マクドナルドの「原価」を調べてみた。

マクドナルドは赤字に転落し、問題が多数発覚したことも事実。分析した記事や報道も多数見かけるようになった。今回はマクドナルドの「原価」に注目したい。果たして、どれだけ儲かっているのか?
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マクドナルドの話題が途切れずに続いている。昨年の鶏肉問題や異物混入事件が原因で2014年度決算は上場来初の赤字と報じられた。前社長・現社長の巨額報酬が現場の士気を下げているというニュースもあった。そして先日は早くも今年度の赤字拡大、早期退職者の募集、そして店舗閉鎖が大きく報道されている。

日本マクドナルドホールディングス(HD)は16日、今年2月の決算発表時点で未定とした2015年12月期連結決算見通しで、本業のもうけを示す営業損益が250億円の赤字になると発表した。前期よりも182億円悪化し01年の上場以来最大の赤字となる。赤字は2年連続。同時に本社(東京都新宿区)社員を対象にした約100人の早期退職募集や、不採算店舗131店を年内に閉鎖するなどの再建策も発表。

マック、上場来最大の営業赤字 今期見通し 早期退職100人募集 SankeiBiz 2014/04/17

最近ではマクドナルドに関する分析記事を多数見かけるようになった。赤字に転落したことは事実であり、問題が多数発覚したことも事実だが、それらの記事や報道を読んでもすっきりとしない。赤字や売上以外の数字にほとんど言及していないからだ。

そこでマクドナルドの「原価」に注目したい。ビジネスの構造は原価を抜きに語ることはできない。つまりマクドナルドはどれだけ儲かっているのか?という事だ。

■マックの「粗利」は10%以下。

日本マクドナルドホールディングスの有価証券報告書によれば、マクドナルドの原価率はおよそ90%前後となっている。

過去3年の原価の割合を見てみよう。数字はそれぞれ 材料費(食材など)、労務費(人件費)、その他(賃料など)、そして合計額である総原価の4つで、いずれも直営店のデータとなる(マクドナルドの決算書では製造業のように、材料費以外に人件費とその他のコストも全て「原価」として計上している)

2013年 34.5% 30.2% 24.6% 89.3%

2014年 35.3% 31.3% 26.7% 93.2%

2015年 35.9% 32.4% 27.8% 96.1%

ドリンクと飲食物、あるいはチーズバーガーとビックマックの利益率は全く違うが、全体の傾向はわかる。売り上げから原価を差し引いた数字を粗利(あらり)という。売り上げを100として上記の原価を差し引くと粗利率は2013年から10.7%、6.8%、3.9%と年々悪化していることがわかる。売上の減少により効率が低下している事が原因だろう。

わずかな差に見えるかもしれないが、マックの売り上げは2000億円を超えているため、1%の違いが数十億の差となる。飲食業で働く人はまあそんなものだろうと感じるかもしれないが、他業種の人はあまりの利益率の低さに驚くのではないだろうか。

現在マクドナルドのセットメニューは500円から700円程度となっている。たとえば600円のセットメニューを販売した際の粗利は昨年ならば23.4円程度となる。しかもこれは直接的な原価を差し引いているだけで、本業の利益である「営業利益」は、ここから商品開発コストや本社人件費、宣伝広告費などのいわゆる販売管理費も差し引く事になる。

■マックの強みと弱点は「規模」。

まず、粗利率が10%を切っている時点で、利益率は相当に低いと言わざるを得ない。

これだけ薄い利幅で外食産業としては国内最大手まで拡大したのだから、赤字に転落するときは一気に落ち込むことも容易にわかる。規模が大きいという事は損益分岐点が高く、利益を出すために越えなければいけないハードルが上がるからだ。

巨額の赤字と店舗閉鎖を余儀なくされている原因もマックの利幅の薄さと規模の大きさが原因だ。航空ビジネス、ホテル、結婚式場など、固定費が高く、稼働率が命のビジネスは儲かる時と損をする時の落差が激しい。先日はアルバイトとして何年も働いている知人から「こんなにお客さんが少ない事は過去に無かった、レジの売上を数えたら本当にびっくりした」という話も聞いた。この状況では大赤字も仕方ないだろう。

■マクドナルドの継続した利益は奇跡の水準。

世間からマクドナルドがどのように見られているかは何とも言えないが、利益構造からわかることは一般的な飲食ビジネスと大きな違いはなく、「儲かりにくく、赤字になりやすい利幅の薄いビジネス」であることだ。

マクドナルドは一等地に大きな店舗を構え、CMを多数流し、オリンピックのスポンサーには必ず名を連ねるなど、知名度は高く派手にビジネスを展開しているように見える。しかし実態としてはごく普通の飲食業だ。上場後初の赤字転落は「あのマックが?」と衝撃を与えたかもしれないが、今まで赤字にならなかった方が奇跡だ。

