「ZOZOTOWN」以来の風を吹かせる―― アパレル業界に異「色」の起業家

アパレル小売業界に、スタートトゥデイの「ZOZOTOWN」がもたらして以来の新風を吹かせようとしている起業家がいる。
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IROYA株式会社 代表取締役の大野敬太氏

アパレル小売業界に、スタートトゥデイの「ZOZOTOWN」がもたらして以来の新風を吹かせようとしている起業家がいる。大野敬太(おおのけいた)氏は、昨年10月に現・株式会社IROYAを設立し、今年3月に「色から、モノを好きになる」をテーマに、毎月一色に絞ってアイテムを販売する実店舗(渋谷)とEコマースサイト「IROYA」をローンチした。

大野氏は中国人の父親と日本人の母親を持つハーフ。高校時代から独学で始めたグラフィティ・アート好きが高じてそこから洋服にも関心を持つように。学生時代から継続して毎月ファッション雑誌を買い漁っては記事をクリッピングし、足繁く地元神戸のショップに足を運び、自身もアパレルショップに店員として勤め販売経験を積んだ。

その後、同じく学生時代に中国にある工場の少量生産リソースを活かした事業やEコマース事業を立ち上げた。大学卒業後、広告会社の博報堂、投資会社のKLab Venturesを経て、現在2度目の起業をした。そんな大野氏にアパレル小売業界に着目した理由と、彼が起こそうとしている「ゲームチェンジ」の可能性について話を聞いた。

アパレル小売でイノベーションが難しい理由

大野(敬称略) アパレル小売業界にZOZOTOWNがもたらしたものは非常に大きく、それを凌駕する革新を起こすのは難しいといわれています。その理由は、革新を起こす主役であるエンジニアにとって参入しにくい壁があるからです。

1つめの壁はこの業界のビジネスモデルや商習慣。アパレル小売業はメーカーから通常約60~70%の価格で商品を仕入れ、販売する際に小売マージンをいただくというものですから、在庫を持たず人件費のみで粗利率が80%になるウェブコンテンツビジネスのようなモデルにはなり得ません。エンジニアからみて興味深い業界かというとそうはなりにくいでしょう。

2つめの壁は、ファッションへの愛情が極めて重要であること。昔はストリート系やギャル系等のいわゆる「流行」がありましたが、近年エンドユーザーの趣向が細分化されておりその概念が薄くなりつつあります。そのような状況で洋服を売るためには特に時流を捉え、それを踏まえて陳列する商品から陳列の仕方、実店舗やEコマースサイトの演出を細やかに変化させる必要があります。そのためにはファッションに対する愛情が欠かせません。またそれがなければ、仕入先とのリレーションの構築も難しいでしょう。

3つめの壁は、ウェブとアパレルの相性の難しさ。一時期、モバイルコマースに期待が集まりアパレルの商品を扱うITベンチャーも現れましたが、利用者を集めているのは単価の低い商品を扱うか、もしくはタイムセールなどのフラッシュマーケティングを行うサービスです。購入者にとっては安く買えて、メーカーにとっても消費者に手にとってもらえる機会となるので一概には言えませんが、メーカーからすればこれでは薄利多売でブランドを毀損するリスクもあります。ですから、一定の需要は確かにあるもののもっと根本的な解決を考えたいというメーカーの担当者はいます。

――革新が起きないことによる弊害は。

大野 メーカーが作った良質な洋服を、適正な価格で小売が販売し、それを消費者が手に取るという当たり前の環境がなくなってしまうことです。特にいまは中小のメーカー・小売にとっては競争環境が非常に厳しい状況にありますので、消費者に対して魅力をより訴求するための環境を整える革新が、今まで以上に求められています。

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「IROYA」Eコマースサイト

「色」で洋服を選べばファッションはもっと楽しくなる。

――IROYAで起こしたいゲームチェンジは。

大野 IROYAで取り組んでいるのは、出会わなかったはずの消費者と商品の出会いを、極端な安売りすることなく適正な価格で演出することです。

皆さんはどうやって洋服を選びますか?既存の実店舗やEコマースサイトを見る限り、まずはブランドを決めその中から商品を選ぶことが多いのではないでしょうか。私たちはまず「色」を決めてもらいます。実店舗にはその月の色の商品だけを陳列し、サイトでは色ごとに商品を探せるようにしています。

「私が好きな色は緑」「黒だから行ってみよう」のように、毎月変化するエンタテイメント性をフックにして、最初の1年間はその演出は変えないつもりでいます。

色には、お客様がすべてのブランドを公平な目で見られるようにし、一方でメーカーが老若男女問わず顧客の幅を広げられるようにする力があります。9月にJR博多シティAMU EST内に1ヶ月の期間限定の店舗をオープンしたのですが、そのとき来店されたご年配のお客様にご自身の一張羅として洋服をご購入頂き、「後でウェブサイトも見させてもらうわ、気に入った」と言っていただきました。今後も、こういったご縁を増やしていきたいと考えています。

私たちの取り組みは、従来のアパレル小売業の慣習を否定するものではありません。むしろ大型商業施設を構える大手企業様から協業のオファーまでいただいています。そのとき担当者からよく聞かれる声は、IROYAのような新しいコンセプトを持ったベンチャー企業との取り組みが会社全体の熱量に変わるというものです。

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期間限定でオープンした「IROYA HAKATA」

――今後の展開は。

大野 目下取り組んでいるのは、実店舗とEコマースサイトにおける在庫連動及び世界観、機能価値、ユーザーベネフィットの差分をなくすこと。このような取り組みは巷ではオムニチャネルなどと呼ばれますが、食における安心・安全と同じようにアパレル小売業が標準搭載するべき概念や機能だと思っていますので、もはや特筆すべき点ではないかもしれません。すでに現時点でも、お客様にどちらでご購入いただいても同じ価値をご提供できると考えております。

今後はいつ訪れても面白い発見があって、ご購入いただいた後にもモノとコトの両方を感じられる購買体験を、サービス全体を通じてもたらしたいと考えています。つまり、サイトの担う役割は「店」でもありながら商品を語る「販売員」のようでもあり、お客様に毎月、願わくば毎日ご来店いただいて仲良くなっていただき(パーソナライズ)、偶発的な商品との出会い(レコメンドとマッチング)を楽しんでいただけるようにしたいと考えています。

また、IROYAをただの洋服屋で終わらせたくはありません。「いろポチ」という製品をご存知ですか?表面にある膨らみに触れるとそれが添付された商材の色を識別できるようになる「タグ」のことです。これは副資材メーカーフクイ社と日本女子大の先生が開発されたものですが、これをアパレル業界としては初めて採用しました。約100万人いる全盲視覚障がい者の方々にファッションを楽しんでいただけるようになる一助を担うための普及に努めていきますし、サイト自体のユーザビリティも考えていきます。色を通じて、あらゆる方々の暮らしに彩りを与えていくことができたらと――。