誤嚥性肺炎の入院をゼロにした富山市の特養 口腔ケアの3技法とは

口臭は消え、唾液はサラサラになり、口の動きや飲み込む力が良くなったことで、食事量が増えたり、ペースト食から常食になったりした人もいる。
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利用者の口腔状態をチェックしてからその人に合ったケアを行う

富山市の特別養護老人ホーム「梨雲苑」は、三つの口腔ケア技法を取り入れ、2年で誤嚥性肺炎による入院ゼロを実現した。個々に合った技法や用具を使うことで利用者の口腔状態は大幅に改善し、職員の意欲は向上。ベッド稼働率もアップし経営面にもうれしい効果が出ている。

社会福祉法人梨雲福祉会(林一枝理事長)が運営する梨雲苑は、1991年に開所した入所定員90人(従来型60人、ユニット型30人、平均要介護度4・1)の施設。2014年に新たにユニット型40人の特養ホームを併設した。

梨雲苑は理事長が医師で、開所当初から看護師の配置を手厚くしたり、機能訓練に力を入れたりするなど利用者の健康に気を配ってきた。口腔ケアも積極的に職員を研修会に参加させ、学んだ内容を生かしてきた。

梨雲苑の口腔ケアが大きく変わったのは、11年4月に歯科衛生士事務所「ピュアとやま」(精田紀代美代表)と業務委託契約を結び、精田代表が開発した「簡単口腔ケア週2回法」「口腔内臓器つぼマッサージ法」「手技で行う咽頭ケア法と排痰」の3技法を始めたこと。坪内奈津子・統括副施設長は「口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防につながる。口腔機能維持管理体制加算もつくので経営にも役立つと考えた」という。

週2回法は、全職員が口腔ケアの基本を学んだ後、同事務所の歯科衛生士が月2回訪問して利用者の口腔状態を職員と一緒に点検し、状態改善に必要な用具や使い方を教え、週2回実施する方法。自分で歯磨きできない人には、職員が柄の短い歯科医院専用歯ブラシや㈱広栄社の舌専用ブラシ「タンクリーナー」などを使いケアする。

入れ歯は洗浄剤に毎日浸けると、漂白剤などが染みこみ粘膜が赤くただれたり、味覚を損なったりするため、パナメディカル㈱の研磨剤の極めて少ない歯磨き剤「ハイライズ」と義歯用ブラシで掃除した後、㈱能作のスズ製「抗菌コマきらり」を入れた水に一晩浸け置きし除菌する。

つぼマッサージ法は口内にあるつぼを指で刺激したり、飲み込む時に使う筋肉を引っ張ったりする。摩擦を起こさず、浸透性があり粘膜に残らないセーレーン㈱の口内用ジェル「シルクのちから」を塗って行う。

また、排痰法は痰が絡んだ人の肺の上部をたたいたり、押したりすることで空気の通り道を作り、のど元に出た痰を㈱オーラルケアの「モアブラシ」などですくい取る。

■感染症予防にも効果

週2回法はパートを含む全職員を3回に分け全体研修したこと、簡単にできる内容だったことから業務として定着。回数は毎日、毎食後と徐々に増え、歯科衛生士の個別指導を受け、つぼマッサージ法などを行う職員も出てきた。そして13年につぼマッサージ法、15年に排痰法の全体研修を行い、全職員が3技法を習得。自分で歯磨きできない約8割の利用者にも個々の口腔状態に応じたケアができるようになった。

介護士の金井綵香さんは「つぼマッサージをするのは1回1~2分。長時間しないので利用者にも職員にも負担はない」と話す。

梨雲苑が3技法による口腔ケアを始めて4年、利用者の口腔状態は大きく変わった。口臭は消え、唾液はサラサラになり、口の動きや飲み込む力が良くなったことで、食事量が増えたり、ペースト食から常食になったりした人もいる。

10年度に6人(延べ約180日)いた誤嚥性肺炎の入院は12年度に2人(約60日)に減り、13年度にゼロになった。定員が40人増えた14年度以降もゼロを維持している。唾液がサラサラになり、肺炎を起こす悪玉菌が減ったことが要因だ。

また、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症も4年間発症していない。個々に合った口腔ケアを毎食後することで、口腔内にウイルスが入っても粘膜に入る前に排除してしまうからだ。

「昔の口腔ケアは集団ケアだったが、今は完全な個別ケアになった。口腔機能維持管理体制加算がつくだけでなく、ベッドの稼働率もアップし経営面でも役立っている」と話す坪内副施設長。現在のレベルを維持するとともに、在宅高齢者やその家族にノウハウを伝えたいと、培った専門性を生かした地域貢献活動も見据えている。

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