「香港が想像できない場所になる」 “民主の女神“が訴えた、逃亡犯条例の危険性

「香港の経験から学んで」 周庭さんが日本の大学生に伝えたかったこと。

民主化を求め、香港の学生たちが「雨傘運動」を起こしてから4年。香港では、中国本土との「1国2制度」を揺るがしかねない条例改正を巡り、再び大規模な市民運動が巻き起こっている。

香港の現状を訴えようと、雨傘運動の中心人物の一人で、「民主の女神」などと呼ばれた周庭(アグネス・チョウ)さんが明治大学で講演を行った。

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講演する周庭(アグネス・チョウ)さん
Fumiya Takahashi

 ■「逃亡犯条例」を2分でおさらい

香港で多くの市民が反対の声を挙げているのが「逃亡犯条例」の改正案だ。

朝日新聞によると、この法律の議論が始まったのは2018年。台湾で殺人事件を起こした香港人の男が、香港へ逃げ帰ったことで台湾への身柄の引き渡しを免れたのが原因だった。

香港政府は、もともと犯罪容疑者の身柄引き渡しを決めていた国以外にも対象を広げる方針を決めた。具体的な内容が発表されたのは2019年2月。そこに、中国本土も含まれていたことが物議を呼んだ。

本土では、民主活動家や人権派弁護士などが相次いで当局に拘束されてきた

香港で民主化活動に関わったり、中国共産党にとって不利益な人物と判断されたりした場合、当局によって「容疑者」とされ、身柄が中国側に引き渡される恐れがあるのだ。

さらに、身柄が引き渡された場合は、中国で裁判を受けることになる。中国では裁判所にも共産党組織が作られていて、司法が独立していない。

そのため、この法律は香港では市民を中国に明け渡すという意味で「送中法」とも呼ばれ、6月9日から始まった反対デモには103万人(主催者発表)が参加した。デモの参加人数は実数よりも多く発表されることも多いが、香港の人口は740万人余だから、仮に本当ならば約7人に1人が参加した計算になる。

■“私たちが想像できない場所に”

デモが続く中、かつての民主化運動の中心人物だった周さんは日本を訪れた。明治大学の特別講義には、授業開始前から聴講者が殺到。席が埋まると入場が制限されたほどだった。

周さんがまず話したのは、中国に引き渡され、裁判を受けることの恐ろしさだ。

「中国は法治社会と言えない国ですから、たくさんの問題があります。

共産党政権が好きじゃない人たちや、人権を求める弁護士や活動家は、よく酷い目に遭います。恣意的に拘束されたり、逮捕・拷問されたり、暴行を受けることもありました。拘束された人たちが、不思議な形で死んでしまったこともあります」

一方で、この条例では政治的、もしくは宗教的な罪に関わる容疑者の場合、身柄を引き渡すことはない。これに対しても周さんは反論する。

「中国共産党は人の罪を作り上げることが非常にうまいのです。

経済的な罪や腐敗など、政治的な罪とは別の罪を作り上げる手段をよく使っています。香港政府は政治的な罪(の容疑者)は、引き渡さないという言い方がありましたが、それは香港人だったらだれでも信じないと思います。

罪を作りあげることを含めて、(香港の人は)中国の手段をよくわかっています」 

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独学で身につけたという流暢な日本語で話す
Fumiya Takahashi

そして、条例可決後の香港が今の形から大きく変わってしまう可能性を指摘した。

「自由や権利の保障、司法の独立が全部無くなります。私たちの身の安全すら保障されない場合があります。

なぜ香港は外国からの観光客が多く、外国の企業も多いのでしょうか。

香港には国際金融都市という地位があるからです。

なぜその地位があるかというと、1国2制度という制度があって、私たちは法治社会であり、司法の独立や公平な裁判が行われる場所なので、外国の人も安心して商売ができる場所なんです。でも、この特別な地位は無くなるかもしれません。

今デモに参加している香港人は、可決されたら香港はもう香港じゃないというか、私たちが想像できない場所になるかもしれないという考えを持っています」

デモが続く中にも関わらず周さんが日本にきたのは、この条例が単に中国本土と香港の2者の問題ではないことを訴えるためだ。

周さんは、レストランの中まで警官が入りこみ、デモ参加者の身体検査を行なっている様子を写真を交えながら紹介し、語りかけた。

「日本と香港はもともと経済的なつながりがあって、(多くの)日本人も香港にいます。日本政府も、日本の政治家も、改正案に対して自分の意見をはっきり(表明)していただきたい。

香港人にとって大事な時。今日もずっと香港に帰りたかったですが、大事な任務があるので...日本人も、日本のメディアも、香港の民主化運動にもっと注目していただければと思います」

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レストランに入り込み身体検査を実施する警官(写真左奥)
Fumiya Takahashi

■「日本人にできることは」への回答

40分ほどの話を終えると、会場からは拍手が湧き上がった。質疑応答で「日本人が何かできることはないか」と問われた周さん。まずは、香港の運動に関心を持って欲しいと答えた。

「重要なのは、香港の民主化運動に注目してもらうことです。

今回の改正案は日本人の皆さんにも無関係ではないと思います。

皆さんが将来香港に来たり、観光したりする機会があると思います。

香港に来たら中国に引き渡されるかもしれないというのは、沢山の日本人も不安に思っていると思います」

そして、香港の社会的な盛り上がりを見て、日本人にも気づきを得て欲しいと訴えた。

「一番大事なのは日本人の皆さんが香港の経験から、自分の生きている社会に関心を持つ重要さを知ってほしいと思います。

日本は、政治に興味ないとか、政治のことを話していると変なやつと(思われる)国かもしれません。

実はそんなことはなくて政治は私たちの日常生活だと思いますので、日本の皆さんも自分の国で何が起きているか、ぜひ関心を持ってもっとニュースを見てほしいと思います」

周さんは今後香港に戻り、改正案の撤回を目指して運動を続けるつもりだ。

報道陣の取材に対し「100万人のデモの後にも撤回しない政府の態度に皆怒っている。香港から反対の声がこれから引き続き上がると思います」と話した。