日本の食文化「ウナギ」~いつかうなぎのぼりの供給量に:研究員の眼

ウナギの価格は、ここ10年で約2倍になっている。まさに、うなぎのぼりだ。

値段が上がっても大人気・日本のメジャー食品ウナギ

先月の7月30日は土用の丑の日だったが、財布と相談してウナギはあきらめた。

ウナギの価格は、ここ10年で約2倍になっている。まさに、うなぎのぼりだ。

価格がこれだけ上昇しても、日本でのウナギ人気は根強い。価格上昇をあまり気にしない人が多いとする調査結果もある。年間の消費量は約51,000トンにも達し、世界の消費量の70%に相当するといわれている。また、ウナギのかば焼きへの1世帯当りの年間支出額(総務省家計調査)は2,436円となっている。

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流通しているウナギの分類

国内で流通しているウナギは、(1)「国産か、輸入か」・(2)「天然か、養殖か」・(3)「種類は何か」の3点で分類できる。それぞれ順に確認してみた。

「国産か、輸入か」では、輸入が高い割合を占めている。世の中に出回っているウナギのうち、国産は4割程度で、残りの6割が海外からの輸入となっている。

調べたところ、1970年代から海外でのウナギ関連ビジネスが盛んになったそうだ。初めは台湾からが中心で、その後90年代に養殖技術を確立した中国からのものが増加したという。

「天然か、養殖か」については、輸入品も国産も、ほぼ全てが養殖だ。なお、養殖とはいっても、現在確立されている養殖の方法は、天然のシラスウナギ(ウナギの稚魚)を捕獲して養殖場で育てるものだ。

ウナギの漁獲生産量は養殖に比べ微々たるもので、ウナギの成魚の漁獲量が減少しても、全体の供給量にはそれほど影響しない。しかし、シラスウナギの漁獲量は養殖の生産量を大きく左右するため、非常に重要だ。

「種類は何か」だが、世界のウナギ16種類のうち、5種類が日本で食用として流通している。国内で食べられているウナギの多くを占めるのがニホンウナギだ。

それ以外に、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギや、近年日本でも出回り始めたもので、オーストラリアウナギ、東南アジア生息のビカーラウナギという種もある。

なお、日本人の口に合うのはもちろんニホンウナギだ。ビカーラウナギはニホンウナギに比較的近い味わいだというが、オーストラリアウナギは日本人が食べると白身魚のような味わいだと感じる場合もあるようだ。

輸入品の増加とウナギそのものの減少

ウナギの価格が僅かながら低下を続けていた90年代後半から2003年ごろは、中国産の養殖ヨーロッパウナギが市場に出回った時期だった。

2000年にはウナギのかば焼きの流通量がピークとなったが、2003年に中国産のウナギに禁止薬が使用されていることが発覚し、中国の管理が厳格化。流通量が減少し、価格は上昇に転じた。

2008年から2010年の間は、短い踊り場期間に入った。リーマンショック後、デフレの進行を受けて、値段を据え置いたのだろう。しかしこの時期、ウナギの価格上昇に繋がる動きが起きる。

2008年にヨーロッパウナギが国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(絶滅が危惧される生き物の一覧)に加えられた。中国の養殖向けに乱獲が進んだ結果だ。

レッドリスト自体に拘束力はないが、野生動植物の貿易を規制するワシントン条約に影響を与えることで知られている。翌2009年に、ヨーロッパウナギはワシントン条約の規制対象になった。

2010年からは、シラスウナギの前例のない不漁が続いた。気候変動や、河川など環境の悪化の影響でシラスウナギの産卵が減少したことが原因として指摘されている。

さらに2011年にはヨーロッパウナギ規制の影響が現れ、輸入量が大幅に減少した。シラスウナギの不漁続きで養殖ウナギが高騰する中、輸入量まで減少しては、業者も価格転嫁を避けられず、価格の大幅上昇に繋がった。

2014年6月には、ニホンウナギとアメリカウナギも、上述のレッドリストに加えられ、ヨーロッパウナギと同じ道を辿るかと思われた。

実際、今年5月のワシントン条約締約国会議でEUがワシントン条約の規制対象にニホンウナギを加える提案を検討していた。ワシントン条約の規制対象になれば、値段のことなどいっていられない。ウナギを食べることはできなくなってしまう。

同提案の動向は大いに懸念されていたが、今回は見送られた。ニホンウナギの養殖を行う日本はじめ東アジア4カ国がウナギの管理を強めており、その取組が認められたからだ。

最近の代替品・そして技術革新への期待

今回、ニホンウナギがワシントン条約の規制対象となることは避けられたが、ウナギの減少は予断を許さない。ただ、近年の目覚しい技術革新を見ると、状況が変わる可能性が感じられる。

ひとつが代替品だ。過去にも、漁獲量減少対策として、種類違いのウナギや養殖品、輸入品による代替が行われた。最近では、別の魚や他の食品がウナギの代わりに使われ、サンマやアナゴ、豚肉や鶏肉のかば焼きが土用の丑の日を狙って販売された。

今年2016年には近畿大学の養殖ナマズを使った「かば焼き丼」が大手スーパーで販売され、注目を浴びた。かなりウナギに近い味だったというので、もし量産できれば、市民権を得て日常の代替品となるかもしれない。

他の魚は開発魚といわれる代わりの魚が用いられているケースも多いと考えれば不思議なことではない。日常の代替をナマズが果たせば、ウナギの個体数確保に寄与する。これから、どれだけ本物のウナギの味に近づけられるか注目したい。

ただ、代替品があっても、ウナギがまったく消費されないわけではない。それどころか中国や韓国でのウナギ消費が増加している可能性が各種調査で指摘されている。また、環境の変化で個体数が減っているならば、ウナギの消費量だけの問題ではない。

そう考えると、やはり本物のウナギが増えてほしい。

実はいまだにウナギの生態には謎が多く解明されていないところがあるが、2010年4月には、長年に渡って研究が続けられていた悲願の「ウナギの完全養殖」(実験室で生まれ成長したウナギのオスとメスから精子と卵を採取し、卵をふ化させること)が実現した。

実用化されれば、シラスウナギの漁獲量に左右されない、安定したウナギの供給が実現する。現在は、ふ化させたウナギを大量飼育する技術の発展が急がれている。

ここで大量養殖を図っているウナギはもちろんニホンウナギ。代替品は多数出てきているが、本物のニホンウナギへの需要は尽きないだろう。国産のニホンウナギ量産はそれに応えるものだ。

日本の食文化におけるウナギの歴史は古い。縄文時代の土器からもウナギの骨が発見されているし、奈良時代の万葉集にもウナギについて詠んだ一句があるらしい。そんな日本の文化に溶け込んだウナギが食せなくなるのは到底受け入れがたい。

日本が世界に誇る和食はユネスコ無形文化遺産に登録され、海外でも認められている。ウナギ料理も和食の重要な一角を占めているはずだ。決して日本人の胃袋のためだけではない。

3年後またワシントン条約締約国会議がある。今度こそニホンウナギの規制が提案されるかもしれない。時間はあまりない。今後の技術革新に期待したい。今度は、供給量がうなぎのぼりになることを願って。

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(2016年8月31日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 研究員