フランス大統領選で起きているのは、単にポピュリズム台頭だけではない

政治体制に対するフランス人の嫌悪感は極めて根強い。
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Electoral posters of French presidential election candidate for the En Marche ! movement Emmanuel Macron (L) and French presidential election candidate for the far-right Front National (FN) party Marine Le Pen (R) are displayed in a warehouse in Gonesse, north of Paris on April 26, 2017, ahead of the second round of the presidential election. / AFP PHOTO / Lionel BONAVENTURE (Photo credit should read LIONEL BONAVENTURE/AFP/Getty Images)
LIONEL BONAVENTURE via Getty Images

フランスは4月23日に実施された大統領選挙の第1回投票で歴史を築いた。決選投票に進んだ候補者2人のいずれもが、フランスの伝統ある既成政党の出身ではなかったのは、現代フランス史上初めてのことだった。

集計率97%の時点で、マクロン氏の得票率は23.9%でルペン氏の21.4%を上回っている。共和党保守派のフランソワ・フィヨン氏と極左のジャン=リュック・メランション氏は僅差(それぞれ19.9%と19.6%の得票率)で決選投票への道は断たれた。

親欧州連合(EU)派の政治家や有権者たちは、無所属候補のエマニュエル・マクロン氏が5月7日の決選投票で国民戦線党首のマリーヌ・ルペン氏を破り、苦境に立つEUにとって待ちに待った援軍になることを願っている。世論調査では、約60%の得票率でマクロン氏が勝利するとみられる。

第1回投票でマクロン氏が勝利したことで、ポピュリズム勢力が現在の自由主義の秩序には太刀打ちできないことが証明されたと考える人もいる。しかし実際には、フランス大統領選はヨーロッパ全体でみられる極端な例になっている。既成政党や伝統的な左派と右派の分裂は、新しい政治運動、国家のアイデンティティへの不安、そしてグローバリゼーションの影響を激しく非難する急進派の政党に取って代わられている。

ルペン氏が負けたとしても、フランスでは何百万人もの有権者が彼女に投票する。ルペン氏はこの先何年もの間、有力な政治家であり続ける。フランスの伝統的な左派は依然として壊滅状態だろうし、フランスの有権者は分裂した。

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マリーヌ・ルペン氏、フランスの2017年大統領選挙の極右政党「国民戦線」候補者。世論調査では決選投票での敗北が予測されているが、ルペン氏自身はサプライズの勝利で予想を裏切ってみせると主張している。PASCAL ROSSIGNOL / REUTERS

「ルペン氏が30〜40%の票を獲得するかどうかが、極めて重要だ。本来であれば、思いも寄らないような事態だからだ」と、ポピュリズムの専門家でグリフィス大学教授のダンカン・マクドネル氏は語った。これまで国民戦線が決勝投票まで勝ち残ったのは2002年のみ。この時、マリーヌの父ジャンマリ・ルペン氏は82%対12%で大敗した。

しかし父とは異なり、ルペン氏は25%近い失業率に直面している若年層から、貿易やグローバリゼーションの恩恵から取り残されたと感じている有権者に至るまで、幅広い有権者層からの支持を取りつけている。

「過去の選挙の戦力分布図を見ると、ルペン氏に投票した人とマクロン氏に投票した人の間で、基本的に2つのフランスができています。色々な意味で忘れられているフランスの地域――つまり、農村部やラストベルト(錆びついた工業地帯)――では、ルペン氏支持が優勢なのです」と、ヨーロッパ政治が専門のコーネル大学メーブル・ベリッツァン教授は指摘している。

明らかな分裂が生まれたのは、ポピュリストの台頭だけが原因ではない、と専門家は言う。与党の社会党が、労働者階級の有権者層で高まっている不満に対処できなかったことも一因だという。

「フランスとヨーロッパでポピュリストが台頭したのは、より一般的には、原因というよりむしろ結果ととらえるべきなのです」と、バーナード・カレッジの政治学教授シェリ・バーマン氏は語った。

「中道左派、社会民主党、労働党は、過去数十年間の経済的、社会的な課題に十分対応できませんでした」と、バーマン氏は指摘した。「彼らがしてきたことで、伝統的な選挙区が分裂したのです」

伝統的な左派の崩壊から恩恵を得たのは極右だけではなく、急進左派政党も同様だ。共産主義者に支持されるジャン=リュック・メランション氏は、第1回投票で20%近くの票を獲得し、若年層の有権者の間で人気がある。彼が言う、「フランス寡頭政治」の打破を公約に選挙を闘い、自身をアメリカのバーニー・サンダース上院議員になぞらえた。

