【春闘】賃上げ率はリーマン・ショック後最高に

今年の春闘は大手主要企業で増額回答が相次ぎ、リーマン・ショック前の賃上げ率を上回る勢いだ。パート雇用者を含めた1人当たりの給与総額は、ベアとボーナスなどを合わせ前年比1%程度の上昇が視野に入った。
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samxmeg via Getty Images

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今年の春闘は大手主要企業で増額回答が相次ぎ、リーマン・ショック前の賃上げ率を上回る勢いだ。パート雇用者を含めた1人当たりの給与総額は、ベアとボーナスなどを合わせ前年比1%程度の上昇が視野に入った。

安倍晋三政権による企業への賃上げ圧力は奏功しつつあり、1997年ごろから始まった賃金の「右肩下がり時代」からの脱却を期待する声も出始めた。今後は、賃上げの勢いが消費増税のマイナス効果を緩和し、夏場以降に景気が「V字回復」の過程に入るのかどうかが焦点になる。

<賃上げ率はリーマン後最高に>

大手企業が前向きな回答に踏み切ったことに対し、春闘の動向を注視してきた民間の雇用専門家からも驚きの声が上がっている。

トヨタ自動車

今回の各社回答をもとに分析した山田氏の推計によると、定期昇給とベアを合わせた賃上げ率は、大手企業全体で2.2─2.3%、中小企業を含めた企業全体で2%強のアップが実現する勢いだと分析している。

こうした見通しの背景には、中小企業の賃上げを押し上げる構造要因もありそうだ。雇用環境は大企業よりも中小企業で引き締まっており、賃金引き上げの動きにつながりやすくなっている。

1─3月期法人企業景気予測調査によると、従業員の不足超過幅は中小企業で調査開始以来最高となっており、消費増税後も不足超過状態に変わりはないとみられている。同様にパート労働者の不足超過状態も全産業ベースで続く見通しだ。

その結果、最近の春闘賃上げの最終結果は、ピークだったリーマン・ショック直前の08年の1.99%を上回る高い伸びを実現しそうだ。

これを勤労者(正社員とパート)1人当たりの給与総額に引きなおすと、定期昇給を除いたベア部分に時間外賃金やボーナスなどを上乗せしたベースで、2014年度に0.8%─1.0%程度に上がるとみられている。

1%近い増加率は、バブル崩壊後の金融危機の過程で実現できない水準となっていた。前回消費増税時の1997年に0.9%増だったのを最後に、給与は右肩下がりの時代に突入。物価上昇率の低下やマイナスに転落するデフレ時代の「土台」を作ってきたと言える。その強固な「デフレ体質」に対し、今回の春闘は力を加え、ひび割れを生じさせた。

<急速に変わった企業のスタンス、背景に安倍政権の働きかけ>

今年に入っても、春闘での大幅な賃上げやパートなどの非正規社員を含めたベースでの大幅な賃上げには、企業はさほど前向きではなかった。

例えば、2月上旬に実施したロイター企業調査では、資本金10億円以上の大企業でも、賃上げ方針を表明したのは3割にとどまった。

ベア実施企業はさらに少ない18%で、大幅で広範な賃上げの動きは見られなかった。企業側は「渋い」スタンスの根拠として、14年度の収益環境が不透明なことや、生産性の上昇がさほど見込めないことを理由に挙げていた。

また、物価上昇率が大きくなると、かえって収益を圧迫すると懸念する企業も多く、昨年1年間で消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)がプラス転換したにもかかわらず、現金給与総額(パート含む)は横ばいにとどまっていた。

ところが、ここにきて各社の対応が急速に積極化。ベアは難しいとしてきた一部の電機メーカーも含め、予想を超える賃上げ率を提示してきた。その裏には、各社に対する安倍政権の強い「働きかけ」があったようだ。一部の主要企業幹部からは「首相官邸に顔向けできない数字は示せない」との声が漏れていた。

実際、ベアに渋い姿勢を示していたトヨタも、それなりの数字を出してきた。政策当局者からは「企業の賃金に対する姿勢を変えたことが、アベノミクスの最も評価できる成果だ」との声も聞かれる。

このところ、非力な存在と見られてきた労働組合に代わり、安倍政権が賃上げの幅を押し上げた構図が今回の春闘を特徴づけている。それは4月からの消費増税のマイナスインパクトが気になっていたからだ。

<マインド効果や公務員給与増も寄与>

4月からの消費増税によってかさ上げされる消費者物価指数(コアCPI)について、日銀の試算をもとに計算すると、4月に3.0%、5月には3.3%に上昇しそうだ。

この大幅な上昇は、消費マインドを冷やし、駆け込み需要の反動も加わって個人消費をかなり落とす要因になると、多くのエコノミストが予想してきた。

そのマイナス・インパクトを緩和する要因として、政府が期待してきたのが賃上げだ。これが大きくなれば、7月以降の景気回復の足取りにとってプラスになる。緩衝剤として機能するかどうかは、給与所得がどの程度増えるかにかかっているとして、政府・日銀も民間エコノミストも固唾を飲んで見守っていた。

今回、給与総額で1%が達成できそうな情勢となり、アベノミクスの先行きに対し、楽観的な見方が台頭する可能性が出てきた。

3%の物価上昇と1%の賃上げでは、1人当たりの実質所得は2%のマイナスになるが、日本総研の山田氏は、雇用者数の増加と賃金増加のマインド効果で補えば「何とか景気腰折れは回避できるのではないか」と予想する。

さらに公務員の給与増という要素も注目されてきた。復興支援で8%近く減額されていた国家・地方公務員の給与減額が2013年度で終了し、14年度は9000億円分の増額が見込まれている。公務員の給与は、民間給与総額全体の15%程度に当たり「民間の賃上げと連動して、家計所得の拡大要因になる」(第一生命経済研究所・首席エコノミスト・熊野英生氏)との指摘もある。

中小企業や非正規労働者も含んだ給与総額が1%近い増額となれば、従来の賃金に対する見方も変わってくる可能性がある。熊野氏は「経済は生きているので、恒常的な賃上げへの期待効果は消費構造も変える力になりうる」と予想する。

ただ、厳しい見方をする専門家もいる。伊藤忠経済研究所・主任研究員の丸山義正氏は、春闘賃上げ率は1.8%から2%超へ高まる可能性が高いとしつつ、正規労働者の所定内給与を0.6%引き上げる効果に過ぎないと試算する。それでも2000年以来の高い伸びであり、マインドに与えるプラスのインパクトは極めて大きいものの「この程度の賃金上昇では、3%程度のインフレ率上昇には遠く及ばないことは言うまでもない」と述べている。

[東京 12日 ロイター]

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