プロ野球日本一が、第7戦に持ち越された。11月2日に仙台の日本製紙クリネックススタジアム宮城（Kスタ宮城）で行われた日本シリーズ・第6戦で、3勝2敗と王手をかけていた楽天が巨人に敗れたためだ。第7戦で日本一が決まることになりそうだが、どちらのチームが勝つほうが、より大きな経済効果が期待できるのか。
■楽天の日本一は経済効果「未知数」
七十七銀行が9月に発表したレポートによると、楽天イーグルスが日本一になった場合、少なくとも84億5800万円の新たな経済波及効果が生まれるという。ここ3年平均の139億円と合計すると、計224億円になる。
また、関西大学大学院の宮本勝浩教授は9月27日、楽天の日本一で約272億円の経済効果があると発表。この数字について宮本教授は、「非常に健闘した素晴らしい数値」と話している。
「一見すると少ない数字かもしれないが、これはかなり大きい経済効果」と宮本教授。宮城県の人口は約２３２万７５００人で、東京など大都市圏に比べて少ない。本拠地・Ｋスタ宮城もシーズン中に仮設スタンドを設置したが、収容人員は２万５６５１人。しかし宮本教授はチケットやグッズの売り上げ増、さらに「優勝パレードに約１０万人が参加する」と仮定した。参加者の総消費額を６億７３８０万円などと計算。日本一になった場合はＣＳや日本シリーズ開催に伴う諸収入が加算され、２７１億５５８９万円となった。
（スポニチ「楽天 日本一なら経済効果２７０億円超「かなり大きい効果」」より。 2013/09/27 07:41）
更に巨大な経済効果があると話すのは、経済評論家の平野和之さん。平野さんは9月27日に放送されたテレビ朝日の「やじうまテレビ！」で、1200億円ぐらいまで及ぶ可能性を指摘した。
（平野さん）「弱者が強者を凌駕していく方が共感しやすい。ドラマ・半沢直樹と同じですよ」
（TVでた蔵「平野和之さん | やじうまテレビ！〜マルごと生活情報局〜」より。 2013/09/27）
推定内容に差があるのは、楽天の日本シリーズ勝利が「球団初」であるため。何度も日本一を獲得している他の球団と比べて、優勝経験のない楽天は予想もしにくいのだ。
しかし、優勝が第6戦で決まらず第7戦までもつれ込んだことで、地元が潤うことは間違いない。ロイターは、地元テレビ局の方の話を次のように報じている。
仙台での初戦を観戦した地元テレビ局の職員はこう漏らす。「楽天が勝つのはうれしい。でも本音を言えば、試合がもつれて４対３で楽天が優勝するというのが理想。（試合会場が）また仙台に戻ってくれば、観客も増えるしＣＭのスポンサーがつくから」と。
（ロイター「ブログ：スポーツが刺激する地域経済」より。 2013/10/31 12:19）
仙台地区では、例年の日本シリーズの平均視聴率の高さから、今回は平均視聴率が50％を超えるのではないかという予測もあるようだ。
仙台地区で日本シリーズの平均視聴率は第３戦を除き４０％を超えており、第５戦（１０月３１日）は４４．１％、瞬間最高は５７．８％に達した。このため大一番となる第６戦の視聴率は平均でも５０％を超える可能性がある。
（河北新報「日本シリーズ視聴率「５０％超え」なるか 東北放送、準備万端」より。 2013/11/2）
楽天は、楽天が勝ったときに商品やサービスの割引などを行う店舗を集めた「楽天イーグルスを応援する会」という仕組みを設け、地元の商店とも密着している。この会には多くの店が名を連ねているため、チケットが買えずに球場に行けなくても、居酒屋などで盛り上がる人も多くいそうだ。
また、楽天が日本一を決めた場合、30分以内に楽天市場で、優勝記念セールが始まる。
星野仙一監督の背番号７７にちなんだ「７７％引き」の商品を期間、数量を限定して提供する。例として、メーカー希望価格１６３万５０００円のホンダの小型車「フィット」のハイブリッド車（ＨＶ）モデル１台を３７万６０５０円で、５０万８０００円のロレックスの腕時計１個を１１万６８４０円で販売する。監督の名前「仙一」にちなんだ１００１円セールや、福袋の販売もある。
（スポニチ「楽天 日本一ならネット商店街で記念セール「７７％引き」も」より。 2013/11/2 06:00）
楽天がリーグ優勝した際に行った「楽天優勝セール」は楽天市場の売上を底上げする効果があり、9月の流通総額は前年同月比で42%増となったという。
しかし、優勝には余計なコストも掛かりそうだ。優勝の風物詩「ビールかけ」では、約5千本のビールが用意される予定だが、掛けた後のビールの処理には、余分な手間がかかるという。
