アルコール依存症の実態とは? TOKIO山口達也の飲酒めぐって注目。専門家「まずスクリーニングテストを」

アルコール医療の専門家に注意点などを聞きました。
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TOKIOの山口達也メンバーが強制わいせつ容疑で書類送検され、起訴猶予処分となった事件をめぐり、アルコール依存症などアルコールにまつわる問題への関心が高まっている。

山口メンバーが4月26日の記者会見で、酒の影響により肝臓の数値が悪化し、約1カ月間入院しながら仕事場に通っていたと明かしたからだ。TOKIOのメンバー・松岡昌宏さんは5月2日の会見で、「僕らは依存症だと思ってました」としながら、「アルコール依存症という(診断)のは出てない」と話している

国内に約109万人の患者がいるとされるアルコール依存症とは、どんな病気なのか。また、お酒を飲む人が気をつけるべきことは何か。今回の事件をきっかけに、あらためてお酒との付き合いを考えたい。

成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長の垣渕洋一医師に解説してもらった。

アルコール依存とは、一言で言えば「わかっちゃいるけどやめられない状態」という。

垣渕氏は、「家族や友人など、身の回りの人から『もう飲まないで』とか、『お酒の量を減らしてほしい』と言われて、頭の中では『やめたほうがいい』と思ってはいるけれど、お酒をやめられない状態。これが典型的なアルコール依存の症状です」と話す。

「アルコール依存症の人は意志が弱い」と誤解されがちだが、自分の意思で飲酒をコントロールできなくなるのは病気の症状だ。

「健康的な飲み方をする人は、お酒を飲み続けると徐々に飲むスピードが落ちて、『もう飲まなくていいや』となります。一方で、アルコール依存症になっている人は、アルコールの血中濃度が上がるともっと飲酒欲求が出てしまい、コントロールを失ってしまう。一度この体質に変わると、自然治癒することはほとんどなく、今の医学では治療も困難です」

身体的にもアルコールに依存するため、アルコールが切れると離脱症状(禁断症状)が出て、それを抑えるためにお酒を飲んでしまう。

アルコール依存症は、ほとんどの場合、肝機能障害をはじめとする身体障害を引き起こす。心にもたらす影響も大きく、アルコール依存症の患者の4割ほどがうつ病を合併しているという。家庭の問題や社会的問題を引き起こすリスクも指摘されている。

アルコール依存症は、習慣的にお酒を飲む人なら誰でも発病する可能性がある病気だ。

習慣的な飲酒によってアルコールに対する「耐性」ができていき、アルコールの効果を得るために酒量が増加し、いつしか進行していく。

厚生労働省の2013年の調査結果によると、日本国内に治療が必要なアルコール依存症の患者数は約109万人いると推計されている。1日に60グラム(日本酒3合)以上の酒を飲むハイリスクの多量飲酒者は980万人いるとされ、依存症との境界線にいるグレーゾーンの酒飲みも多い。

しかし、実際に治療を受けている患者数は年間4万人前後と推測されており、多くの患者が専門的な治療を受けていない。その理由について垣渕氏は、「依存症は本人にとって認めたくない病気であることが多い」ためと話す。

「一般的に、アルコールによる問題が起きてから治療を受けるまでに時間がかかります。発症してから専門治療を受けるまでに平均7〜8年かかるという研究データもあります」

断酒教育入院をする場合、標準的な入院期間は3カ月前後と言われている。しかし、脳がアルコール依存にない状態になるまでに「一般的に2〜3年」かかるという。

「治療を受けても、通常の生活に戻ったらすぐに飲酒をしてしまう人もいる。退院した後にリハビリ施設に入所したり、断酒会などの自助グループに通ったりします。半年以上の長期間のプログラムに通われる方も多くいらっしゃいます」

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アルコール依存症は、早期に治療を始めれば、その分治療効果が上がりやすい。どんな兆候が出たら、医療機関などの診察を受けるべきなのか?

