キューバの研究者たちは今、どんな状況に置かれているか

より良い社会の実現に向けて、かつての敵対国と共同研究を進めるのに科学が最適な分野であることに変わりはありません。
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A man chats on his mobile phone, close to a pair of Cuban and US flags strapped to a bicycle taxi, at a public Wi-Fi hotspot in Havana, Cuba, Wednesday, Aug. 12, 2015. The US embassy in Cuba will hold a ceremony on Friday, Aug. 14, to raise the U.S. flag, to mark its reopening on Havanaâs historic waterfront. (AP Photo/Ramon Espinosa)
ASSOCIATED PRESS

2015年7月20日、アメリカ政府とキューバ政府はワシントンDCとハバナに双方の大使館を再開し、1960年にケネディ政権が禁輸措置に踏み切って以来、55年ぶりの国交回復を正式に発表しました。この国交回復がもたらす影響の全容は現時点では明確ではありませんが、この新たな関係の恩恵を受けようと2つのセクターがすでに素早い動きを見せています。それが旅行業界と学界です。

両国の間には未だ渡航制限はあるものの、すでにジェットブルー航空がアメリカからキューバへの直行便の就航を申し入れており、他社も後に続くことは間違いありません。また、大手ホテルチェーンの参入も予想されます。直ちにキューバの学界に連絡を取ったアメリカの学界にとっても朗報です。先日ワシントンポスト紙に掲載された記事では、ハバナの大学との関係構築に熱心なアメリカの大学の名前がいくつか挙げられていました。オーバーン大学(Auburn University)、ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)、コロンビア大学(Columbia University)、およびブラウン大学(Brown University)がすでに協力体制を整えつつあり、フロリダ国際大学(Florida International University)ではキューバキャンパスの開設について協議されているとこの記事は伝えています。 世界中の科学者たちは、同じ志を持つ他国の科学者との関係を、国際政治を超えて躊躇することなく受け入れるのが常です。したがって、アメリカとキューバの間でどのような共同研究が可能なのか注目しておく価値はあります。

Scopusの出版データによると、キューバにおける研究は医学および関連分野である健康科学、薬学、免疫学、遺伝科学、生物化学が中心です。2010年から2014年の間に発表された研究論文の約半数が、上記のいずれかの分野に該当するものです(一方、アメリカにおける研究の約3分の1が上記分野に該当します)。医学/健康科学のカテゴリの中では、一般医療、感染症、公衆/環境衛生、および産業医療がキューバの研究論文の約半分を占めています。Scopusのデータからは、キューバでは国際的な共同研究の割合が非常に高いことも分かります。実に発表された研究論文の52.3%が、他国、特にスペイン、メキシコ、ブラジルの研究機関と共同執筆されたものでした。

研究論文全体を見ればアメリカが世界的リーダーであることに疑いの余地はありませんが、医学の分野ではアメリカだけでなく世界中の国々がキューバに学ぶべきことがあるのは明らかです。キューバの分子免疫学センターで肺がんワクチンが開発されたという最近のニュースは、その一例にすぎません。この医学的大発見を直ちに活用すべく、ニューヨーク州バッファローのロズウェルパークがん研究所がアメリカ食品医薬品局(FDA)からアメリカ内で臨床試験を実施する許可を得たようです。

その一方で、いくつかの分野では、キューバの研究者もアメリカの研究者との共同研究を通じて非常に大きなメリットを得られるはずです。キューバは決して世界一貧しい国ではありませんが、研究への政府の投資額は控えめであると言って差し支えないでしょう。最近出版された書籍『World of Research』によれば、キューバの投資額はGDP(786億9,400万ドル)の0.42%です。その結果、人口規模が近いベルギーなどと比較してキューバの研究論文の数は少ないと言わざるを得ません。2004年から2014年の間にキューバで発表された研究論文は20,593件で、同期間にベルギーで発表された研究論文は270,232件でした。

アメリカからの資金供給がキューバの研究に恩恵をもたらすことは明らかです。加えて、エンジニアリング、コンピュータサイエンス、物理学におけるアメリカのリーダーシップによって、現時点では全研究論文の25%でしかないこれらの分野でのキューバの論文発表が促進される可能性があります。また、インパクトが高いトップジャーナルに掲載される研究論文の割合(現在はアメリカが26.9%であるのに対しキューバは6.8%)および産学共同研究の割合(現在はアメリカの大学の2分の1未満)が増加することも考えられます。

これまでキューバでは厳しい渡航制限が実施されていたため、研究者は同分野の研究者との情報交換の場である海外の学会に参加することも、海外の大学で研究することもできませんでした。例外はおそらく、感染症が流行している世界の紛争地域(直近ではエボラ危機の西アフリカ)の支援で知られ、高い評価を受けているキューバの医療関係者です。キューバの地政学的状況を考えれば、研究者の流出(-6.4%)は驚くべきことではありません。

国内に留まった研究者にとっては、今後も影響を及ぼし続けるであろう技術的ハードルが存在します。中でも深刻なのは、世界中でクラウドコンピューティングや科学者のソーシャルネットワークが普及していながら、キューバではインターネットアクセスが非常に限られているため、共同研究ができないという問題です。キューバの科学者は多くの場合、今日研究で一般的に使用されている大量のデータセットをダウンロード/共有したり、クラウドベースのコラボレーションプラットフォームを使用したりできません。さらに、禁輸措置が原因で参照すべき教科書やジャーナルを入手することも、実験用の機器や既存技術の修理に不可欠な部品を注文することもできません。キューバ政府は今も言論および出版を厳しく統制しているため、情報を自由に交換することもできません。しかし、より良い社会の実現に向けて、かつての敵対国と共同研究を進めるのに科学が最適な分野であることに変わりはありません。

科学とは知識の探究であり、科学出版は研究者コミュニティ全体が知識を共有するためのルートです。科学者はこれまで、最初期の数々の発見においても、新たな発見に対する共通の情熱を糧に私達の間に立ちはだかる壁を壊してきました。アメリカとキューバの研究者による新たな共同研究によって画期的な医薬品や治療法が誕生すれば、共同研究のメリットを少しでも世界中の政治家に理解させることができるかもしれません。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。