「今の時代、F1、F2は古い。日本人はコンテンツで斬れる」角川アスキー総研・遠藤諭さん

IT系出版社の先駆けで、パソコン、ゲーム関連の雑誌で時代をリードしたアスキー。アスキーは2004年に角川グループに加わったが、著名なガジェットマニアであり、『週刊アスキー』の名物編集長だった遠藤諭さんは今、グループ内のシンクタンク、角川アスキー総合研究所に主席研究員を務めている。角川アスキー総合研究所とは、いったいなにを研究しているのか。取り組みを聞いた。
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The Huffington Post

IT系出版社の先駆けで、パソコン、ゲーム関連の雑誌をはじめデジタルをリードしたアスキー。アスキーは2004年に角川グループに加わったが、著名なガジェットマニアであり、『月刊アスキー』の名物編集長だった遠藤諭さんは今、グループ内のシンクタンク、角川アスキー総合研究所で主席研究員を務めている。角川アスキー総合研究所とは、いったいなにを研究しているのか。取り組みを聞いた。

――角川アスキー総合研究所の前身は、アスキー総合研究所なわけですが、普段はどんなことを活動をされてるんでしょうか。

アスキーはPC関連の出版を中心にした会社だったわけですが、'04年に、角川グループに加わったんですね。角川としては、国史国文というものがもちろんあるわけですが、ゲームやライトノベル、マンガやアニメもあったので、ネットデジタルが加わって、いまの時代のある意味アキバ的なカードが揃ったんだと思います。

そして、'08年にそのコンテンツとデジタルの領域についての総研事業を立ち上げなさいという話になった。いまの日本のポップカルチャーが成立した80年代が、「渋谷・西武・広告文化」がキーワードだったのだとすると、'08年に、「秋葉原・角川・コンテンツ文化」という絵を現場ではイメージしてスタートしたわけです。

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要するに、パルコが『ACROSS』でファッションを定点ウォッチしてやっていたように、我々は、メディアの変化とコンテンツの世界を追っかけていきましょうと。それで、小規模な調査やセミナーをやって、その頃だと「いまの若い人たちはmixiをこんなに使っている」とか、「20代は想像を絶するオタクである」とか、社外のセミナーなどでも言わせてもらう機会も出てきた。

ところが、自分のまわりで見聞きしてそういうことは分かっていても、どこの誰が何%くらいそうなのかといった具体的なことになると、自分たちも答えられない。iPhoneが出てきて、ソーシャルメディアも出てきて、人々の行動はどんどん変化しているのに、実は、知識だけで実態はなにも分かっちゃいなかった。

実際は、ネット時代というのは自社サイトのログ解析やらソーシャルメディアやらいろんなデータが手に入るという側面もある。ところが、そういうデータに埋もれてしまいがちなところがあって、どうしても近視眼的になってくる。結局見えないということで、ネット全体をつかんで戦略的なことを考えるときに必要なデータはと考えると、白書統計的なとても大雑把なデータしかないんですよね。

ということで、1万人調査の“メディア&コンテンツ・サーベイ”というのを、もう4回目になりますがやっています。これを主軸調査として、情報発信やコンサルティングを展開してきたわけです。

最近、このデータで驚いたのは、20代前半女性のスマートフォン所有者の利用時間が3時間以上なんですね。うちの調査は性年代・居住地などを正規化していて、他社調査よりも控えめで精度も高いと評価いただいてるんですが、いくらなんでも高くないか? という議論になった。具体的に1日の平均利用時間が212分で、同じ20代前半でも男性は135分、20代後半女性は149分なので、20代前半女性だけがズバ抜けてスマートフォン漬けの生活を送っていることがわかります。

しかし、これにはスマートフォンの性年代別の所有率や利用アプリジャンルでソーシャルが高いことを考えると、まさにメカトーフの法則ということで納得できる数値になってくるわけです。要するに、利用者の数の伸びがそれ以上の意味を持つ。たった5年か、あるいは3年くらいでできあがったライフスタイルの中で、いまの日本人は暮らしているわけですが、いままでの常識とは違うことが起きている。

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――角川の名前がついて、変わったことは?

