欲しい液体燃料を選択的に合成する触媒技術

巧みな触媒プロセスが開発され、航空燃料やガソリンなどの液体燃料の直接合成が実現に近づいた。

巧みな触媒プロセスが開発され、航空燃料やガソリンなどの液体燃料の直接合成が実現に近づいた。

航空会社は、バイオマス由来の液体燃料を使用したいと考えている企業の1つだ。

Arseniy Shemyakin Photo/Shutterstock

必要は発明の母とされる。今から100年前、世界各国が石油を必要としていた。石炭を燃やして船を走らせることはできたのだが、自動車や戦車にとって固形の燃料を燃やすのは現実的でなく、飛行機には不適切だった。また、当時ドイツでは、原油を入手できなかった。そこで、2人のドイツ人化学者が、石炭から合成石油を作り出すフィッシャー・トロプシュ(FT)法を発明した。1925年のことだった。

今日では、化石燃料の使用を段階的に縮小したいと考える国や企業が現れ、FT法はここでも役に立つ可能性がある。石炭を液体燃料に変換できるのであれば、理論的には、石炭よりも環境に優しい代替物質(例えばバイオマス)も液体燃料に変換できる可能性があるからだ。しかし、その実現に向けた研究の成果はこれまでのところ、効率が悪く、そもそも石油と競争できるほどの低価格が実現できていない。

この打開策となり得る研究成果が、Nature Catalysisで発表された。日本と中国の化学者がFT法を強化し、各種液体燃料を選択的に合成する過程を改善したのだ(J. Li et al. Nature Catal.http://doi.org/ctxv; 2018)。

FT法は、ガスをそのまま変換する、あるいは固体(石炭やピーナッツの殻をすりつぶしたものでもよい)から生成したガスを変換する点では優れているのだが、生成物に幅があり、ほとんどの場合、メタンなどの軽油から重質のワックスまでのさまざまな合成石油生成物のブレンドとなる。最も有用なガソリン、ディーゼル燃料、航空燃料(灯油)は、その中間に位置するため、分離、精製する必要がある。そのため、これらの燃料の大規模なFT合成は通常2段階プロセスで、それによりコストと複雑度が増し、環境汚染が深刻化している。

それ故、FT法を使った合成液体燃料の商業生産は、原料価格が極めて低い場合(中国には石炭を処理する生産施設がある)、または手段が他にない場合(南アフリカではアパルトヘイト政策の時代、経済制裁を受けて石油を輸入できず、同国のサソール社はFT法を用いた石炭液化技術を開発)に限られる。

今回の研究では、変換の選択性を高められることが明らかになった。研究チームは、使用する触媒(多孔質材料のゼオライトに、コバルトナノ粒子と希土類助触媒を担持させたもの)の組成を微調整することで化学反応を制御し、目的の液体燃料を選択的に合成できた。例えば、選択率74%のガソリンまたは選択率72%のジェット燃料を生成できる。鉄やコバルトを二酸化ケイ素や酸化アルミニウムに担持させた触媒を用いる従来のプロセスではこれまで、FT合成で選択率50%超の生成物を得ることは無理だった。

しかし、障壁の打破は、もう少し先の話だ。ゼオライト系触媒は失活しやすく、上記論文によれば燃料の合成は、指ぬきサイズの反応器の中でわずか1gの触媒を使って行われた。このプロセスの経済性向上には、このプロセスをもっと長い間安定的に実施し、100t以上の触媒を使える反応器にスケールアップする必要があると考えられる。合成燃料に対する熱意は、市況と共に変動する。石油価格が過去最高に達した10年前は合成燃料の人気は高かったが、今はそれほどでもない。今後、市場における合成燃料の需要が増し、必要な投資の機運が高まるという保証はない。

この研究を率いた富山大学大学院の化学者、椿範立(つばき・のりたつ)は、このプロセスを用いるとFT反応から灯油やガソリンを初めて「ワンステップ」で直接合成できる可能性が生まれる、つまり、高収率なので分離段階が不要になることがこのプロセスの大きな利点だと語る。また、既に航空会社数社がFT法による燃料供給を調査中で、椿らの研究チームは研究知見に関して航空会社や航空機メーカーと接触する予定だと、椿は話す。必要性は明白に存在し、発明となりそうな技術も生み出されている。

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | : 10.1038/ndigest.2018.181239

原文:Nature (2018-09-18) | : 10.1038/d41586-018-06732-3 | Clever chemistry offers new source of jet fuel

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