チェーン化するローカル店、ローカル化するチェーン店

ニューヨークにはチェーン店を嫌う人が多い。どこも同じ店舗ばかりになるのは同質化の兆候であり、ニューヨークらしさを失うことになると考えるためだ。

数十年営んできた個人経営の店が閉じる。チェーン店がその後にオープンする。

ジェントリフィケーションが刻々と進むニューヨークで毎日のように耳にする話だ。姿を消していくレストランやバーを克明に追いかけるブログも少なくない。

ニューヨークにはチェーン店を嫌う人が多い。どこも同じ店舗ばかりになるのは同質化の兆候であり、ニューヨークらしさを失うことになると考えるためだ。

1.

センター・フォー・アン・アーバン・フューチャー (CFAUF) は、2008年からニューヨーク市内の全国小売チェーン店の動向を調査している。

その最新のレポートによると、2014年時点でニューヨーク市内には7,473店のチェーン系列の店舗が存在していた。その数は年々増え続けている。

市内に最も多く店舗をもつチェーンはダンキン・ドーナツ (536店)、マンハッタンで最も多く店舗を展開しているのはスターバックスだ (205店)。

ほかにもサブウェイ、マクドナルドなど、誰もが知っているチェーン店が名を連ねる。

CFAUFが調査の対象にしているのは全国チェーンだ。ニューヨーク市内にはこの調査に含まれていないチェーンが多くある。ローカルのチェーンだ。

2.

西安名吃はクイーンズのフラッシングで中国系の若い移民が始めたカジュアルなレストランだ。あまり知られていなかった西安料理を手頃な価格でニューヨークに導入した。

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メニューが写真で壁に示されているため、西安料理に馴染みのない客にもわかりやすい。

ランチの時間帯はテイクアウトを待つ客でいっぱいになる。

2005年に最初の店舗をオープンして以来、2015年2月時点で市内に10店舗展開している。

店舗が増えたことで、マンハッタンでも西安料理にありつけるようになったことを喜んだ人は多い。

移民が始めたレストランが繁盛し、成長する。成長とともに雇用も増える。それを歓迎しない人はいないはずだ。

3.

シェイク・シャックはマジソン・スクエア・パークで始まったビジネスだ。

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2000年にレストラン事業家のダニー・メイヤーが、公園内のカートでホットドッグを売り始めたのがはじまりだ。

2004年には「シェイク・シャック」として、ハンバーガー中心のメニューであらためてデビューした。

従来のファーストフードよりも高めの価格帯で、クオリティ重視のセグメントは「ファースト・カジュアル」として知られる (同社は「ファイン・カジュアル」と表現している)。

2008年には2店目をオープンし、その後成長路線を走り続けている。

2015年2月時点で米国外の27店舗を含む63店舗を展開している。2015年1月にはIPOを果たし、公園のカートから始まったビジネスは世界へと成長した。

4.

ニューヨークで始まり、店舗数を拡大するローカルの「ミニ・チェーン」が増えている。

店舗数が増えるのは成功の証にみえる。だが店舗数の増加とともに、ブランドの価値は希薄化する。クオリティが落ちていくことも少なくない。客層も変わる。

コモディティ化のリスクを背負いながら、ビジネスが店舗数を増やすのには理由がある。

それが本当に新しいアイデアや商品だとすれば、そのマネをするビジネスが必ず出てくる。自分で拡大しなければ、誰かがそのアイデアを利用して本家を駆逐する。

生き残るには自ら拡大するしかない。そしてチェーン化が「ゲームのルール」になる。

近年多額の投資がフード・ビジネスに向かっていることもチェーン化を後押ししている。ファンド筋が野心的なチェーン展開を望む飲食業を漁っていると昨年よく耳にした。

5.

飲食業を営む私の知人は、2013年に新しいレストランをオープンした。著名なシェフと組み、「革新的なレストラン」と評判を得て連日超満員だ。

だが彼は1年ほどでそのビジネスを売ってしまった。その理由をはっきりとは言わないが、「もうかかわりたくない」と言っていた。

成功してもそこで足踏みすることはできない。さらに成長の道を追求し続けないなら、売るしかなかったのかもしれない。近所の常連客を第一にというのが彼の考え方だった。

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ミートボール・ショップは、2010年にロウワー・イースト・サイドにオープンしたレストランだ。

ニューヨークに住む多くの人はこの店で並んだ経験があるだろう。

店名の通りミートボールが中心で、好みに応じてオーダーをカスタマイズすることができる。

チェックボックスに印をつけるオーダーの仕方も話題になり、あっという間に人気店になった。

2015年2月時点で、ニューヨーク市内6カ所で展開するに至っている。

最初から複数店舗を展開できる前提で1号店をオープンしたという。だがブランドの価値とのバランスを考え、同社は急速な成長に慎重な姿勢だともいわれている。

6.

