ネットで薬を調べまくる患者さんも、自分が何を知らないのかまでは知らない

最近は、スマホやタブレット片手に、インターネットで薬や精神疾患について調べながら来院される患者さんが増えました。

最近は、スマホやタブレット片手に、インターネットで薬や精神疾患について調べながら来院される患者さんが増えました。薬の名前をペラペラ列挙し、先生あれどうですか、これどうですかと、あたかも製薬会社のセールスマンのようです。

副作用もよく調べてますね。先生、これはパーキンソン症候群ですか、先生、のどが渇くのは抗うつ薬の副作用ですか、といった指摘は、ときに的を射ていることもあります。

でも、精神科医からみると、こういうインターネットにべったりな患者さんの知識はやはり偏っているようにみえます。

薬の名称、効果、副作用は余計なほど知っているのに、どれぐらいの用量でどれぐらいの期間使用したら効果が出やすいのか、薬ごとにどのぐらい副作用を避けやすいのかまで知っている人はまずいません。薬の効果を引き出すためにどういった手順や療養態度が必要なのかの知識も、たいてい欠落しています。シンプルなうつ病と妄想を伴ったうつ病で薬の使い方がどう違うのかといった、疾患ごとのポイントまで踏まえている人もあまり見かけません。

もちろん、それらは専門家が知っておけば良いこと(そして患者さんごとに説明をすれば良いこと)で、本来ネットで調べてどうこうする必要の無いところかもしれません。ですが困ったことに、ネットで調べまくって来院される人のなかには、自分の知識に偏りや欠落があることを自覚できていない人が少なからずいるのです。ときには医師に偏りを指摘されてもぜんぜん自覚できず、ネットで聞き覚えた知識ですべてカヴァーできていると思い込んだままの人もいます。

こうした現象をみていて、つい私が思い出すのは、

上記の記事です。

ネットで薬の知識を頭に詰め込んで来院される患者さんには、この、『自分が知っていること』と『自分が知っていると思っていること』の区別がついていないタイプがかなりいるようにみえます。自分がネットで仕入れた知識をありがたがるあまり、どこまでネットに載っていなくて、どこまで自分が知らないのかには無自覚な人が大半ではないでしょうか。

この話は、他の診療科の薬についてネットで知ったつもりになっている人にも当てはまることでしょう。また他業種でも似たような現象が起こっていることでしょう。私自身も、あまり他人事だと思えないですね。

■ネットだけでは知識の断片を束ねられない

最近、インターネットを眺めていてますます思うのは、ネットは知識の入口や断片を収集するには優れているけれども、それ以上のことは教えてくれない、ということです。

何かに興味を持ち、その入口として用いるにはインターネットは非常に便利ですし、私は、最初の検索としてwikipediaを読んでみるのもそんなに悪いことじゃないと思っています。

でも、もっと本格的に知りたいだとか、体系的に学びたいだとか思った時には、学習や検索をインターネットだけで絶対に完結させてはいけません。書籍でもいいし、専門家や学校でもいいですが、インターネットに載っていない部分を補完し、知識の断片を束ねるための"紐"にあたるものを求めなければなりません。この"紐"にあたるものが欠けている限り、専門家向けのネットの文章ですら十分には生かせないでしょう。

精神科の薬物療法に限らず、知識の泉としてのインターネットはまだまだ単体で成立するものではなく、書籍や専門家や学校によって補われることでようやく成立するものだと私は思います。

インターネットはたくさんの知識を与えてくれるけれども、自分にどんな知識が欠けているのかまでは教えてくれません。「お前の知識は、ここが足りないよ」と、わざわざ注意してくれるほど親切ではないのです。その点には、どうかご注意を。

(2015年4月13日「シロクマの屑籠」より転載)