結晶シリコン太陽電池変換効率、世界最高値26.3%を達成

結晶シリコン太陽電池の変換効率の理論限界は29%程度といわれています。

化学メーカーの株式会社カネカ(本社・大阪市)は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトの一環で、多方面で使われる結晶シリコン太陽電池のセル変換効率を世界最高の26.3%まで高めることに成功した。

セルの大きさも180cm2と実用サイズで、太陽電池のコストを低下させ、再生エネルギーの普及に大きく寄与する成果として注目される。

日本の技術の高さをアピールするもので,成果はNature Energy 5月号に発表された。

中心となって開発を進めたカネカ太陽電池・薄膜研究所主任の吉河訓太さんに開発の経緯、苦労、今後の展開などについて聞いた。

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―― 太陽電池の開発は、世界でしのぎを削っていますが、結晶シリコンは最も使われている材料ですね。

吉河氏: その通りです。太陽電池には、使われている材料によってさまざまな種類があります。大きく分けてシリコン系と化合物半導体系があり、宇宙用にはガリウム、ヒ素、インジウムなどを用いる化合物半導体太陽電池などが使われています。

現在、地上に設置されている太陽電池として90%以上のシェアがあるのは、シリコン系です。シリコン太陽電池は、単結晶シリコンウェハーや多結晶シリコンウェハーを基板として使う「結晶シリコン太陽電池」と、ガラス等の基板にシリコン原子が不規則に並んだ「アモルファスシリコン」等の薄膜シリコン層を製膜する「薄膜シリコン太陽電池」に分けられます。

結晶シリコン太陽電池は、欠陥の少ないシリコンウェハーを光電変換層として用いるため光エネルギーを電気エネルギーに変える変換効率が高く、現在最も普及している太陽電池です。

薄膜シリコン太陽電池は、前者と比べると変換効率は落ちますが、デバイス中のシリコン使用量は結晶シリコン太陽電池の100分の1程度で済み、省資源であることや、全面が黒く美観に優れるなどの特徴があります。

―― 太陽電池の原理を簡単に教えてください。

吉河氏: シリコンなど半導体に太陽光を当てると、光エネルギーによってシリコン内部にプラスとマイナスの電荷を持った粒子、正孔と電子が発生します。これらの粒子は「電荷を担う粒子」という意味で、キャリアと呼ばれています。

発生したキャリアを回収し、電極から取り出すことで電流が流れることになります。これが太陽電池の基本原理です。キャリアを効率よく集めるためシリコンに不純物を入れる(ドーピングする)ことで、正孔が集まりやすくしたのがp型シリコン、電子が集まりやすくしたのがn型シリコンです。

太陽電池は基本的に、このp型、n型を接合させたpn接合を用いてキャリアを回収する構造となっています。

―― 結晶シリコン太陽電池はいつごろ登場したのでしょうか?

吉河氏: 結晶シリコン太陽電池は、1955年ごろに米国ベル研究所で最初に開発されました。その後、日本をはじめ多くの企業などが参入。結晶シリコン中へ不純物を拡散させて拡散層を形成する「ホモ(均質という意味)接合」を用いた太陽電池が普及しました。

1980年代には、変換効率が20%を超え、1998年にオーストラリアのニューサウスウェールズ大学が小面積で25%に達しました。その後は、太陽電池の普及に向けて、大面積化や低コスト化といった量産技術が主として研究され、そのため2014年までこの記録が破られることはありませんでした。

―― その後は、変換効率向上のため、どんな技術が発展してきたのでしょうか?

吉河氏: 太陽光電池は光をより取り込み(吸収させ)、発生したキャリアを効率よく回収するということが大事です。ホモ接合では、シリコン基板へ不純物を拡散させて接合形成し、そこに電極を直接接合(コンタクト)するので、不純物やコンタクト起因のキャリア再結合が発生し、回収効率に限界がありました。

再結合とは、いったん作られた電子と正孔が再び結合してしまう現象で、こうなるとほとんどの場合、熱エネルギーに変わってしまうので、電気エネルギーとして取り出せなくなってしまいます。そのため、ホモ接合に変わる技術としてヘテロ接合技術が発展してきました。

これは、バンドギャップ(キャリアの動きやすさの度合い)の異なる半導体材料を接合する技術のことです。今回のヘテロ接合では、結晶シリコン表面に高品質のアモルファスシリコン膜を形成しています。ヘテロ接合によってホモ接合よりシリコン基板表面欠陥が少なくでき、キャリアの再結合を抑制しつつ効率よく回収できるので、変換効率が高くなります。

現在、このヘテロ接合を表と裏に施した両面ヘテロ接合太陽電池が量産され、広く使われています。

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図1:両面ヘテロ接合太陽電池

出典:Yoshikawa, K. et al. Nat. Energy 2, 17032 (2017).

―― ヘテロ接合に取り組み始めたのはいつごろですか?

