橋下市長は市民の懐深く入り、市民の気持ち、また声を集める選挙を

橋下市長が辞任し選挙で市民の民意を問うとしているのですが、違和感を覚える人も少なくありません。唐突だとか、税金の無駄だとか、パフォーマンスだとかの批判もあります。しかし橋下市長の辞任や選挙の是非を論じる前に、まずは大阪の現状を見て欲しいのです。
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なにかを創造する、また改革する意欲や能力はなくとも、変化を嫌い、チャレンジの芽を摘み取ることにかけては実に巧みな人たちはどこにもいるものです。現状に変化が起こることへの不安があり、「今」を維持しようとする心理が強く働き、それによって普段は眠っている脳に刺激が走り、巧みな罠をしかけてきます。「大阪市会」はどうもそんな流れになってきている印象を受けます。ちなみに「大阪市会」は、普通なら「大阪市議会」でしょうが、慣例なのか「大阪市会」といいます。

世間の注目が都知事選に集まる中、大阪都構想をめぐる区割り案について、公明党が「慎重審議」とし、都構想推進に急ブレーキがかかりました。どう考えても、大阪都構想潰しに流れたとしか映りません。

政治の世界はどうなるかはわからないにしても、維新と公明党との蜜月も終わるのでしょう。維新ブームが終わったこと、また橋下市長の慰安婦問題への発言で急速に人気が落ちたことで、もう大阪都構想はない、維新とくっつくのは不利だと見ての判断が公明党にはあったのだと思えます。

そして橋下市長が辞任し選挙で市民の民意を問うとしているのですが、違和感を覚える人も少なくありません。唐突だとか、税金の無駄だとか、パフォーマンスだとかの批判もあります。

しかし橋下市長の辞任や選挙の是非を論じる前に、まずは大阪の現状を見て欲しいのです。

大阪は活発な商業の都市圏であったはずが、長年、経済の停滞が起こり、東京への一極集中化を加速させてきました。情報化や経済のサービス化に乗り遅れた結果でしょう。県内総生産の推移を見れば大阪と東京との経済格差は広がる一方です。

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そのために当然起こってきたのは、人口の流出です。とくに働き盛りの若い世代が東京に吸い取られていくという現象が起こってきました。これは大阪に長年暮らしているとほんとうに実感します。次代を担う若い世代の流出ほど地域を痛みつけるものはありません。さまざまな予測でも、大阪圏は経済、人口ともに三大都市圏からやがて脱落するだろうとされています。

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さらに起こってきたのは関東圏への本社移転です。東京も近隣の埼玉や神奈川などへに本社が移転する傾向がありますが、大阪から逃げ出す企業が多くなってきたのです。

全国的に見れば、大阪が沈もうが沈むまいがどうでもいいことで関心事ではないかもしれませんが、東京の一極集中化はやがて、東京しか稼げない、あとは東京におんぶにだっこの国になりかねず、そのもっとも重たいお荷物が大阪になりかねません。

逆に大阪が再活性化すれば、日本の健全な多様化が進み、若い世代の就労機会も増えて、東京と比べれば住環境も良い仕事を選択することも可能になってきます。

そんな大阪の将来をどうするのか、大阪府のGDPで言えば、台湾、ノルウェー、オーストリアに匹敵する規模をもつ経済圏を自然死に向かわせるのか、あるいは再生させるのかを少なくとも大阪の政治家は示す責任を持っているはずです。これは国に頼ることではありません。自らの努力です。またそれが大阪の伝統文化でした。ところがそれをわかっていても誰も示さなかったのです。しかし長年、議論すれども前に進まずで、ビジョンが欠けていました。そこにやっと出てきたのが大阪都構想です。しかもそれを潰したい、現状維持と小さな改善だけで終わらせたいという人たちもなかにはいます。

さて、チャレンジを潰す常套句があります。「会社がどうのこうのを言う前に、目の前の仕事をちゃんとやれ」です。自民党の市議会議員が橋下市長の選挙に触れ「予算審議に空白が生じる。選挙はもってのほかだ」と言っていたのがテレビの報道でありました。似ていませんか。

目先の問題で批判する前に、堂々と対案を示すべきなのです。

大阪都構想に反対なら、なにがしかの対案があるかといえば、現状はそうではありません。自民党、民主党、共産党がまるで共闘しているかのように、伝わってくるのは反対だ、そんなことをしなくとも大阪はやっていけるというの楽観主義の声ばかりです。

国会なら、内閣が進めたい政策が承認されなければ、解散総選挙で民意を問うことが可能です。小泉内閣の郵政選挙がそうでした。しかし地方自治の場合はそうはなりません。市会が市長の不信任案を可決しない限り、市長には解散の権限がありません。

だから市長職の辞任、市長選となったのでしょう。他の会派は対立候補を立てないともいわれています。内情は立てられないのかと疑ってしまいます。いくら橋下市長人気に陰りが見え始めたと言っても、勝てそうにないからでしょう。

市長選はやるべきでしょう。ただ、選挙活動の中味によってはです。ただ再選され、それが民意だというだけの選挙なら、それは一人芝居に過ぎず、選挙を弄んだとなってしまいます。

もし、大阪の現状や危うい将来についての問題を、市民の人たちと共有しあうため、再度大阪都構想の目的を認識してもらう、さらに大阪の将来に対する市民からの声や知恵を集めるための選挙選であれば意味もでてきます。

