500人の専門家の発見と言論が社会を動かす――「Yahoo!ニュース 個人」5年間の軌跡

地方の声や課題を"自分ごと"にしながら届ける。
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Yahoo!ニュース

Yahoo!ニュースの中で、各分野の専門家や有識者による、取材やオピニオンなどを軸とした記事が集まるのが「Yahoo!ニュース 個人」です。「発見と言論が社会の課題を解決する」というコンセプトのもと、組体操の危険性を指摘した内田良さん、PCデポの高額解除料問題を提起したヨッピーさんなど、社会を動かす言論のスタート地点になることもしばしば。2012年のサービス開始から今年で5周年。その歩みを振り返ってみましょう。

取材・文/鬼頭佳代(ノオト)

※この記事は「news HACK」内に2017年12月8日に掲載された記事です

多様な問題を"わかりやすく伝えられる専門家"が500人

Yahoo!ニュース 個人は独立したサービスではなく、実はYahoo!ニュース内のカテゴリーの1つという位置づけ。Yahoo!ニュースが扱うのは、そのほとんどが配信各社から提供されているコンテンツですが、このカテゴリーは「オーサー」と呼ばれる専門家たちが寄稿するオリジナル記事で成り立っています。

オーサーは、ジャーナリストだけでなく、ビジネスパーソンや大学教授、NGO・NPOの代表など、その顔ぶれは多種多様。さらに、日本国内にとどまらず、フランスやイギリス、ノルウェーなど、世界のさまざまな地域から発信しています。テーマも政治・経済から社会問題、マイナースポーツ、エンターテインメントまで多岐にわたり、オーサーの人脈や知見に基づく記事が日々公開されています。

ここで疑問が1つ。そもそもオーサーは公募しているのでしょうか? それともYahoo!ニュース個人編集部がスカウトしている? Yahoo!ニュース 個人の責任者の中村塁さんに話を聞いてみました。

中村塁さん

「オーサーには2つの条件があります。1つはYahoo!ニュースをご利用いただく幅広い年代が興味を持てるようなテーマの専門家であること。もう1つは、その専門分野をわかりやすく丁寧に伝えられることです。そういう人をYahoo!ニュース個人編集部が探して直接声をかけ、Yahoo!ニュース 個人というサービスがどんなものか理解いただき、お互いに発信していく内容をしっかりとすり合わせた上で、毎月7~8人が新たに参加されます。2017年11月現在、約540人のオーサーと12人の編集スタッフで、月に1100本ほどの記事を作っています」

実は「オーサーになりたい」という問い合わせは、頻繁に届いているそう。しかし、まずはすでに活動している500人のオーサーを大切にしたいという思いから、現在はそういった自薦・他薦での応募を受け付けていません。

地方の声や課題を"自分ごと"にしながら届ける

さらに多様性という点で、東京以外の地域のオーサーも重視しています。オーサーとの最初のコミュニケーションは、対面が基本。そのためYahoo!ニュース 個人の担当スタッフは、東京オフィスだけではなく、大阪と北九州にも配属されています。その一人、関西エリア在住の100人以上のオーサーを担当するのが、大阪オフィスに勤務する立川貴代(たちかわ たかよ)さんです。

立川貴代さん

「関西エリアのオーサーさんには、それぞれの地域在住者の目線での情報発信をしていただいています。関西でも阪神・淡路大震災を経験している兵庫県は、防災への意識が特に高い地域。そこで、兵庫県立大学減災復興政策研究科の准教授である阪本真由美さんや、『火山・マグマ学者』で神戸大学海洋底探査センター教授の巽好幸(たつみ よしゆき)さんらには、実際に体験されたからこその防災の課題や現場の声を伝えていただきたいと考え、参加をお願いしました」

このほかにも、関西エリアで活躍する多彩な専門家がオーサーとして参加していると立川さんは言います。

「関西の電車事情に詳しい鉄道ライターの伊原薫さん、阪神タイガースと30年以上の関わりを持つ岡本育子さんや、同じく30年以上、高校野球を取材されている毎日放送の森本栄浩さんといったアナウンサーの方々にも声を掛けました。同じ地方創生というネタでも実感があり、東京から発信するのとはまったく違う切り口の記事になりますね」

