銀行に騙されてはいけない。「アパートローン」の甘い罠

銀行は、「資産運用の相談に乗る」という形をとって彼らに近づき「年金や(預金の)利息だけで生活するのは厳しいでしょう。」と巧みに不安を煽るのです。

少し前に、米国では自動車ローン・バブルが膨らんでいるという記事を紹介をしましたが、日本では、アパートローン・バブルが膨らんでいるそうです。日銀による「異次元緩和」で市場に溢れたお金の貸し先に困った銀行が編み出した巧みなスキームの結果です。

対象は、現役時代にそれなりの財産を築いた団塊の世代の老人たちです。財産のサイズは人それぞれでしょうが、銀行が対象とするのは、退職金や株や(ローンの支払いが終わった)持ち家や土地という形で、少なくとも「数千万円」の財産を持った人たちです。

銀行は、「資産運用の相談に乗る」という形をとって彼らに近づき「年金や(預金の)利息だけで生活するのは厳しいでしょう。かと言って、貯めた財産を切り崩して使うのは、寿命が伸びた今、不安なことも分かります。かと言って、何もせずにいたら、最後は財産の大半は相続税として国に持って行かれてしまいます。これはとても勿体ないことです」と巧みに不安を煽るのです。

そして、「これらの問題を同時に解決する良い方法があります。アパート経営です。例えば、評価額5千万円の土地に5千万円の借金でアパートを建てたとしましょう。家賃収入の利回りが5%だとしても、年間500万円の収入になります。ローンの金利を3%とすると、30年ローンの毎年の支払いは150万円強なので、手元には約350万円の現金が残ることになります。アパートには減価償却があるので、税金もほとんどかかりません。さらに、借金をしているので、ご子息への相続の際にも、大きく節税できます」と説明するのです。

一見、もっともな説明で、嘘も言っていないのですが、実際には借り手がちゃんと見つかるかどうかも分からないし、金利が変動する可能性もあるし、家賃相場もニーズによって変動するのです。

しかし、そんなリスクのことをちゃんと説明してくれる銀行員はいないと思った方が良いのです。お金の貸し先に困っている銀行は、本当に中立的な立場でアドバイスをすることは出来ないのです。彼らは、一見「顧客の相談に乗る」ふりをしながら、結局は(アパートローンの)セールストークをしているだけなのです。

さらに優秀な銀行員は、地元の土建屋を連れてきて、彼らに「家賃保証」をさせます。土建屋としては、アパート建築は旨味のある商売だし、銀行がバックに付いていれば、未払いの心配もありません。

もちろん「家賃保証」には、ある程度のリスクはありますが、優秀な弁護士を雇って、期限付きの契約にするとか、2年おきに空き家状況に応じて保証する家賃を見直すなどの条件を契約書に書いておけば、リスクを最低限に抑えることが可能です。

つまり、表向きは「家賃保証」という形を取りながらも、大半のリスクはアパートのオーナーが負う形の契約書を作ることは難しくないのです。

消費者から見れば、親切な銀行員が「相談に乗って」くれた結果、家賃保証付きのアパートが手に入り、毎年350万円の副収入がほぼ無税で入る上に、相続の際には節税出来るという「とても良い話」を持ってきてくれたように見えるのですが、世の中はそんなに甘くはないのです

参考までに、関連する記事をいくつか紹介します。

The Page の「節税目的のアパート建設で地銀の貸出が急増、バブル崩壊の懸念も」という記事は、アパートローンの残高が 22兆4000億円 と膨れ上がっており、その背景には、2015年から相続税の非課税枠が引き下げられたことと、日銀の量的緩和策による金利の低下があると指摘します。その結果「確実に入居者が見込めないにもかかわらずアパートを建設する土地所有者が増えている」と指摘します。

特に地方では、人口が減少しているにも関わらず、貸し先に困った地銀や信用金庫がアパートローンに注力しているため、ニーズがないところに節税対策でアパートを建てるという異常なことが起こっており、近い将来に不良債権化することは明らかです。

JCastニュースの「地銀のアパートローン急減速 金融庁が締め付け強める裏事情」という記事には、膨らみ続けるアパートローンに危機感を抱いた金融庁が、不良債権化を懸念して、監視を強化したことが紹介されています。

(住宅関係のシンクタンクの)LIFULL HOME'S総合研究所による「相続税対策と言いながら、そもそも収益性に問題のあるような地域で、アパート経営などしたこともない地主(多くは農家や個人商店など)に家賃保証してアパートを建てさせるビジネスが行き過ぎていると言えます」というコメントが現在の状況を良く表しています。

Nikkei Style の「相続税対策でアパート建築 3つのワナに注意」という記事には、「『30年間、業者が家賃保証をしてくれるから大丈夫』という話も聞かれますが、家賃保証は一般に2年ごとの更新となっており、さらに貸主と借り主(保証する側)が合意することが更新の条件となっていることが多いのです。」と家賃保証の罠を紹介しています。

この記事は、週刊 Life is beautiful 8月1日号からの引用です。