仙台市下水道条例は、ビールなどの「基準を満たさない下水」を継続的に捨てる場合は、「浄化設備を用意する」と定めている。市下水道経営部の担当者は「ビールかけは一時的なもので条例に触れないが、注意が必要」。ビールを吸い取って処理場に運んだり、ホースを直接下水管につなぐなどの対策をとるよう球団に求めた。
これを受け、球団は会場にバキュームカーを用意することにした。ビールをすべて吸い込む作戦だ。担当者は「法令に従って対応したい」と話す。処理場に運べば、ビールにも「下水処理料金」がかかる。
（朝日新聞デジタル「その瞬間を待つ 楽天、日本一へ決戦 宮城」より。2013/11/2 03:00）
■巨人が優勝なら650億円？
では、巨人が日本一となった場合は、どれぐらいの経済効果があるのか。楽天が日本一なら270億円と算出した宮本教授は、巨人が優勝した場合の経済効果を次のように算出したという。
関西大学会計専門職大学院の宮本勝浩教授によると、「巨人優勝による経済効果は５００億～６５０億円」とみられるという。巨人や阪神の優勝による経済効果は、他球団の場合に比べて高く、今年はさらに“アベノミクス”効果との相乗効果も見込める。
（サンスポ「巨人連覇“ハラノミクス”で巨大効果６５０億円」より。 2013/9/23 05:03）
巨人優勝で一番の恩恵をうけるのは「東京ドーム」を所有する株式会社東京ドームだ。巨人はホーム球場を保有しておらず、毎年東京ドームに球場使用料を支払って借りている。試合の際の球場内の売上は、東京ドームの売上となり、球団の売上にはならない。球場内広告に関しても、球場側の売上になる。
東京ドームは9月5日、今2014年1月の営業利益を、100億円になりそうだと発表した。しかし、日本シリーズに進出することで、さらに営業利益は膨らむのではないかと東洋経済は推測している。
巨人が今の勢いを継続したまま日本シリーズに出場した場合には、さらなる上振れ余地が出てくる。この場合、東京ドームの今期の営業利益は110億円程度まで膨らむ可能性があると東洋経済では見ている
（東洋経済ONLINE「巨人優勝秒読み、東京ドーム一転増益」より。 2013/09/10）
■巨人が優勝すると景気が良い？
「巨人が優勝すると景気が良くなる」と話すのは、三井住友アセットマネジメントのチーフエコノミスト、宅森昭吉さんだ。ジンクスではなく、ちゃんとした理屈があるという。
これは単なる偶然による「ジンクス」でなく、「人気のあるチームはファンが多いので、そういう人たちが祝杯をあげることで気分が高揚し、景気が良くなる」という理屈がある。
（金子 雄一著「「エコノ・センス」の磨き方―達人エコノミストのインタビュー集」より。 2012/02発売）
では、巨人と楽天、そのファン数にどれくらい差があるのだろうか。
三菱UFJリサーチ＆コンサルティングが10月25日に発表した2013年スポーツマーケティング基礎調査によると、楽天は今年、大きくファン数を伸ばしたものの、まだまだ巨人のファン数には大きく及ばない。
日本のプロ野球チームを応援している人は39.5％で、昨年から3.1ポイント増化した。プロ野球ファン人口を推計すると3,448万人（昨年比232万人増）となった。チーム別では、読売ジャイアンツが868万で1位となり、阪神タイガーズが557万人で2位になった。パ・リーグで初優勝した東北楽天のファンが359万人に増加し、4位となった。
（三菱UFJリサーチ＆コンサルティング「2013年スポーツマーケティング基礎調査」より。 2013年10月25日）
宅森さんはまた、日本シリーズでどのチームが対戦するかは、景気に連動することが多いと指摘する。セ・パ両リーグの人気球団ランキングの順位を足し合わせた合計数が2～5の場合は、景気拡張局面に当たることが多いというのだ。
今年の読売新聞の見るスポーツに関する世論調査から人気ランキングをつくると、巨人はセ・リーグ1 位、楽天はパ・リーグ2 位という人気球団で、経済効果も大きいとみられる。クライマックス・シリーズもあるのでまだ日本シリーズの対戦カードはわからないが、巨人対楽天というカードになればランキング合計は3 で2～5 の時はほとんど景気拡張局面という過去の傾向通りとなりそうだ。
（三井住友アセットマネジメント「「日銀短観の業況判断DIはリーマン・ショック後最高に。身近なデータは景気底堅さ示唆。プロ野球は人気球団・巨人、楽天がリーグ優勝。大相撲懸賞も前年同場所比増加に転じる。」」より。 2013/10/03）
宅森さんの予測によると、今は景気拡張局面のようだ。巨人ファンも楽天ファンも、そのどちらのファンでない人も、今夜の試合は一杯やりながら、試合を楽しむことで日本経済に貢献できるかもしれない。
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