市民が将来に向けた第一歩を決断するための選挙だけなら、「出直し市長選で橋下氏が勝利したとしても、大阪都構想の区割り案の絞り込みに反対した、府議会や市議会の会派構成には変化はない」(東京新聞)なので、事態の打開にはつながらず、2015年の市議会選で維新が過半数をとるまで待つことになります。

2月から3月は、市予算の編成時期にあたる、市長選には6億円前後の臨時出費が見込まれ無駄な選挙だという批判もありますが、大阪の将来を考える、大阪の将来を切り開くために市民との対話で合意を得るということであれば意義も生まれてきます。

選挙がさらに逆風として返ってくるのか、改革に向けた旋風をふたたび巻き起こせるのか、橋下市長のセンスや手腕が問われてくるところです。

(2014年2月3日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)

ニュースで見る橋下徹市長 画像集
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堺市長選 維新の西林氏が敗北(02 of15)
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「桜宮高校体罰事件」に判決 - 被告の深い反省が逆に体罰問題の解決を難しくする?\n\n大阪市立桜宮高校のバスケットボール部のキャプテンだった男子生徒が当時の顧問だった教諭による体罰を受けた後自殺した問題で、大阪地方裁判所は2013年9月26日、傷害と暴行の罪に問われていた元教諭に対し、懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡した。\n\n記者会見で、大阪市立桜宮高校の体罰自殺問題をめぐる初公判について語る大阪市の橋下徹市長=2013年09月05日午後、大阪市役所 (credit:時事通信社)
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【堺市長選】橋下徹代表「争点あやまった」維新苦戦で反省\n\n大阪維新の会の橋下徹代表(大阪市長)は9月24日に記者団の囲み取材に答えた。堺市長選で公認している西林克敏候補の戦いについて「大変厳しい」と苦戦していると認めた上で、「争点の設定の仕方を誤った」と反省の弁を繰り返した…\n\n堺市で街頭演説する大阪維新の会の橋下徹共同代表(中央)。左は西林克敏氏。\n\n撮影日:2013年08月27日 (credit:時事通信社)
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自民、単独過半数届かず、どうなる改憲議論【参院選:選挙結果】\n\n日本維新の会は選挙区で2、比例区で6と合計8の議席を獲得したが、昨年の衆議院選挙の勢いはなかった。橋下徹共同代表は21日夜、大阪市で記者会見し、この結果について「勝ちではない。僕への信任がなかった」と述べ、責任を認めた…\n\n開票センターで記者会見する橋下徹日本維新の会共同代表=2013年7月21日夜、大阪市北区 (credit:時事通信社)
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都議選惨敗も維新共同代表を続投へ\n\n日本維新の会・共同代表を務める橋下徹・大阪市長は6月24日、都議選の結果を受けて「惨敗、完敗です。全責任は僕にある」と、記者団を前に敗北の責任を認めた…\n\n2013年6月24日 (credit:niconico)
都議選・握手する橋下氏と石原氏(07 of15)
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都議選の街頭演説でそろい踏みし、握手する日本維新の会の橋下徹(左)、石原慎太郎両共同代表=22日午後、東京都豊島区 \n\n撮影日: 2013/06/22 (credit:時事通信社)
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橋下徹維新の会代表が、石原慎太郎氏と石原信雄氏に反論\n日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は、19日、2人の石原氏に反論した。一人目は日本維新の会共同代表の石原慎太郎氏であり、もう一人は石原信雄氏だ。\n\n2013年06月19日\n\nーーーー\n石原慎太郎氏から批判を受け、記者団に説明する日本維新の会の橋下徹共同代表=19日午前、大阪市役所 (credit:時事通信社)
「日本維新の会」が失速、参院比例投票めぐる世論調査 (09 of15)
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各社の世論調査では、日本維新の会の失速が目立った。参院比例区の投票先として、堅調な数字だった自民に対し、いずれも維新は順位を下げる結果となった。\n\n2013年06月11日\n (credit:Getty)
取材に応じる橋下市長(10 of15)
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従軍慰安婦問題について、記者の質問に答える大阪市の橋下徹市長=2013/05/15午後、大阪市役所 \n\n橋下氏の慰安婦発言、風俗発言に米政府は「割り込みたくない」のか\n\n橋下氏発言、議論呼ぶ 「慰安婦制度は必要だった」 「米軍、風俗業活用を」\n\n橋下氏「慰安婦発言」あなたはどう思った? コメント紹介 (credit:時事通信社)
激高する橋下市長(11 of15)
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記者の質問に激高する橋下徹大阪市長=2013年05月17日夜、大阪市役所 (credit:時事通信社)
質問に答える橋下共同代表 (12 of15)
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日本維新の会結党大会後、記者の質問に答える橋下徹共同代表(中央)=2013/03/30 午後、大阪市内 (credit:時事通信社)
市議会議長らと会談する橋下市長(13 of15)
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旧日本軍の従軍慰安婦制度をめぐる発言で大阪市議会の辻淳子議長(中央)らと会談する橋下徹市長(左)=2013/05/15午後、大阪市役所 (credit:時事通信社)
「大阪都」構想法定協が初会合(14 of15)
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「大阪都」構想実現のための特別区設置協議会の初会合。左列奥は大阪市の橋下徹市長。右列奥は大阪府の松井一郎知事=2013/02/27、大阪市中央区 (credit:時事通信社)
会見する橋下共同代表(15 of15)
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日本外国特派員協会で記者会見する日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)=27日午後、東京都千代田区\n\n\n橋下氏は日本外国特派員協会での記者会見で何を言いたかったのか\n\n2013/05/27 (credit:時事通信社)