書店や新聞、テレビなどからさまざまな識者の情報を常に見ているという立川さんは、時には飛び込み営業のような形でオーサーになってもらう交渉をしています。それまでネットでの発信をほとんどしたことがない方には、まずはヤフーの会社概要から説明し始めるケースも。そういうオーサーの開拓や記事企画の提案で強みになっているのは、自身が同じ地域で働いていることだと言います。

「私自身も大阪にいるので、オーサーさんと同じように地域の課題を共有できるんです。オーサーさんからは『立川さんは、近い感じがする』とよく言われますね。それに対して、『関西からメジャーになってください!』とよく声掛けをしています。地域で活動をしている方でYahoo!ニュース 個人で執筆されたのをきっかけに、全国ネットの情報番組やニュース番組に出演された方もいます。そんなふうに活動の幅が広がったという声を聞くと、非常にうれしいですね」(立川さん)

東京本社に加えて、北九州にも拠点を構えるYahoo!ニュース個人編集部。こちらに勤務する清作左(せい さくざ)さんは、Yahoo!ニュース トピックスの編集を担当する傍ら、九州エリアにいるオーサーのサポートもしています。

清作左さん

「Yahoo!ニュース 個人では、熊本にいるオーサーさんのサポートなどを行っています。そのほか、ジャーナリストの江川紹子さんの記事では、カメラマンとしてオーサーさんの取材に同行しました。前職の新聞社でのキャリアの多くを地方支局で過ごしたので、地域情報の発信には非常に価値を感じています」

清さんが取材に同行した記事。ジャーナリストの江川さんによる刑務所をテーマにした連載。この回は、摂食障害の女性受刑者が増えている現状や背景を、北九州医療刑務所で取材した

Yahoo!ニュース 個人は "ヤフーの常識が入らない場所"でいい

それぞれの書き手が自由に発信する場というイメージの強いYahoo!ニュース 個人。編集部にも、「主役はオーサー、編集者はその発信を支える裏方」という考え方が強く根づいています。

「一般的に編集者の役割は、著者の原稿をチェックしそれを公開する・しないを判断することです。しかしYahoo!ニュース 個人では、記事掲載の最終判断をオーサーに任せています。その理由は、もしオーサーが公開したい記事をヤフーが変えたり止めたりしてしまったら、ヤフーの常識や考え方が反映されすぎてしまうから。Yahoo!ニュース 個人の編集者の役割は、オーサーが発信する情報の価値を高めるサポートなのです」(中村さん)

ここまでオーサー側に任せるのには、2012年の立ち上げ当初の考え方が関係しています。

「もともとYahoo!ニュース 個人は、書き手をサポートするという考えから始まった場所でした。プラットフォームであるヤフーは、他のメディア企業との共存で発展していくビジネスモデル。そして、メディア企業を支えるのは個人の書き手です。ところが2012年当時、情報発信の場がインターネット上へ移り変わる一方で、『ネットで発信される情報は無料』という意識は強く、書き手にとって十分な人的・金銭的サポートを提供するウェブメディアがありませんでした。そこで、Yahoo!ニュースという多くの人が集まる場を使って、情報発信者を支える役割を担おうと考えたのです」(中村さん)

そういった思いから、Yahoo!ニュース 個人では記事ページ内で発生した広告収益の50%をオーサーに支払う「レベニューシェア」を採用。さらに残りの50%の収益も、取材費の補助や1万5000PV超の記事を月に3本以上出したオーサーへのインセンティブなどに当てています。

記事の評価は、PVだけではありません。毎月Yahoo!ニュース個人編集部が、オーサーが寄稿した記事や配信記事に対するオーサーコメントの内容を鑑み、Most Valuable Article(もっとも価値のある記事)とMost Valuable Comment(もっとも価値のあるコメント)を選定。選ばれたオーサーの収益の割合をアップするなど、価値の高い発信をしやすい環境をつくっています。