「一口に『アルコール依存』と言っても、その問題はかなり個人差があります。家族や友人などまわりの人から、『飲み始めると止まらないよね』と言われている程度でも、依存症の世界に一歩足を踏み入れていると言えます」

「つい『もう一杯』を飲んでしまって終電を逃したとか、お酒を飲んだ翌日に二日酔いになって仕事を休んだり用事をドタキャンしたりするようなことが何度も起きたら、それは依存症になっている恐れが高い状態です。すぐに精神科専門医の診察を受けてほしいと思います」

また、重度なアルコール依存症ではない人でも、「お酒の飲み方」の指導といった早期治療を受けることができる。

「一昔前は、アルコール依存症の治療といえば『断酒』しかありませんでしたが、ここ何年かは『節酒指導』の段階からアルコール問題に関するケアを受けられるようになりました。節酒指導をやっている医療機関を探して受診してみるのもいいですし、職場の健康管理室のような福利厚生を利用できる人であれば、そこにいる産業医や保健医に相談するという方法もあります」

もし、自分や大切な人のお酒の飲み方に不安を感じたら、どうしたらいいのか?

垣渕氏は、「まずは、現在の飲酒習慣が適切かどうかを調べるために、スクリーニングテストをやってみてほしい」と話す。

代表的なものが、WHO(世界保健機関)が作成した10の質問からなる「AUDIT」だ。依存症予備軍に含まれる「危険な飲酒(問題飲酒)」レベルからテストすることができる。AUDITは、大手飲料メーカーのKIRINやアサヒビールの公式サイトにも掲載されている(URLは以下)。

点数ごとの判定内容は以下の通り。

・20点以上:アルコール依存症が疑われる。

・10点〜19点:アルコール依存症予備軍。危険な飲酒、いわゆる「問題飲酒」をしていると認識されるライン。

・9点以下:危険の少ない、リスクの低い飲酒群。

・0点:非飲酒群。

AUDITでは、世界共通の基準値を設定していない。飲酒文化の国による違いを勘案して、判定基準を変えても良いが、日本では「点数が8点以上の人は、お酒の飲み方と向き合い、適切な飲酒ができるように専門家にアドバイスを受けた方がいい」という。

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お酒を飲む人の中には、「最近飲みすぎているかもしれない」と飲酒量が気になる人がいるかもしれない。

アルコール依存症になる危険性が高いとされる「多量飲酒」に当てはまる人は、1日の平均飲酒量が純アルコール換算で「60グラム」以上の人だ。60グラムとは、「1日にビールなら500mL缶3本、日本酒なら3合程度」。この量を超えると飲酒問題が起こりやすくなる傾向があるため、節酒を真剣に考えるべきという。

では、アルコール問題を低リスクに収めるための「適度な飲酒量」は、どれくらいなのか?

厚労省が推奨する「危険の少ない飲酒量」は、純アルコール換算で「1日20グラム以下」。「20グラム」とは、だいたい「1日にビールなら中瓶1本、日本酒で1合、酎ハイなら350mL缶1本、ウイスキーならダブル1杯、ワインなら1/4本」。

1日の飲酒量をこのラインに抑えることに加え、「週に続けて2日以上、お酒を飲まない日を設ける」ことも推奨されている。これが、「健康日本21」などで厚労省が健康を保つために推奨している飲み方だ。

しかし、「お酒を飲むこと自体に必ずリスクはあります」と垣渕氏は念を押す

「これくらいなら、ずっとお酒を飲んでいても健康被害がない可能性が高いだろうとする基準です。依存症にならない飲み方というわけではなく、できる限り低リスクにお酒を嗜むために推奨されている飲み方、と考えるべきです」と話す。

アルコール問題は、決して人ごとではない。

健康を保ち、楽しくお酒を楽しむために、自分の飲酒習慣を客観的に見直すことが大切だ。また、家族や友人などまわりにアルコールの問題で困っている人がいたら、まずは医療機関や相談窓口につないでほしい。

アルコール問題の啓発、予防に取り組むNPO法人「ASK(アスク=アルコール薬物問題全国市民協会)」のウェブサイトには、アルコール問題について相談できる医療機関などの問い合わせ先がまとまっている。

本人だけでなく、アルコール問題を抱える人の家族や友人を対象にした窓口も用意されているため、ぜひ参考にしてほしい。

▼垣渕洋一氏の解説による、「アルコールとの正しい付き合い方」についての記事