伝説の動物写真家・田中光常さん、逝く

膨大な作品のなかには、今では絶滅してしまった野生の姿をとらえたものもある。
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著書が並ぶ書棚の前でカメラを握る田中光常さん=2014年7月、東京都港区、田中光常事務所 今井尚撮影

日本の動物写真家のパイオニア、田中光常(こうじょう)さんが6日、肺炎のため東京都内の病院で亡くなった。91歳だった。アラスカを中心に活躍した写真家の故・星野道夫さんの師匠としても知られる。

田中さんは1991年4月から現在に至るまで25年にわたり、朝日小学生新聞で連載「ときめき 地球の仲間」を続け、8日には552回目が掲載された。すでに原稿を書き終えたという次号が絶筆作品となる。

田中さんは24年、静岡県蒲原町(かんばらちょう)(現在の静岡市)で、6人きょうだいの末っ子として生まれた。

小学生のころに動物への興味がめばえ、家族にかくれて捨て犬を飼ったことがあった。この犬は田中さんが学校に行っている間に逃げ出し、大けがを負う。田中さんは発見した時、犬が足を引きずりながらもうれしそうに鳴いていたのを見て、言葉を話さない動物のために何かしたいと思うようになったという。

海辺で育った田中さんは、魚類学者になろうと函館高等水産学校(現在の北海道大学水産学部)に入学。卒業後は研究者を志したが、41年に太平洋戦争がはじまり、夢は途切れた。

戦争中は、小型潜水艇に乗って敵に体当たりする海の特攻隊隊員となったが、命を失うことなく終戦を迎えた。

戦後は魚市場で働くも、胸の病気を患う。療養中に写真への興味が高まり、コンテストに応募するようになった。

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草原に降り立った鳥と見つめあうクロサイの親子=田中光常撮影、タンザニア・ンゴロンゴロ保全地域

53年にフリーカメラマンとして活動をはじめ、経験を積んだ。仕事がない日には上野動物園に出かけ、大好きな動物を撮る日々を送ったという。

当時、動物専門の写真家はほとんどおらず、不安を抱えつつも58年、動物専門の写真家として活動を始めた。以来、半世紀以上にわたり世界各地の動物を追い続けた。訪れた国は58か国。北極や南極でも取材した。

膨大な作品のなかには、今では絶滅してしまったニホンカワウソや、新潟県の佐渡島などでくらしていたトキ、兵庫県などでくらすコウノトリの野生の姿をとらえたものもある。半世紀前の鮮明な動物写真の中には、今では歴史的に貴重な資料も多い。また、中国で取材したパンダの写真も有名で、日本パンダ保護協会の会長も務めてきた。

一方、身近な動物にもレンズを向けた。愛らしいネコの写真はカレンダーなどで人々を和ませてきた。長年の活動が認められ、89年11月には紫綬褒章を、2000年には勲四等旭日小綬章を受章。

朝小の「地球の仲間」は、最後のライフワークとして人と自然のかかわりについて、子ども向けに自らの思いを書き続けていた。ここ数年は野外に出かけることは難しくなり、去年からは入院が続いていたが、病室で原稿をまとめ、読者から届くメッセージを何よりも楽しみに読んでいたという。

1984年から助手を務める島津美穂(しまづみほ)さんは「動物が好きで、撮影のときは動物のことを一番に考える姿勢から、動物に対する愛情を学びました。心から尊敬できる先生でした」と話す。

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「こうして皆さんにお会いできることが本当にうれしい」朝日小学生新聞の連載陣の集まりに出席して=2015年1月、菊池康全撮影