さらに年1回、オーサーをリアルの場に集める「オ—サーカンファレンス」を実施

さらに毎年、オーサーが負担する取材費のサポートとして合計1,000万円の予算を確保し、記事の執筆に必要なデータを調べられる「G-Search」やストックフォトサービス「アフロ」を無償で使えるようにするなど、サポートの幅をどんどん広げています。出版社と連携し、書籍化を目指すケースも増えてきました。

Yahoo!ニュース 個人で組体操の危険性や教員の部活動負担の問題などを指摘した内田良さんは『教育という病』(光文社新書)や『ブラック部活動』(東洋館出版社)を出版。2015年に、社会に影響を与えた書き手へ贈られる「ヤフーオーサーアワード」を受賞している

「書き手の支援という意味では、オーサーさんにYahoo!ニュース内でスポンサードコンテンツの執筆を依頼するケースもあります。システム面では、1PVから得られる利益が少しでも増えるように、記事ページの広告表示位置の調整といった取り組みをしています。収益が増えれば、書き手の取材費補助や報酬面でもプラスになっていきますから」(中村さん)

既存のニュースに専門家の視点を加えて、発見を生み出す

サービス開始から約2年後。さまざまなバックグラウンドのオーサーに、Yahoo!ニュース個人編集部の目指す方向をきちんと伝えようと、2014年に新しく定めたコンセプトが、「発見と言論が社会の課題を解決する」でした。Yahoo!ニュース 個人が目指す世界観はどういうものなのでしょうか。

「ヤフーが掲げる『課題解決エンジン』というテーマの中で、Yahoo!ニュースの課題解決手段は言論です。そして、Yahoo!ニュース 個人らしさとして、『発見』という表現を使いました。これは何かを暴くという意味ではなく、専門家の新たな視点を既存のニュースに加えることで、ニュースの中に発見を生み出すという意味です。そういったコンセプトからか、報道記者出身も多いYahoo!ニュースの編集者の中で、Yahoo!ニュース 個人を担当するのは、出版社で著者と向き合いながら書籍や雑誌を作ってきた編集者が多いですね」(中村さん)

「発見」を支えるYahoo!ニュース 個人の編集者は、次の3つの役割を持っています。

1) 時流と専門性を両立する執筆の提案

Yahoo!ニュース読者の興味・関心に、オーサーの高い専門性を重ねるのは編集者の仕事。ネット上での話題性やデータでわかるユーザーの興味、季節性などの視点を追加してオーサーに記事の執筆を提案する。

2) より多くの読者へ記事を届ける仕掛けづくり

Yahoo!ニュースのスマホアプリの中に2017年6月、Yahoo!ニュース 個人の記事を載せる「オーサー」タブを新設。さらに、いま伝えるべきテーマや優れた論考の記事はヤフー社内で常に共有し、「Yahoo!ニュースアプリ」でプッシュ通知を出したり、スポーツメディア「スポナビ」にも転載したりしている。

3) 社会の関心事とオーサーの専門性が合致する話題の提案

オーサーが記事を公開した後、編集者はその記事をすべてチェック。読者の反応を見ながら、わかりやすく伝えられているか、誤解が生じていないかなどを確認する。

「発見と言論が社会の課題を解決する」世界のために、変化し続ける

5年の歳月を経て、さまざまな変化を繰り返してきたYahoo!ニュース 個人。一つの節目を迎えた今、どんな将来を見据えているのでしょうか。

「これまではテキスト中心で記事を作ってきましたが、長期的には動画コンテンツにも挑戦したいと考えています。昨今のスマートスピーカー普及の流れから、音声による情報発信もあり得るかもしれません。現在は、毎月数本の記事を英訳して海外に配信しています。これをきっかけに、オーサーが海外メディアから取材されたり海外ユーザーから意見をもらったりすることで、より多様な視点を持って課題解決に取り組めるような流れが生まれていけばいいと思っています」(中村さん)

オーサーたちがますます幅広くアウトプットしていけるようにと、サポート体制の充実に意欲を見せる中村さん。「発見と言論が社会の課題を解決する」世界に向かって、Yahoo!ニュース 個人はこれからも進化を続けていきます。