「フェイクニュースのゴッドファーザー」からジャーナリストへのアドバイス

「フェイクニュースのゴッドファーザー」は、フェイクニュース報道に関して、ジャーナリストが知っておくべき4つのアドバイスを示している。

「フェイクニュースのゴッドファーザー」として、米大統領選後のフェイクニュース批判の中で注目を集めた人物が、メディアサイト「ニーマンリポート」に寄稿している。

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その渦中にいた経験から、フェイクニュース報道について、ジャーナリストに対するいくつかのアドバイスをしているのだ。

昨年の投開票日直前、「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官が心中」というフェイクニュースを発信し、50万件を超す共有数を獲得した。

そんなフェイクニュースの発信者自身が語る、メディア論だ。寄稿の中で、メディアとフェイクニュースの関係について、こう述べている。

フェイクニュースは、伝統的なメディアへの信頼を低下させた、という人々がいるが、私は反論したい。フェイクニュースは、メディアの信頼が低下したことによる、結果なのだ。

●「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官が心中」

元フェイクニュース作者から、フェイクニュース報道について」と題した寄稿は、5月1日付で「ニーマンリポート」に掲載されている。

「ディスインフォメディア」という会社で、10を超すフェイクニュースサイトを運営していた人物だ。

コーラーさんのフェイクニュースで、最も知られているのは、運営していたフェイクサイト「デンバー・ガーディアン」が投開票日直前の昨年11月5日に配信した「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官が遺体で発見、心中の疑い」だ。

メリーランド州ウォーカービル――警察によると土曜日朝、FBI捜査官が自宅アパートで死亡しているのが発見された。心中と見られる。ヒラリー・クリントン氏が国務長官在任中の私的メールサーバー問題に関連する捜査として、最近のメール流出事件を担当していた。

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コロラド州デンバーの地元紙のような名前で、サイト説明でも、こう述べていた。

デンバー・ガーディアンはデンバーで最も古いニュースソースであり、米国で最古の日刊紙の一つです。

これには1892年創刊の地元紙、デンバー・ポストが、そんな日刊紙は存在しない、と即座にファクトチェック

事件があったという東海岸のメリーランド州は、西部のコロラド州デンバーから2000キロ以上も離れており、「ウォーカーズビル」という場所ならあるが、「ウォーカービル」という地名もその名の警察も存在せず、死亡したというFBI捜査官も実在しなかった、と指摘していた。

●拡散したフェイクニュース

だが、これには56万8000件ものフェイスブックでの共有があり、バズフィードのクレイグ・シルバーマン氏が11月17日に公開した調査では、米大統領選に絡むフェイクニュースの共有数で、第5位にランクされている

ところが、これをフェイクニュースと指摘したデンバー・ポストの記事をソーシャルメディア分析の「バズスモー」で調べてみると、フェイスブックでの共有数は4万2000件。10倍以上の開きがある。

同じくフェイクニュースであることを指摘したファクトチェックサイト「スノープス」の記事の共有数も9500件にどまりだった。

フェイクニュースは実際のニュースよりも、広く拡散する――。

ワシントン州立大学バンクーバー校のマイク・コールフィールド氏は、この「デンバー・ガーディアン」のフェイクニュースの調査から、そんな実態を明らかにしている

コールフィールド氏は、「FBI捜査官、心中」が配信されてから8日後の11月13日、このフェイクニュースと、ボストン・グローブ、ロサンゼルス・タイムズ、シカゴ・トリビューン、ワシントン・ポストという著名な新聞社サイトの人気ニュース1位の記事を、フェイスブックの共有数で比較した。

すると、デンバー・ガーディアンが56万8000件なのに対して、既存メディアの方は最も多いワシントン・ポストでも3万8162件。フェイクニュースが圧倒的な拡散力を持つことを示した。

●NPRが発信者を割り出す

そして、公共ラジオ放送のNPRは「デンバー・ガーディアン」周辺の情報をたどりながら、その発信者であるコーラーさんを探し当て、11月23日にそのインタビュー記事を配信している

この中で、コーラーさんを「フェイクニュースのゴッドファーザー」と呼んでいる。

同じ頃、コーラーさんが運営するフェイクサイト「ナショナル・リポート」出身のライターが、フェイクニュース騒動の中で、やはりメディアの注目を集めていた。

ホーナーさんが広く知られるようになったのは、偽の「ABCニュース」サイトに昨年3月24日に掲載したフェイクニュース「反トランプデモ参加者の告白:トランプ集会抗議で3500ドルを受け取った」の拡散だ。

