「憎まれっ子世にはばかる」は、悔しいけれど本当ですという話

自分の性格が悪いことを棚に上げて言うけれど、仕事を始めてから出会った人で、信じられないほど性格が悪い人な、と感じる人が何人かいた。
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Jandee Jones via Getty Images

自分の性格が悪いことを棚に上げて言うけれど、仕事を始めてから出会った人で、信じられないほど性格が悪い人だな、と感じる人が何人かいた。

もうかなり前、同年代、同業種で開かれた30人ぐらいの飲み会に呼ばれたときのこと。初対面の人が多い飲み会で、私はライターの女の子(Aちゃん)と2人で参加。店に入ってすぐ、当時クライアントだった女性が目に入ったので、とりあえず挨拶しよう、彼女と面識のないAちゃんを紹介しようと思ってそばに行った。

「〇〇さん」と声をかけたら、その人は振り返った。どうやら私が来ていたことを知っていたみたいだった。そして、ものすごく軽蔑した目で私を見て言った。

「あのー、こういう飲み会ってー、知り合い同士でくっついて喋る場じゃないんですよねー」

控えめに言って絶句。

知ってる、こういう場が知り合い同士でくっついて喋る場じゃないってことは知ってる、私があなたに挨拶しにきたのはクライアントだから、というかクライアント云々以前に知り合い見つけたのに挨拶しないのって失礼でしょう、そういう社交辞令には大人として社交辞令で返してもらえないでしょうか、それに話しかけてから思い出したけどクソ性格の悪いあなたとこの飲み会で長々話すつもりは微塵もないんですけど、っていうか、なんで挨拶しただけで、あなたは私のことを「こういう飲み会で初対面の人と交流できずに浮いちゃって、結局知り合い同士で話しちゃう女子っぽい女子」って決めつけてるんですか、飲み会のルール知らない田舎者に教えてあげてるつもりなんですか、それってすげー失礼じゃないですか、人のこと見下してるってあからさまに態度に出すってかっこ悪いと思わないんですか...

などなどと思ったけれども、ぐっっっっとその言葉を飲み込んで言った。

「あ、そうですよね。じゃあまた後で」

非常に情けない気持ちで仕方なくて、その彼女に半ば見せつけるようなつもりで、飲み会に来てる人ほとんど全員のところに話にいって名刺を交換した。そして帰りにAちゃんから、「私、たくさんの人とちょっとずつ話すより、少なくてもいいから1人ひとりの人とじっくり話したかったです」と言われて、さらに情けない気持ちになったのだった。

彼女の被害に遭ったのは私だけではない。共通の知り合いとの間で彼女の話が出たとき、「私、あの人嫌いです」と言ったら無言で握手を求められたこともある。彼女はなぜか、自分と同年代以下の女性を「自分より馬鹿」と決めつけているらしくて、さらに美人だったり小綺麗にしていたり、大人しくて男性にモテるタイプだったりすると、その人がどんなに頑張って仕事をしていても、「男に媚びて仕事取れるのって日本だけ」みたいなことを言った。どこかの国に留学経験があって、外国人の友達も多いらしかったけれど、海外を見てきたのに、なんでそんなに視野が狭いのか、考え方が幼いのか、わかってないのか。そう思ってしまうような人だった。いろんな経験を積んで面白い人と交流しても、考え方がステレオタイプなままの人っているんだなということを私は彼女から学んだ。

それで、この人がその後、大失敗したり、同じ業界からいなくなったりすればスカッとする話なのだけど、現実は違う。あんまり詳しく書かないけれど、彼女はそこそこ成功している。

私はその理由を知ってる。彼女は、同年代以下の女性を「馬鹿」と遠ざける一方で、権力のある人に対して従順だった。弱い者に冷たく、強い者に媚びた。少なくとも私にはそう見えた。

漫画とかではよく、媚を売る卑屈な人は嫌われて、そうではないコツコツと地道な努力をする人の方が認められたりする。でも現実って必ずしもそうではない。やっぱり有名人でも権力者でも、自分に取り入ってくる人はうれしいものなのだと思う。地位のある人はその地位に就くまでいろいろと苦労して批判もされたりしたはずで、だからこそ持ち上げてくれる人がいれば素直にうれしい(のではないだろうか)。

また、私から見たら彼女は最悪な性格の人だったけれど、彼女が取り入った人から見て、彼女が「なんだかかわいいヤツ」に見えるのは当たり前だと思うし、そちら側から見た真実だ。彼女自身も、自分が弱者に冷たく強い者に媚を売る人間だなんて思っていないだろう。ただ単に、自分の本能に従っただけだ。彼女からしたら私たちは「仲良くしてもメリットがない」から、そう扱っただけのこと。

これを認めるのは非常に悔しいけれども、彼女の判断は正しかったのだと思う。好かれたい人に好かれ、どうでもいい人は離れていくように自分で選んで、成功したのだから。強い人に対して媚を売ることができるというのは、自分がどこで何をアピールすればいいかということをわきまえていることでもある。

彼女より仕事のできる女性は私の周りに何人もいるけれど、彼女ほど自分のやりたい仕事をしていないかもしれない。私はそれがとても悔しい。私の友達の、善良で真面目で謙虚で優秀な女性たちがもっと成功してほしい。でも、善良で真面目で謙虚で優秀なだけじゃダメなのかもしれない。彼女は周囲よりも能力があるかのように振る舞った。本当に能力があるようには見えなかったけれど、結果的にそうなった。「努力すれば、声高にアピールしなくても、必ず誰かが見ていてくれる」。できればそう信じたいけれど、仕事の場で謙虚さを評価されることは本当はそんなにあることではない。

↓これを読んでそんなことを考えた。

ちなみに、その飲み会から数年後、また別の飲み会で彼女に再会した。笑いながら「小川さ〜ん」と言って手を振ってきたので3回ぐらい無視したのだけど、顔を覗き込まれて「あれー、忘れちゃったのかな?」と言われた。私が忘れられないほど悔しい思いをした彼女の言動を、彼女自身は全く覚えていないわけで、これもまた非常に情けなく感じることです。ちなみに彼女とは同い年です。