弟関係がありましたから。挨拶から礼儀から、なってなかったら張り倒されたからね。いまは先輩後輩の関係はあっても、師弟関係がない。極端な話、師弟関係って白いものでも黒と言われりゃ黒なの。それを覆すというか、いえ違いますよって言えるようになるためには勝って勝って成績を残すしかなかった。魅力あるプレーで認めてもらうしかなかったですから。

いまの人たちは、言うことだけは言う。主張することだけはする。でもそっちが先に立って、肝心のやるべきことをやれてない。礼儀もなっちゃいないし結果も残せていない。それじゃあスポンサーもギャラリーも認めてくれないですよ。

それはね、選手個人のスポンサー契約にしてもそう。たとえば1000万円の契約をしてもらって、1勝したから契約金をアップしてくださいって言うのは違うわけ。仮にそれで2000万円に増えて、それで自分はプロゴルファーでございって、それが何なんだってこと。

そうじゃなくて、まずは1000万円でプロとしての生活ができることに感謝しろって。そもそも誰がお前を拾って契約までしてくれたんだってことをもっと考えろって言いたい。自己主張ばかりでプロでございって言う前に、ちゃんと試合で魅せて2勝、3勝って結果を残して、そうかあいつも頑張ってるなあ、それじゃあ契約金も上げなきゃなってスポンサーの方に考えてもらえるようなゴルフをしなきゃだめだってことです。そういう流れでないと、試合数も増えませんよ。

だから、個人の契約だって金額じゃないのよ。いかに長く続けてもらえるかってこと。変な話、おれのスポンサー契約って、どの企業さんでもすごく長くお付き合いいただいてます。有り難いことですよ。

そういう部分まで、おれはキッチリ言うことでみんなの意識を変えていきたい。それが「人を育む」と言った意味です。そのうえで「なんだあのオヤジ」とか煩わしく思う声が出てくるんなら、おれはそれでもいいと思ってるの。だって、おれだってやりたくてやってるわけじゃないんだからさ、最後はね、そんならいいよ、言うこと聞かねえんなら辞めてやらあって開き直っちゃうからね(笑)

内木場重人

フォーサイト副編集長

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(2016年8月2日フォーサイトより転載)