政治体制に対するフランス人の嫌悪感は極めて根強く、第1回投票では有権者の40%以上が政治姿勢が極端な候補者に票を投じた。親EU派で元銀行員のマクロン氏ですら反エスタブリッシュメント(既得権益層)をアピールし、左派でも右派でもないことを主張している。

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HuffPost

フランス大統領選で起こったことは、特異なことではない。

「明らかに、ヨーロッパ諸国全域で人々の忠誠心が変化しており、党派と党への忠義が変わってきています。人々は今、これまでのイデオロギーを捨て、中道左派か中道右派、あるいは国民戦線のような政党に投票する準備ができているのです」と、とマクドネル氏は語った。

既成政党体制の破綻はヨーロッパ全域に広まっている。3月15日のオランダ下院選では、労働者重視の労働党(PvdA)が第2党から第7党に転落し、壊滅的な敗北に終わった。フランスの与党、社会党は第1回投票で選挙地図から事実上姿を消し、わずか6.4%の得票率しか獲得できなかった。イギリスでは、かつては勢いがあった労働党は、2017年6月の解散総選挙で屈辱的な大敗を喫するとみられる。

イタリアの中道左派、マッテオ・レンツィ首相は2016年12月の国民投票で敗北した後に辞任し、現在最も人気のある政党はイデオロギー的に漠然とした「五つ星運動」だ。党首のベッペ・グリッロ氏は元コメディアンで、「ドナルド・トランプ氏の勝利は既成勢力に対する抗議の声だ」として称賛した。

こうした国々にはいずれも政治制度に変化をもたらす国内の特異性がある一方で、既成政党への脅威は国をまたいだ傾向となっている。

フランスのルペン氏と同じく、極右のポピュリスト政党はこの政治的分裂をフル活用し、育んできた。EUへの反感――同様に移民と難民の危機にどう対処するかについての議論――が続く中、極右のポピュリストたちは腐敗したエリートから権力を奪って国民に返還すると主張して支持を得ている。

しかし、これらの政党は「人々」が実際には誰なのかについて、狭く差別的な定義を持っていることが多く、移民、イスラム教徒、そしてその他のマイノリティを排除する傾向がある。

ブリュッセルのエリート政治家や当局者に対する激しい非難に加え、極右のポピュリストたちはエスノ・ナショナリスト(他の民族集団と混在してきた少数民族集団が、自民族による国家を形成しようとする運動を展開する人々)の感情を刺激し、移民や難民を優遇する既成政党を非難した。彼らは国境を閉鎖し、反イスラム法を制定し、国際機関に背を向けることを公約に掲げている。

イギリスのEU離脱とアメリカ大統領選以降、ポピュリズムの台頭にさらなる注目が集まっているが、ヨーロッパの極右は何十年にもわたり成長を続けている。しかし現在、ヨーロッパの数カ国で、こうした極右政党の一部がこれまでにないレベルの支持を得ている。

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旗をかかげてエナン=ボーモンに到着するマリーヌ・ルペン氏を待つ支持者たち。PASCAL ROSSIGNOL / REUTERS

既得権益層の政治家が権力を持ち続けたドイツ、イギリス、オランダといった国々では、ひんぱんに極右に降伏してきた。オランダのマルク・ルッテ首相は、移民問題に対する姿勢を硬化させ、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は顔を覆うベールを禁止し、イギリスのデーヴィッド・キャメロン元首相は反EUの右派からの圧力を緩和する手段として、EU離脱を問う国民投票で賭けに出たことで批判を浴びた。

しかし、ポピュリストの挑戦を骨抜きにするこうした措置は、その場しのぎの解決策でしかない。もし既成政党が有権者をますます極端に走らせる社会的、経済的な問題に対処することができなければ、ポピュリスト政党は今後も政策が検証される必要のないまま、反対勢力として台頭し、成長し続けるかもしれないと専門家は考えている。

マクロン氏は5月の投票で勝利すると予想されているが、新政党の出身で経験の浅い政治家でありながら、フランスが抱える数えきれないほど多くの病を治すという任務を負うという、大きな試練に直面するだろう。一方でルペン氏は、マクロン氏が失敗すれば、自分のポピュリスト政策こそが唯一本物の代替策だとアピールできる。2022年のフランス大統領選では、その訴求力はこれまで以上に強力になっている可能性がある。