吉河氏: 太陽電池のpn接合をヘテロ接合にすると変換効率が高まるという原理は、1990年ごろに発見されました。三洋電機(株)(現パナソニック(株))は日本で先駆的に取り組み、2000年ころに変換効率19%を達成しています。

私はもともと、カネカで量産していた薄膜シリコン太陽電池の研究開発に関わっており、2009年ごろからカネカの薄膜シリコン技術を用いたヘテロ接合太陽電池の研究を開始しました。同時期に、ベルギーの世界的な半導体研究機関であるIMECと共同研究が始まり、私は3年半程、そちらへ赴任し、ヘテロ接合太陽電池に関する研究を行いました。

―― 両面ヘテロ接合太陽電池の特徴を説明してください。

吉河氏: この太陽電池は、n型結晶シリコン基板(厚さ100~200μm)があり、その上下(両面)を、極めて薄いアモルファスシリコン層がサンドイッチ状に挟んでいる構造です(図1)。一般的には、受光面のプラス電極側には、p型アモルファスシリコン、真性アモルファスシリコン(i型a-Si)が積層し、裏面のマイナス電極には、n型アモルファスシリコン、 i型a-Siが接合されています。

ホモ接合の場合、結晶シリコンの電極と接する端は、光エネルギーで発生したキャリアが、拡散している不純物やシリコンの表面欠陥に出会って再結合してしまい、変換効率が低くなるという課題がありました。ヘテロ接合を用いることで、この表面近傍の再結合が起こりにくくなるため、変換効率が高まるのです。

―― 両面ヘテロ接合太陽電池の変換効率はどのくらいでしょうか?

吉河氏: 2014年にパナソニックが24.7%を達成し(参考文献1)、その後、カネカは、通常用いられる銀電極を銅メッキ電極に置き換え、25.1%を実現しました(参考文献2)。一般的に用いられる銀ペースト電極に対して、銅メッキ電極は5から10分の1程度の電気抵抗率となりますので、電気を収集する際の直列抵抗も低いだけでなく、値段も格段に安いというメリットがあります。

ただし、両面へテロ太陽電池は、受光面に電極やTCO(透明導電性酸化物)層等、電気を回収するための構造が必要であり、これらが太陽電池に入ってくる光を減らしてしまうという宿命的な課題がありました。

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図2:ヘテロ接合バックコンタクト型太陽電池

出典:Yoshikawa, K. et al. Nat. Energy 2, 17032 (2017).

―― その欠点を克服したのが、ヘテロ接合バックコンタクト型の結晶シリコン太陽電池ですね。

吉河氏: そうです。バックコンタクト型は、太陽電池の裏面にみに正、負の電極を集約する設計となっているのが特徴です。これによって、受光面の光学ロスを抑制し、変換効率を高めることができるのです。

太陽電池の変換効率を高めるには、3つの要素が重要です。①キャリアの再結合損失を低減すること、②光学損失を低減すること、③電気を取り出す際の直列抵抗損失を低減すること――です(図3上)。この3要素のうち、他を無視して1つだけを高めることは比較的簡単にできます。

しかし、変換効率を高めるためには、この3要素をバランスよく向上させなくてはなりません。今回のヘテロ接合バックコンタクト型太陽電池では、この3要素が高いレベルでバランスよく維持されています。それだけにさまざまな工夫を凝らしたわけです。

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図3:太陽電池の損失と、ヘテロ接合バックコンタクト型太陽電池の特徴

―― 詳しく説明してください。

吉河氏: 我々の太陽電池セルの簡単な構造図(図3下)を見てください。太陽光は上から降り注ぐとします。

多層構造になっていますが、上から順に、傷などを防ぐと同時に反射を防止する「反射防止層」、受光側表面の欠陥を低減する「受光面アモルファスシリコン層」、光を吸収することでキャリアを生成する「(n型)結晶シリコン基板」、裏面側表面の欠陥を低減する「真性アモルファスシリコン(i型a-Si)」、発生したキャリアを電場で引き付けて回収する「p型アモルファスシリコン(p型a-Si)/n型アモルファスシリコン(n型a-Si)」パターン、回収された光電流を収集する「電極パターン」という構造です。

真性アモルファスシリコンとは、不純物を混ぜていない(ドーピングしていない)アモルファスシリコンのことです。通常のn型、p型は、シリコンを帯電させるドーピング不純物を添加して作りますが、真性アモルファスシリコンはこれを加えていません。

この真性アモルファスシリコンは水素を含んでおり、バルクの結晶シリコンに接合する際に末端のシリコンに欠陥がある場合、そこに水素結合し、キャリアが欠陥に衝突する(再結合する)のを防ぐのです。これをパッシベーション(終端する)といいます。