いままで、角川グループは、文庫、映画、雑誌、ライトノベル、アニメーション、ネットと、時代の変化にあわせて新しいことに取り組んできた。それで、いまやるべきはネットデジタル分野に関して、最新の知見を集約して発信することで、より深くこの領域に関与していくということを掲げているんですね。

しかし、よく考えると「知見を集約して発信する」って、なんのことはない出版社がいままでやってきたことなんですけどね。もう1つは、今年2月に、角川アスキー総合研究所という形で株式会社になったときに、角川デジックスというソリューションの会社と合流した。出版社的な発想がソリューションとくっついたときに何ができるか宿題を出されている感じではないでしょうか。

その意味で、コンテンツは大きなテーマで、エンターテインメント業界向けのお仕事もさせてもらっていますが、むしろ、コンテンツから日本人が見えてくる。たとえば、昨年映画化された『宇宙兄弟』や『テルマエ・ロマエ』などの人気コミックがあるわけですけど。これのファン層を集計してみると、女性を中心に20代、30代から50代まで、大きなふくらみを持ったカーブを描きます。

マーケティングの世界では、F1が女性20〜34歳、F2が35歳から49歳、F3で50歳以上とやっていますよね。あるいは、もう少し細かなプロフィールでも消費者を見ますけど、そのくらいだと、この2作のファン層は「ぜんぶ」ということになっちゃう。ところが、実際にはこうした作品のファン層って、たぶん頭もよくて、あるセンスやユーモア感があってと、その人のライフスタイルや消費に結びつく括りになるんですね。

つまり、商品やサービスを設計したりするときに、コンテンツで人を切ったほうが話が分かりやすくなってきている部分があると思います。もう一段うちのデータで踏み込んでいくと『宇宙兄弟』のほうは、20代に明確なクラスタがプラスされていてTwitterなんかをよく使っている。実際、映画の興行収入とは逆にソーシャル上では『宇宙兄弟』のほうが盛り上がっていましたね。

いまの日本人は、コンテンツで斬れる。そして、コンテンツの中にいろんなヒントが埋まっているんですよね。こういうところと、コミュニケーションスタイルの変化をてがかりに、新しいリサーチメディアが作れないかとも思っています。

――今後、角川アスキー総研になってどんなことをやるんでしょうか?

いま動いているプロジェクトとしては、『インターネット講座 15巻』というものがあります。慶應義塾大学環境情報学部長の村井純さん、それから角川アスキー総研の主席研究員にもなっていただいているMITメディアラボ所長の伊藤穰一さん、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生さん、Rubyアソシエーション理事長のまつもとゆきひろさんに代表監修者になっていただいて、角川学芸出版と共同で刊行するんですね。

これは角川社長の発案であるわけですが、ネットがこれだけ我々の生活や社会に浸透したにもかかわらず、なかなか基本的なところをバランスよく学ぶ機会がないわけです。日々のニュースに追われている人は多いけれど、その背景にある技術や業界構造、そこにいたる歩みや主要プレイヤーのビジネスモデルというものを教えてくれるところがありませんからね。

これを紙の本の形でいま作るというのは、アーカイブするという側面も大きい。もちろん、電子書籍としても刊行することになると思いますが、固定化されることに意味がある。それをもとに議論がはじまるというのがあるじゃないですか。

15巻は、基本的なネットのメカニズムはもちろんですが、集合知、巨大知、メディアやそれこそエンターテインメント、コマース、政治や経済、労働などで巻構成しています。その分野の学生やほかの専門分野の研究者やビジネスをされている方が、その領域について学ぶのに最適な内容となるはずです。来年の4月から約1年かけて刊行することになっています。

――9月27日に開催されるシンポジウムはどのような話になりますか?

伊藤穰一さんの「『創造性のコンパス』 モデル」、川上量生さんの「インターネットに国境はできるか?」、まつもとゆきひろさんの「ポストPCの時代〜インビジブルコンピュータ」という個別プレゼンテーションがまずあります。

引き続いて、それぞれのプレゼンテーションを受けながらのパネルディスカッションを予定しています。イノベーション、創造性、学習、それからインターネットのこれからをテーマとしていますが、それぞれまったく違った立場でネットとデジタルをリードされている3方の組わせから、たとえばオリンピックの開かれる2020年頃まで見通せるような発言やヒントがいくつ出てくることを期待しています。

知を集約して発信していくというのは、要するに、自分たちはネットやデジタルの“生”で動いているところを見ていて、企業や大学などの方々とも積極的にやりとりしていくということでもあるのですね。今回のようなシンポジウム以外にもセミナー的なイベントを準備していますし、私が直接かかわっていないところでは、ソーシャルメディアの解析で大学の研究室と協力していたり、企業と一緒に新しいマーケティング手法に取り組んでいたりしてるわけなんですよ。