■ 複数の政党がルペン氏の当選を阻止するために結束

ルペン氏は23日の夜、支持者らを前に「これは歴史的な結果だ」と述べた。極右政党の党首であるルペン氏は、フランスの国境を厳しく取り締まると繰り返し約束し、グローバリゼーションの蔓延がフランスの文明を危険に晒していると主張している。さらに自身が求めている移民抑制について、フランス国民が安全な国と「テロリストが自由に出入りできる国」のどちらを選ぶのか投票によってはっきりすると付け加えた。

ルペン氏の反EU、反移民的な思想がフランス全土に根付くことが懸念されるなか、フランスやヨーロッパ各国の政治家らは、23日の結果発表直後にマクロン氏を支持すると発表した。政治家らは政治的領域を超え、団結してマクロン氏を支持し、ルペン政権の誕生を阻止するための「防疫線(cordon sanitaire)」を設定するようだ。

マクロン氏は23日の夜「我々は1年でフランスの政治状況を一変させた。私はナショナリストの脅威に立ち向かう、愛国主義者の大統領になりたい」と述べた。

一方、保守派の共和党候補者フランソワ・フィヨン元首相は、敗北宣言の中でマクロン氏に投票するよう支持者に求めた。「今回の敗北は私の責任だ。 私が、私一人が負うべき責任だ」とフィヨン氏は述べた。「過激思想はフランスに不幸と分断をもたらすだけだ。極右に反対票を投じる以外に選択肢はない」

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フランス大統領選の決選投票が実施される5月7日は、同国の現代政治史上最も重要な日になる。JEFF J MITCHELL VIA GETTY IMAGES

23日に惨敗を喫した与党・社会党の候補ブノワ・アモン氏も、中道派のマクロン氏の支持に回った。「マクロン氏に投票してできる限りの力で国民戦線と戦おう。彼は左派ではないが」とアモン氏は訴えた

アモン氏はベルナール・カズヌーヴ首相の呼びかけに加わった。カズヌーヴ首相は声明の中でこう述べた。「大統領選の決選投票で極右政党の候補者が残っているのは15年前、2002年4月の衝撃的な選挙以来だ。彼女は全フランス国民からの明白で強い立場を求めている。だから私は大統領選の決選投票で、国民戦線を敗北させるため、エマニュエル・マクロン氏に投票するよう国民に求める」

フランス国内のあらゆる政治家や政党がルペン氏に抵抗する様子は、国民戦線が決選投票まで残った前回の2002年大統領選を彷彿とさせる。当時国民戦線の党首だったマリーヌ・ルペン氏の父ジャンマリ氏は、左派と右派の有権者らが結束して反対に回ったため、完敗した。

反対派は、ルペン氏が父親と同じ運命をたどることを願っている。 ルペン氏は父親が党首だった頃よりも、党の方針をより幅広い有権者に受け入れてもらおうと尽力しているが、世論調査ではマクロン氏の圧勝と予想されている。

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「私はナショナリストの脅威に立ち向かう、愛国主義者の大統領になりたい」とエマニュエル・マクロン氏は23日の夜に述べた。 PHILIPPE WOJAZER / REUTERS

選挙期間中、マクロン氏は親EUの立場を取り、EU本部やドイツから歓迎された。一方でマクロン陣営は、ロシア政府系のメディアが大統領選に介入しようとしたことを非難した。23日、EUの指導者たちはためらうことなく投票結果を歓迎した。

ドイツではアンゲラ・メルケル首相の報道官が、マクロン氏の「幸運を祈っている」と声明を出した。

ベルギーのシャルル・ミシェル首相は「楽観的な」ヨーロッパのプロジェクトでマクロン氏が成功することを願っているとツイートした。

欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長も成功を祈っていると表明した。

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保守派の候補者フィヨン氏は、大統領選の第2回投票でマクロン氏に投票するよう自身の支持者らに求めた。THIBAUD MORITZ/IP3 VIA GETTY IMAGES

極左のジャン=リュック・メランション氏は、有力な候補者の中で唯一マクロン氏への支持を拒否した。ルペン氏と同様に、メランション氏はEUやさまざまな国際組織を強く非難している。

メランション氏が支持を拒否したため、中道派のマクロン氏は決選投票で左派からの重要な票を失うかもしれない。

23日の夜、メランション氏の支持者の中には苦い思いをした人もいたようだ。

「私は家にいます。勝負はつきました。マクロンはもうほとんど大統領になったようなものです。私には仕事がありません。マクロンでもルペンでも、どっちも同じです」と37歳の有権者ファリドさんはロイター通信に語った。またファリドさんは、決選では投票しないつもりだと述べた。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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