震災から2年半、避難者と市民の共存問題を抱える「いわき市」

9月8日に福島県のいわき市長選が行われ、新人の清水敏男氏(50)が、現職の渡辺敬夫氏(67)を含む4人の争いを制して当選した。東日本大震災から、9月11日でちょうど2年半。いわき市の有権者は政治に何を感じているのか。
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9月8日に福島県のいわき市長選が行われ、新人の清水敏男氏(50)が、現職の渡辺敬夫氏(67)を含む4人の争いを制して当選した。4月に行われた郡山市長選、7月の富岡町長選に続き、現職が敗れた選挙となった。

現職候補が落選するパターンについて朝日新聞デジタルは、「復興の遅れが政治との距離をうみ、投票を棄権する有権者が増え、変化を求める人が新顔を押し上げる」状況であると分析している(朝日新聞デジタル「福島で現職相次ぎ落選 除染・復興遅れで批判の的」より。 2013/09/09 15:13)。

東日本大震災から、9月11日でちょうど2年半。いわき市の有権者は政治に何を感じているのか。

■避難者の増加が原因で起こった「医師不足」問題

今回のいわき市長選の最大の争点の一つになったのは、県内の医師不足への対策についてだった。

福島県は人口10万人当たりの医師数が122.5人(前年比1.8人減)で、全国ワースト2位という状態だ。以前から医師・看護師不足が顕在化していたところに、避難者たちによる医療機関利用の増加によって、いわき市の病院では、待ち時間が増加したり、救急搬送が急増するなどの状況に陥っている。

いわき市は、津波で300人近くが死亡し、7千人以上が仮設住宅や借り上げ住宅で暮らしている。一方で、福島第一原発周辺の自治体から約2万4千人の避難者を受け入れており、その数は福島県内の市町村で最多となっている。

さらに、復旧・復興事業に携わる作業員も加わり人口は増加。その結果、前述の医師不足や、交通渋滞、そして市街地の賃貸物件は満杯状態が続くなどの問題が出ているという。県宅地建物取引業協会いわき支部の佐藤光代支部長は「結婚を控えたカップルの新居が見つからない」と話す

■いわき市民と避難者の間のわだかまり

これらの避難者と、いわき市民との間で感情的なわだかまりが存在していることも明らかになっている。

渡辺前市長は2012年4月に、いわき市に避難した福島県の住民について「東京電力から賠償金を受け、多くの人が働いていない。パチンコ店も全て満員だ」と発言している

また、NHKニュースでも『被災者、帰れ』との落書きが2012年12月に、いわき市役所の玄関に書かれたことが取り上げられている。

「いわき市民は補償が(ほとんど)なくて、(原発周辺の)双葉郡は確かに原発の関係で被災して、補償の対象になった人がいっぱいいる。感じる人はいっぱいいる、口には出さないけど。」

(NHK おはよう日本「避難者への“いらだち” なぜ?」より。 2013/04/26)

更に持ち上がったのが、「町外コミュニティー(仮の町)」整備構想だ。原発の周辺市町村のかたたちが、将来元の街に戻って暮らすことを想定し、現在のように県内外の複数の箇所に各家庭がバラバラに暮らすのではなく、いわき市や福島市などに新しい住宅街「仮の町」を作ってまとまって暮らそうというもの。

政府は、町外コミュニティーのための災害公営住宅を整備するため、2014年度の復興予算概算要求には、長期避難者生活拠点形成交付金として612億円を計上したが、「町外コミュニティ」構想への課題は山積みだ。例えば、「仮の町」の住民は、どこに税金を納めるのか。ゴミ収集など、「仮の町」の住民たちへの公共サービスはどこが提供するのかなどには、新しい法律の整備が必要になる。

カメラマン・ライターのかさこ氏のブログ記事には、いわき市の津波被災者の方から「なぜ私たち津波被災者がろくに支援が受けられていないのに、地元住民ではない原発被災者ばかり優遇するのか」「いくら声を、あげても蓋をされる、意地悪な市民とされる、疑問符がたくさんあります」というメールが届いたと記されている。

いわき市が確保した国の復興交付金は800億円規模だというが、他の被災地と同様に、着工の遅れなどによって多額の復興予算を有効に使えない状況が続いた。予算の使い方にもさまざまな縛りがある。

■人口の増加を、わだかまり解消のプラス材料にするには

朝日新聞のいわき市長選・出口調査によると、「投票の際、どの政策を最も重視しましたか」という質問への回答は、「放射線対策」が27%、「医療体制の整備」が21%、「被災者の生活再建」が20%、「産業振興と雇用」が15%、「風評被害対策」が10%だったという(朝日新聞デジタル「いわき市長に清水氏 初当選」より。 2013/09/10)。

人口が増えたことで、雇用が増え、経済が活性化するなどのプラス材料が見えれば、地元住民と避難者の溝も埋まる可能性もある。清水新市長は雇用対策として「再生可能エネルギー産業やバッテリー産業の集積、原発廃炉産業やロボット産業などの、新しい産業の集積を目指します」との言葉を、選挙公約に掲げた。

清水氏が訴えた「私なら、復興に向けて、もっとスピードアップできる」という県議としての経験と実績は本物か。市民の期待に応えることができるのかに注目だ。

被災者と住民との共存についてあなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。

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