中国の人権派弁護士、浦志強さんを救おう

最近、中国政府の言論・思想界や人権活動に対する引き締めは強化される一方です。高い理想と専門性をもつ人々が、公共秩序騒乱罪、国家転覆煽動罪、騒動挑発罪、国家機密漏洩罪などの容疑で拘束、逮捕され、有罪判決を受けています。
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富士山をバックに笑う浦志強(プー・チーチアン)弁護士。実にいい笑顔です。浦弁護士が初めて日本を訪れていた2011年3月11日、東日本大震災が起こる直前に箱根で撮影しました。浦弁護士はその週、中国のジャーナリスト、弁護士、学者と共に交流活動に参加していました。環境汚染が生じた際に、被害者、政府、関係する企業はどのように対処すべきか、冤罪(えんざい)を防ぐにはどうすればよいか、情報公開やソーシャルメディアの活動によって社会は、どう変わるかについて毎日遅くまで議論しました。

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浦志強弁護士(筆者提供)

地震には、都心に戻る電車内で遭ったのですが、中国の専門家たちは、交代で私の9カ月の乳飲み子をあやしてくれました。彼らはまた、日本の人たちはどのように行動するのかを注意深く観察し、微博(中国版ツイッター)などのソーシャルメディアで発信していました。電車は深夜零時をすぎて発車し、新宿に到着しました。専門家たちはホテルまで、帰宅難民であふれる寒空の町を歩きながら、盛んに議論を続け、中国に参考になる要素を見出そうとしていました。浦弁護士は、「自分が中国で最初の寄付者になる」と、滞在中に支給された日当をすべて赤十字に寄付してくれました。

■天安門事件25周年の勉強会

その浦弁護士は、2014年5月に友人十数名と、天安門事件から25年となる6月4日を前に、事件の記憶を風化させまいと、北京市内の住宅で内輪の勉強会を開きました。しかし、集会の翌日、浦弁護士を含む集会参加者5人は、騒動を挑発したとして警察に連行されました。その後、4人が保釈されましたが、浦弁護士だけは6月13日に騒動挑発罪と個人情報の不法取得罪の容疑で正式に逮捕されました。

浦弁護士は天安門事件当時、大学院生で、学生の自治組織の立ち上げやハンガーストライキに参加しました。大学を追われ、職を転々としましたが、1995年に弁護士資格を取得し、社会的弱者の弁護活動にあたってきました。反体制的な言論活動に従事したとされる者を不法に長期間拘束する労働教養制度の廃止に尽力し、米誌フォーリン・ポリシーの「世界を率いる100人の思想家」にも選ばれています。

■市民社会の発展のために

私は浦弁護士と交流のある日本の学者や弁護士とともに、change.org というサイトの 「中国の関係部門-中国の人権派弁護士-浦志強氏らの釈放を求めます」 で、中国当局に対して (1)浦弁護士ら平和的な活動だけが理由で拘束されているとみられる全ての人を釈放すること (2)浦弁護士ら取り調べを受けている人に対して人道的な扱いをし、弁護士との接見を自由に認め、十分な医療を受けさせること (3)捜査や取り調べについて十分な情報を提供し、第三者の機関や専門家が検証できる状態にすることを求める署名への賛同を募り始めました。

浦弁護士を直接知らなければ、賛同を求められても躊躇(ちゅうちょ)する人が少なくないでしょう。「他国の人権問題に口出しするのは内政干渉だ」「日中関係をよくするには経済を重視すればよい」との批判を受けることもあります。しかし、私が強調したいのは、基本的人権を擁護し、社会正義を実現する使命を全うしようとする浦さんのような弁護士、ジャーナリスト、研究者、活動家らが、中国においても国際社会においても、いかに重要であるかということです。

中国では近年、抗議活動や暴動が頻発(ひんぱつ)しています。環境汚染、劣悪な労働条件、強制的な土地の収用、役人の汚職、不平等な教育機会など、さまざまな問題に対して中国の人々は異議を申し立てています。こうした抗議活動に参加する人々が、しばしば理性を失い、暴力的な手段に頼るのは、中国において一般の人々が意見を表出する機会が限られており、法の支配が徹底されていないからでしょう。

浦弁護士が言論の自由を強調するのは、批判的な声があってこそ、健全で平和な社会をつくることができると考えたからです。浦弁護士はこう述べています。「より高い戦略と志で、歴史と真実に向き合うのです。かつての多くの天災や人災から教訓を得なければなりません」。

最近、中国政府の言論・思想界や人権活動に対する引き締めは強化される一方です。高い理想と専門性をもつ人々が、公共秩序騒乱罪、国家転覆煽動罪、騒動挑発罪、国家機密漏洩罪などの容疑で拘束、逮捕され、有罪判決を受けています。

市民社会の成長を阻止し、各分野の専門家の活動の幅を狭めるような規制は、持続可能な発展を目指す中国にとって、大きな足かせとなることは間違いありません。中国政府が主張する「社会の安定」を維持するためにも、「法治」を推進するためにも、市民社会を発展させる必要があり、そのために力を尽くしている専門家たちの役割が重要なのです。

私たち自身の国においても同じことが言えるでしょう。表現や思想の自由が保障されず、腐敗が蔓延(まんえん)する社会においては、多くの国民は政府を信用せず、「信じられるのは自分とその仲間だけ」という感覚を抱き、社会的責任を果たさなくなります。国民全体で社会問題に共に取り組むためにも、市民社会を発展させることが、きわめて重要なのです。

そのような価値観を、中国を含む多くの国の人々と共有することができれば、国境を越えたさまざまな活動が可能になるはずです。より多くの人に、この問題に関心をもってもらいたいと願っています。

(2014年8月4日AJWフォーラムより転載)