ドイツが進める第4の産業革命とは何か?

日本ではあまり知られていないが、ドイツでは、いま政府、産業界、学界が一体となって「第4の産業革命」を進めている。
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HANOVER, GERMANY - MARCH 16: Visitors walk around the International Business Machines (IBM) Company's stand at the CeBIT tech show in Hanover, Germany, on March 16, 2015. (Photo by Mehmet Kaman/Anadolu Agency/Getty Images)
Anadolu Agency via Getty Images

日本ではあまり知られていないが、ドイツでは、いま政府、産業界、学界が一体となって「第4の産業革命」を進めている。

機械が自動的に機械を製造する――。SF映画に時々現れる「未来の工場」が、現実化しつつあるのだ。

欧米の産業界では「第4の産業革命」ともいうべき大変革のキャッチフレーズは、「インドゥストリー4.0(Industrie 4.0)」である。

*ネットによる生産システム

これはドイツ連邦政府が「第4の産業革命」と名づけて、官民一体で推進している技術開発プロジェクトだ。第1の産業革命は、18世紀から19世紀に英国で始まった。蒸気機関や水力機関が中心だった。自動織機の開発は、繊維業の生産性を飛躍的に高めた。第2の産業革命は、20世紀初頭に始まった、電力を使った労働集約型の大量生産方式の導入。3番目は、1970年代に始まった、電子技術の導入による、生産工程の部分的な自動化である。

これに続くインドゥストリー4.0は、インターネットと人工知能の本格的な導入によって、生産・供給システムの自動化、効率化を革命的に高めようとする試みだ。米国では、「インダストリアル・インターネット(Industrial Internet)」つまり産業インターネットと呼ばれている。

*ハノーバー見本市でも話題に

2014年4月にメルケル首相は、世界最大の工業見本市ハノーバー・メッセの会場を訪れた。メルケル氏は、ある模型の前で足を止めた。それは、ベージュ色のプラスチック素材で作られた、未来の自動車工場の模型である。この国で最大の電機・電子メーカー、シーメンス社のヨー・ケーザー社長が、マイクを片手に解説する。この模型は、シーメンス社がフォルクスワーゲン社と共同で開発中の「スマート自動車工場」を概念化したものだ。

「スマート工場」は、インターネット産業革命の中核となるもので、ネットによって結ばれた生産システムである。インターネットの最大の特徴は、リアルタイム(即時)性だ。スマート工場はこの特性を最大限に活用し、生産拠点や企業の間の相互反応性を高める。具体的には、生産工程に関わる企業が、ネットによって伝達される情報に反応して、生産・供給活動を自動的に行う。人間が関与しなくても、機械がネットによって情報を伝達しあって、生産や供給を行うので「スマート(利口な)」という言葉が使われている。

いまハノーバーで行われているIT産業の見本市CEBITでも、話題の中心はインドゥストリー4.0だ。来月のハノーバー見本市でも、このプロジェクトが焦点となりそうだ。

*生産・供給に人間の関与は不要に

たとえば自動車を組み立てているA工場と、そのために自動車部品を供給しているB社をネットでつなぎ、A工場で部品の在庫が一定の水準以下に減ると、その情報がネットを通じてB社に自動的に伝達される。するとB社から自動的に部品がA工場に供給され、代金の支払いも自動的に決済される。このプロセスには、人間が一切関わる必要がない。組立工場の内部では、工作機械の不具合などがあると、システムが異常を自動的に感知し自動的に修理する。

さらにすべての部品や機械がセンサーで連絡を取り合い、部品は自分を使う組立工程に自ら流れ込んでいく。

現在ドイツでは、スマート工場に関する試験プロジェクトが次々に生まれている。たとえば企業財務ソフトウエアの大手メーカーSAP社は、自動生産システムメーカー・フェスト社と、電力・ガス供給の自動制御システムのメーカーであるエルスター社とともに、研究を行っている。

ドイツでは自動車業界、IT業界、機械製造業界がインドゥストリー4.0に重大な関心を寄せている。連邦政府も「第4の産業革命の波に乗り遅れたら、競争力に悪影響が出る」として、研究活動を積極的に支援している。

*最先端は米国

この種のスマート・ビジネスが最も進んでいるのは、グーグルやフェースブックが本社を持ち、IT分野で欧州やアジアに水を開けている米国だ。同国は、インターネット利用者の嗜好に関するビッグ・データの活用では世界で最も進んでいる。

たとえば、読者の皆さんもインターネットを利用していて、自分が関心のある製品や旅行先に関する広告が、次に見るサイトの片隅に自動的に現れたり、そうした製品に関する宣伝メールが送られてくるのに気づかれた方も多いだろう。アマゾンも、「あなたはこんな本に関心があるのではないですか」と新刊の購入を勧めてくる。これは、インターネットを利用して消費者の嗜好に関するデータを集め、人工知能がデータを分析して消費者に商品を勧めるスマート・ビジネスの例だ。

このように米国は、まず大衆向けの商品に関するビジネスのスマート化を進めているが、今後は工業用のスマート・ビジネスを本格化させる。たとえば米国のジェネラル・エレクトリック社、シスコ社、インテル社が2014年4月上旬に「産業インターネット・コンソーシアム(IIC)」というプロジェクトをスタートさせたのは、その表れだ。

*雇用市場には悪影響も

スマート工場の建設の鍵の一つは、ソフトウエアの開発だが、多額の資金がかかるので、ドイツ企業の90%を占める中規模企業(ミッテルシュタント)にとっては、不利だ。このため、政府が主導で産業のスマート化を進めようとしていることは、重要である。

ただし産業のスマート化には、問題点もある。スマート工場が普及した場合、企業は人件費を大幅に削減することができるが、雇用市場では悪影響が出る。政府は、インターネット産業革命が社会に及ぼす悪影響についても、十分配慮して欲しいものだ。

ドイツ・ニュース・ダイジェスト掲載の記事に加筆の上、転載

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de