東北はやっぱり医者が足りてない。医師のやりがいとキャリア形成

私は東京、宮城、福島での医療を経験した。医師としてのやりがいとキャリアを考えると、東北での仕事は一つの選択肢になると思う。
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doctors and patients at hospital
RunPhoto via Getty Images

東北では医者が足りない。元々そう聞いていたが、東京から仙台に来てあらためてそう思う。

私は東京での初期、後期研修後に2013年4月に仙台厚生病院に就職した。仙台厚生病院は循環器、消化器、呼吸器の専門病院で、心臓カテーテル検査数、心筋梗塞患者数、胃・大腸癌の内視鏡治療数、肺癌手術数はいずれも東北一であり、この地域の基幹病院の一つだ。仙台厚生病院からは宮城県だけでなく、福島県や山形県の一部にも医師が派遣されている。私は宮城県の他、福島県相馬市に派遣されたが、そこは想像以上の医療過疎地域だった。

福島県相馬市の病院には2014年に出向した。相双地域の医療圏はおよそ10〜13万人、人口10万人あたりの医師数は79人(震災前は120人) である。日本全体では237人、東京都313人、宮城県230人、仙台269人、福島県187人である。震災の影響も大きいが、震災前から相双地区の医師数は極端に少ない。福島圏以外の原子力発電所がある医療圏では、北海道後志は187人。新潟県中越医療圏166人、茨城県常陸太田・ひたちなか医療圏は103人。静岡県中東遠医療圏135人、石川県能登中部192人、福井県嶺南医療圏は203人、島根県松江医療圏239人、愛媛県八幡浜・大洲医療圏182人、佐賀県北部医療圏185人、鹿児島県川薩保健医療圏203人であった。原子力発電所のある自治体はいずれも医療過疎かもしれないと思い比較したが、相双医療圏の人口あたりの医師数はこの中でも最低ランクにあった。

特に驚いたのは夜間の当直帯だ。離島でも無いのに「自分の医療レベルが地域の医療レベル」になってしまう。医師が少なく、自分が実質的には「最後の砦」となってしまう可能性があるからだ。

当時、夜間診療を行っていた病院は5つしかなかった。夜間帯は五病院の当直医の専門により診療できる範囲が決まる。例えば、当直医が内科医ならば外科のスキルを要する交通外傷の診療はほとんど不可能だ。私の専門は循環器内科であり、当直帯には内科系全般の診療を行う。地域の内科系当直医が私だけなら、自分の医療レベルが、その夜、その地域の内科系疾患の医療レベルを規定する可能性があるのだ。個人としてはやりがいを感じる反面、少ない医療資源で行う医療に限界があることに不安を覚えた。このような状況は東京や仙台では起こらない。

私が驚きの声を漏らすと、ある医師は「田舎はこんなもんだよ。」と言う。このような発言は東北出身者に多いように思う。医療過疎に慣れてしまっているのかもしれない。

一方で東京や大阪での診療経験を持つ医師は私のように強い驚きを示す。重症患者をヒヤヒヤしながら1時間以上かけて長距離搬送する。目の前で苦しむ患者に提供すべき治療ができない。普段当たり前と思っている医療を実践できないのだから、医療従事者としては辛い。

例えば、急性心筋梗塞は一刻を争う疾患で、治療の遅れは重症化につながる。治療は早ければ早いほど良いのだが、治療可能な施設までの患者搬送に1時間〜2時間かかる。搬送中に急変することだってある。私は医師不足を数字で表されてもピンと来なかったのだが、これらの経験から医師不足を肌感覚として実感した。医療過疎地の医者は医師不足を「当たり前」と言い、過疎地での勤務経験がない医者は「ピンと来ない」。私は医療過疎の惨状を把握する人は実は想像以上に少ないのではないかと思うようになった。

医療過疎地域で医師として働くことはやりがいがある。東北地方であれば被災地支援にも貢献できる。しかし過疎地勤務にはデメリットもある。そもそもデメリットがなければ過疎地の医師不足は問題とならない。デメリットとしては過重労働、高度医療や学術的研修での遅れ、過疎地に取り残される不安、家族や子育ての問題などがあげられる。できればそのようなデメリットが少ない環境を選択したい。私の場合には期限付きの派遣であったため、過疎地に取り残される不安はなかった。

医師のキャリアを考えた場合、医師はなるべく早期に経験を積んで、知識と技術を磨くことが大切だ。例えば、「手際よく、見落とし無く診察できるようになること」や「手術、内視鏡、カテーテル治療などの技術を身につけること」などだ。その修行の場として医師の数は多すぎても少なすぎてもダメだと思う。なぜなら、医師が多いと医師以外でもできる仕事をさせられる時間が長くなり、担当できる患者数が減り、十分な経験を積むのに時間がかかるからだ。一方で医師が少なすぎる施設では、知識や技術を身につけるのに十分な施設やスタッフが揃っていないことがある。例えば、外科の手術などでは指導医と手術室がなければ手術をすることはできない。

私が所属する仙台厚生病院は、循環器、消化器、呼吸器分野で東北一の症例数を有する病院だが、東京の施設に比べれば患者あたりの医師数はやはり少ない。忙しい反面、多くの症例を経験でき、若手にとってチャンスになる。例えば、内科分野言えば、早期から内視鏡検査や心臓カテーテルなどの技術を経験できる。検査治療数は多く、年間のカテーテル検査は5000例、カテーテル治療は1200例、心筋梗塞の治療は320例にのぼる。また、カテーテルによる大動脈弁治療などの高度医療も学ぶことができる。最近では論文指導を受けることもできるようになっている。

私は東京、宮城、福島での医療を経験した。医師としてのやりがいとキャリアを考えると、東北での仕事は一つの選択肢になると思う。頼りにされ、やりがいがある。若手にとっては人の役に立つ良い機会が得られるかもしれない。