ネオニコチノイド系農薬とハチ減少に新たな証拠

「ハチさえ救えれば、後はどうなってもいい」というわけにはいかないのです。

ネオニコチノイド系農薬のEUによる再評価を前に、新たな証拠が加わった。9年間に及ぶ野生のハチの個体数調査で、この農薬の影響が裏付けられたのだ。

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セイヨウアブラナの花粉を集めるハチ。ネオニコチノイド系農薬はセイヨウアブラナの種子処理に用いられることが多い。

kojihirano/iStock/Getty Images Plus/GETTY

ハチが蜜源とする作物の種子処理にネオニコチノイド系農薬を使用するようになった2002~2011年を含む18年間について、英国の田園地帯に生息する野生のハチ62種類の個体数変化を調べた結果が8月16日、Nature Communicationsに報告された(参考文献1)。

これによれば、ネオニコチノイド系農薬の使用と個体数減少には相関があるという。この研究は英国政府から資金提供を受けて行われたもので、実際の野生環境において各種のハチの減少を渦中の農薬と初めて結び付けた点で重要である。

これまでの研究は、ハチに対する農薬の影響を実験室で調べたものや、数種類の野生のハチを限られた地点で数週間だけ調べたものだった(参考文献2)。

今回の研究に参加した生態学・水文学センター(Centre for Ecology & Hydrology;CEH、英国ウォーリングフォード)のNick Isaacは、「私たちの研究の結果は、ネオニコチノイド系農薬が野生のハチに有害であることを示していると確信しています」と言う。

近年、世界中で多くの種類のハチが減少している。

ハチの個体群を回復させるため、広く使用されている農薬を禁止または制限すべきかをめぐっては、激しい論争が繰り広げられているが、今回の報告は、この論争に新たな材料を提供するものだ。同じくCEHの生態学者であるBen Woodcockは、ネオニコチノイド系農薬の他、気候変動、生息地の消失、寄生虫およびその他の農薬もハチの減少の原因になっていると言う。

EUは、クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムという3種類のネオニコチノイド系農薬のほとんどの使用を暫定的に禁止している。しかし、一部の化学メーカーや農家は、代替農薬はネオニコチノイド系農薬に比べて効果が劣ると主張する。

英国は2015年、害虫が作物に被害を及ぼす危険性が非常に高い場合の農薬の使用は「緊急規定」によって許可されているとして、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止措置を解除した。欧州食品安全機関(EFSA:イタリア・パルマ)は、ネオニコチノイド系農薬がハチに及ぼす影響についての再評価を2017年1月までに行う予定だ。報告の内容によっては、EUによる農薬の使用禁止措置が延長される可能性がある。

ハチに迫る危機

英国の農家がセイヨウアブラナ(Brassica napus)の種子をネオニコチノイド系農薬でコーティング処理することを許可されたのは2002年のことだった。

2011年には、セイヨウアブラナの種子の5分の4が、この農薬で処理されるようになっていた。Isaacらは、英国各地の62種の野生のハチについて、1994~2011年の個体群の記録を調べた。

2002年以降、ハチの地理的分布は平均13%減少していたが、セイヨウアブラナの畑で花粉や花蜜を集める種類のハチは、他のハチより大きく減少していた。

研究者らはデータに基づき、ハチ全体の13%の減少のうち約半分に当たる7%は、ネオニコチノイド系農薬が原因になっていると見積もっている。また、セイヨウアブラナの花粉を集めるハチについては、ネオニコチノイド系農薬の影響だけで10%の減少を引き起こしている可能性があるという。

ダンディー大学(英国)でヒトとハチの神経科学を研究しているChristopher Connollyは、今回の結果は、ネオニコチノイド系農薬がハチの減少に関与していることを示す新たな証拠である、と言う。「ハチの学習や記憶のカギとなる脳細胞、ハチの個体、ハチのコロニー、そして今、野生のハチの個体群のレベルで、ネオニコチノイド系農薬の有害な影響を示す証拠がそろったのです」とConnolly。

産業界との攻防

世界のネオニコチノイド系農薬の主要な生産者であるバイエル クロップサイエンス社(ドイツ・モンハイム)のスポークスマンUtz Klagesは、この研究では、ネオニコチノイド系農薬の使用と野生のハチの減少との因果関係を示すことはできないと反論する。同社は以前から、この農薬がハチに有害な影響を及ぼし得るという証拠は乏しいと主張している。

けれども、今回の研究に参加したCEHの生態学者Richard Pywellは、農薬の使用とハチの減少との相関関係は明確に示されたと考えている。

ただしPywellは、EUがネオニコチノイド系農薬の使用禁止を継続するべきかどうかについてコメントすることはできないと言う。「私たちの仕事は政策を決めることではなく、EUと英国の政策立案者に対して、独立の立場から証拠を提供することにあるからです」。

政策立案者にとっての問題は、ハチなどの花粉媒介者の健全な多様性を保ちながら害虫を駆除するにはどうすればよいかという点にある、とWoodcock。

「『ハチさえ救えれば、後はどうなってもいい』というわけにはいかないのです。ネオニコチノイド系農薬が完全に禁止された場合に、それに代わる農薬の影響についても考えなければなりません」。

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161005

原文: Nature (2016-08-16) | doi: 10.1038/nature.2016.20446 | Controversial insecticides linked to wild bee declines

Miquel Sureda Anfres

参考文献
  1. Woodcock, B. A. et al. Nature Commun. (2016).
  2. Rundlöf, M. et al. Nature521, 77-80 (2015).

【関連記事】

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160405

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151206