チェーンにもさまざまなビジネスや形態がある。チェーンに嫌悪感を示すとき、私たちは具体的になにを問題視しているんだろう。

店舗数の問題だろうか。店舗数が一定以下ならチェーンにはならないのだろうか。西安名吃やミートボール・ショップはチェーンと考えるべきだろうか。

それとも資本構成の問題だろうか。あるいは運営の仕方がチェーンかどうかを判断するポイントだろうか。

いずれにしても、チェーンと非チェーンの間に明瞭な境界線をひくことは難しい。

7.

一方チェーンのビジネスも、その境界線を曖昧にしようと努めている。チェーンとみなされないように、さまざまな試みに取り組んでいる。

スイートグリーンはジョージタウン大学の学生3人が2007年に始めたサラダの店だ。「ファーム・トゥ・テーブル」を謳い、東海岸で30店舗近くまで成長した。

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2014年に大きな投資が入り、さらに拡大路線に向けて加速している。

同社は創業に至るまでのパーソナルなストーリーを強調する。

ローカルに気を配り、新しくオープンする店舗はそのネイバーフッドの特色に合わせるという。

シェイク・シャックは2013年時点で、全米で20店舗以上を展開していた。それにもかかわらず、同社はあからさまに「反チェーン」を唱えていた。

店舗の運営から人員の採用まで、20店舗を超えるあたりから、レストラン経営はあらゆる側面を完全にチェーンとしてコントロールしないとやっていけないといわれている。

シェイク・シャックはファイブ・ガイズなど先行する大きな同業に対して反チェーンを掲げ、自身をスモール・ビジネスだとアピールした。同社の成功の秘訣と囁かれてもいる。

8.

ローカル、パーソナル、スモール、DIY―。拡大や成長とは正反対のナラティブを多くのチェーンが使っている。

マリオットなどのチェーンは、自社のものにみえないホテルをつくり始めている。

ブロンクスにオープンするホテルはマリオットにはみえないものだ。ホテルの新設が続くなか、競争に勝ち抜くストラテジーを「本物のニューヨーク」に求めているようだ。

スターバックスは自社のものとはわからないコーヒーショップをニューヨークとシアトルで運営している。「ステルス・スターバックス」とよばれている。

ニューヨークでは2012年から百貨店のメイシーズの2階で運営している。「ヘラルド・スクエア・カフェ」という店名の一見独立系のカフェだ。

いまやマクドナルドのようなチェーン展開をするビジネスは少ない。チェーンも標準化しを避けて、こじんまりとした独立店にみえるようなものを提供する。

少し前にブルックリンがもてはやされたのも、この文脈なのだろう。

チェーンのビジネスがローカルや本物に向かう。もっとも、それが本当にローカルで本物かどうかはまた別の話だ。

スイートグリーンはローカルを強調する。だが奇妙なことに、同社の店舗にみられる同じ「ローカル感」を世界の都市のあちこちで目にすることができる。

また独立系のビジネスも、ほかと同じことをしていたら結果的にチェーンと変わらない。独立系かチェーンかという区別はそれほど意味がないのかもしれない。

9.

シェイク・シャックを始めたメイヤーは、1985年にオープンしたユニオン・スクエア・カフェによって名声を得た。その老舗レストランは2015年内に閉店する。

別の場所で再オープンすることになったとはいえ、長年続いたレストランが閉じ、同じ人が手がけたチェーン店が拡大を続ける。

そこに今日のニューヨークの姿をみる人は多い。ジェントリフィケーションともいえる。

だがそこにはフード・ビジネスの激化し続ける競争と混雑ぶりがある。多くのシェフを巻き込み、ファースト・カジュアルのチェーン合戦はすでに超混戦状態だ。

チェーンの数に一喜一憂するよりも、こう問い直した方がいいのかもしれない。数を増やす以外にゲームのルールはありえないんだろうか。

(2015年2月18日「Follow the accident. Fear the set plan.」より転載)