この記事は、トランプ大統領の次男のエリック氏や、トランプ陣営の選挙対策本部長だったコーリー・ルワンドウスキ氏、のちに選対本部長からトランプ政権の大統領顧問に就任したケリーアン・コンウェイ氏らが、次々にツイッターで拡散していった。

ホーナーさんは、「ナショナル・リポート」のライター時代には、「覆面アーティスト、バンクシー逮捕」のフェイクニュースを配信する騒動を起こした人物でもある。

昨年の大統領選後にも、ワシントン・ポストのインタビューで「トランプ氏がホワイトハウス入りできたのは、私のおかげだ」と語り、フェイクニュースを象徴する存在となっていた。

●「右派への対抗」から収入目的へ

そんな「ゴッドファーザー」が、寄稿の中で、フェイクニュースに関わるようになったきっかけについて、述べている。

当初の目的は、当時台頭してきた人種差別、女性蔑視などの右派グループ「オルトライト(オルタナ右翼)」への対抗だった、という。

「オルトライト」向けに作り込んだフェイクニュースを流し、それを彼らが共有、拡散することで、その評判を貶めようと考えたという。だが、次第にトラフィックが集まり、広告ネットワークが金を生むようになってきたことに気付き、収益が主目的になった、と。

「ヒラリー氏メール担当のFBI捜査官が心中」は短期間に注目を集め、160万回ほどの閲覧があった、という。だが、NPRのインタビューによって、フェイクニュースの批判の矢面に立たされることになり、その重圧から、フェイクニュースの業界からは足を洗った、とコーラーさん。

●4つのアドバイス

コーラーさんは、その発信の当事者として、フェイクニュース報道に関して、ジャーナリストが知っておくべき4つのアドバイスを示している。

・間違いなく最大の支払額の広告ネットワークであるグーグルのアドセンスが、フェイクニュース阻止のための小規模な対策を取ったが、その後釜によろこんでつきたいと考える広告ネットワークはごまんとある。フェイクニュースをつくることによる経済的なメリットを具体的に取り上げることは、より多くのプレイヤーをこのゲームに呼び込むことになってしまう。私はこの業界の多くのプレイヤーを知っており、確信をもって言えるが、彼らの最大の動機は金だ。

・〝フェイクニュース〟という言葉は、大統領選以来、大きく変化してしまった。フェイクニュースのことを語るには、もっと簡潔な表現を使う方がメリットがあるだろう。ごく小さな事実をその主張に合うようセンセーショナルにうたう急進派のコンテンツと、明らかにフィクションであるコンテンツを一緒くたにすると、問題を混乱させ、左派も右派も、自分たちが同意できないすべてのものを、フェイクニュースだと非難するようになってしまう。

・これは急進右派に限った問題ではない。フェイクニュースに影響を受けやすいという点では左右両派とも同じだ。そして、最近の権力の移行によって、リベラルの方が、トランプ大統領やその政権に関するネガティブな情報発信の主たるターゲットになっているように見える。

・言論の検閲は、解決策ではない。ヒラリー・クリントン氏は、大統領選敗退後、初めての公の場でのスピーチで、官民あげてのフェイクニュース阻止の取り組みを訴えた。(民主党の上院院内総務)ハリー・レイド議員は「危険な方向かもしれないが、進み始めよう」と、フェイスブックとグーグルがフェイクニュース排除への、より断固とした対策を取るよう求めた。言論の規制は、民主主義にとってフェイクニュースよりもはるかに危険だ。このようなタイプのコンテンツの需要がある限り、供給は続いていくのだ。

さらに、フェイクニュースのようなバイラルコンテンツの専門家として、メディアの報道局にも、こんなアドバイスをしている。

報道局はオーディエンスとの交流を失ってしまっている。自分たちの顧客の使う言葉や、最も関心をもっているトピックを学ぶことで、彼らをより深く理解することに集中するべきだ。と同時に、個々の読者とエモーショナルなつながりをつくり出すコンテンツ制作に注力するのだ。

フェイクニュースから見えてくるメディア論は、意外とポイントをおさえている。

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(2017年5月6日「新聞紙学的」より転載)