―― 真性アモルファスシリコンによって、変換効率を高めるための最初の要素である「再結合を防ぐ」ことができるわけですね。

吉河氏: その通りです。反射防止層は、太陽光が透過しやすい素材で、電池の中に光が取り込まれやすくなります。一方で、裏面の真性アモルファスシリコンや「p型a-Si/n型a-Si」、電極パターンは、光の反射率がなるべく高くなるように設計されており、光は結晶シリコンに吸収されるか、太陽電池の外に放出されるまで、シリコン基板の中で反射し続けます。

つまり、太陽電池の中に閉じ込められるわけです。また、バックコンタクト型は、電極が裏面に集中している分、キャリアを取り出せる面積が狭くなっているので、界面抵抗が低くなるように工夫されています。これによって、それまでの記録である25.6%を0.7ポイント上回る、世界最高の変換効率26.3%を達成しました。

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図4:タイプ別の太陽電池の変換効率の変遷

出典:Yoshikawa, K. et al. Nat. Energy 2, 17032 (2017).

Yoshikawa, K. et al. Solar energy and materials (2017).

Green, M. et al. Progress in Photovoltaics 2009; 17: 183-189. (2009).

Adachi, D. et al. Appl. Phys. Lett. 107, 233506. (2015).

Taguchi, M. et al. IEEE J. Photovolt. Vol.4, 1, pp.96-99. (2014).

Smith, D.D. et al. Proc. 42nd IEEE PVSC, pp.3351-3355. (2016).

Richter, A. et al. SiliconPV 2017 (2017).

―― 変換効率をさらに高めることは可能でしょうか?

吉河氏: 結晶シリコン太陽電池の変換効率の理論限界は29%程度といわれています。今回我々は、26.3%の太陽電池を分析することで、実際に到達し得る限界(practical limit)として27.1%を試算しています。

すでに我々は、26.6%%まで変換効率を高めることに成功しました(参考文献3)。背景には、これまで薄膜シリコン太陽電池で培った界面制御技術、それとバックコンタクト技術の融合がありますが、ブレークスルーと地道な性能向上の繰り返しだったと思います。

―― 実用化はどうでしょうか? コストは?

吉河氏: 今回の達成はあくまで太陽電池セルの研究段階です。実用化には、電気を取り出すモジュールにしなくてはなりませんが、変換効率は今回のレベルに達するには時間がかかります。両面ヘテロ結合バックコンタクト技術は、両面ヘテロに比べて、キャリア回収面が片方だけなので、これまでの両面型太陽電池と比較して実用化、量産化には課題が少なくありません。

ただ、変換効率を高めることは、製造、パネル設置費用、土地代などシステムコストを低減させる効果があるので、今後もさらなる向上と実用化研究を目指したいと考えています。

―― 企業としては特許技術など公開できないと思いますが、どうしてNature Energy に投稿したのでしょうか?

吉河氏: クリーンエネルギーを効率良く得るための研究は、人口増加やEV車への転換といった電力需要増の流れの中で、持続可能な社会を議論する上で重要なテーマだと考えています。それに積極的に取り組んで、世界記録を更新していることは、弊社の理念と技術力のアピールになると考えました。Nature Energy に発表したことで,国内外から、お問い合わせを頂いております。

―― なぜ研究者になろうと思ったのですか? 特に企業を選んだ理由は?

吉河氏: 高校生の時に古典力学や物質最小単位として原子の存在を習った時、未来が決まっていることに考え至り不思議な気持ちになりました。高校3年で量子力学の導入部分を学び、未来が不確定であることを知り、再度人生観が変わりました。このような経験から自然科学と向き合う仕事をしたいと思い、研究者への道を選びました。

博士号取得まで大学にいたので、外の世界を見たいという気持ちと、研究成果を社会に生かしたいという思いから、企業へ入りました。企業研究者はいつでも自身が志向する研究ができるとは限りません。しかし、だからこそさまざまな研究ができ、成長の機会があると思っています。

―― ありがとうございました。

Nature Energy 掲載論文

参考文献

  1. Taguchi, M. et al. 24.7% Record Efficiency HIT Solar Cell on Thin Silicon Wafer. IEEE J. Photovolt.4, 96-99 (2014).
  2. Adachi, D. et al. Impact of carrier recombination on fill factor for large area heterojunction crystalline silicon solar cell with 25.1% efficiency. Appl. Phys. Lett.107, 233506 (2015)
  3. Yoshikawa, K. et al. Exceeding conversion efficiency of 26% by heterojunction interdigitated back contact solar cell with thin film Si technology. Solar energy and materials In Press (2017).

Author Profile

吉河 訓太(よしかわ くんた)

株式会社カネカ 太陽電池・薄膜研究所 主任

2003年広島大学理学部物理学科卒業

2004年広島大学大学院理学研究科修士課程物理科学専攻修了

2006年広島大学大学院理学研究科博士課程物理科学専攻修了

2006年株式会社カネカ入社

2013年株式会社カネカ 太陽電池・薄膜研究所 主任