それくらい飲食業はハイリスクのビジネスだ。食事をしない人はいないが競合は多数あり、飲食店以外にもコンビニエンスストア、お弁当屋などライバルは多数いるからだ。

■フランチャイズ化は正しかった。

赤字転落のきっかけとして指摘されるのが、今では「戦犯」扱いの前社長・原田泳幸氏が推し進めたフランチャイズ化だが、この指摘は正しいのだろうか。

赤字転落した2014年の数字を見ても、フランチャイズ収入は約625億円、フランチャイズ収入原価は約488億円と、粗利率は約22%で直営店の数字と比べて5倍以上と非常に高い。これは直営店の運営と全く異なり、経営指導や店舗運営支援など、ノウハウを提供することでフランチャイズ店からロイヤリティを得ているからだろう。実態としてはコンサルティング業に近いと思われる。決算書でも数字を分けて書いている理由は利益構造が全く違うからだろう。

■フランチャイズはコンサル業。

飲食業とコンサル業では効率が全く違うのは当然で、原田氏が利益率の高いフランチャイズ化に大きく舵を切ったことは決して間違いだとは思わない。ただ、これが店舗運営の質の低下につながったのであれば、それはコンサルティングの質の問題であり、フランチャイズ化自体の問題ではない。

従来からフランチャイズ店はあり、マクドナルドが経営指導をできないはずはない。しかし急激なフランチャイズ化により店舗指導をできる人材などが不足したとか、直営店時代のベテランアルバイトがオーナーに経営を引き継いだ時に辞めてしまうとか、現場レベルでの混乱はあったのかもしれない。

こういったトラブルが起きていたのであれば一言でいえばフランチャイズ化は失敗という事になるが、正確に考えればやり方の問題という事になるだろう。他業種でもフランチャイズ化がうまくいくかどうかはケースバイケースでしかない。

■24時間営業は正しい。

もう一つやり玉に挙げられるのが24時間営業だ。24時間営業のせいでこれまで閉店後に行っていた徹底的な清掃が出来なくなった、それがクリンネスの低下を招いて顧客離れにつながった、という指摘もある(マック、失われた清潔感 なぜピカピカだった店舗がボロボロに? ビジネスジャーナル 2015/04/11)。

これについては一理あるかもしれないが、24時間営業のメリットは何か?という点も考えるべきだ。

マクドナルドは駅の目の前など一等地に店舗を構えていることも多い。当然家賃も高い。そういったお店を例えば7時から23時までしか営業しなければ、一日のうち1/3もお店を閉めていることになり、稼働率の観点からいえば効率が悪い。人件費や各種コストを賄える以上の売り上げが期待できるのなら、お店を開いたほうが当然利益は増える。

徹底した清掃ができずに客離れが起きているのであれば、それは24時間営業をしながら従来のクリンネスを保つ清掃方法をまだ確立できていない、あるいはメンテナンスのしやすい構造に店舗が作り変えられていない、というだけで24時間営業が問題という事ではない。もちろん従来より清掃はしにくくなっているだろうが、できない理由を探す事は簡単で、難しい事をどうすれば実現出来るか?という事を考えなければ利益が出るはずもない。

※一部店舗で深夜帯はメンテナンスや資材搬入のためテイクアウトのみ、あるいはドリンク販売のみ、という形で対応していたり、毎月特定の日時に一時閉店をしてメンテナンスの時間にあてている店舗もある。

過去に否定的な意味で話題になった60秒以内の商品提供やメニュー表の廃止、パソコンを開いただけでお店を追い出された、といった話もすべて稼働率を上げるためのアイディアや対応であり、これらが完全に間違いだとは言えない。

24時間営業やフランチャイズ化も含めて、なぜそこまで効率化しないといけないのか......? この問いへの答えは原価の構造を見ればわかるように「利幅が薄いから」という一点に集約される。当たり前だが経営者は数字を見て判断をしているという事だ(ただしこれらマックの施策が最善の方法か、そして上手くいっていたかどうかは当然別の問題だ)。

■「持ち帰り」がマックを救う?

自分が改善策を考えるのであれば、持ち帰り客を増やす事だろうか。店舗に長居されることは効率ダウンにつながる。原価の「その他」のコストは店舗の賃料が大きな割合を占めるだろう。海外のカフェではテーブル席とスタンドでは料金が違う事もあるが、これもコストの問題だ。

持ち帰りにしか使えない割引クーポンを発行し、POSレジで店内と持ち帰り客を分けて管理し、持ち帰り客の増加に努めるなど、いくらでも対応方法はあるだろう。あるいは品数を思い切り絞り込んで持ち帰りに特化した「ミニマック」のような新業態もありかもしれない。

イメージとしてはあちこちにある弁当屋のようなコンパクトなお店だ。うまくいけばローコストに、なおかつこれまでお店を作れなかった場所にも出店可能で効率の良いお店になるかもしれない。

■マックの問題点は単純ではない。

マクドナルドは健康志向の時代に合わなくなってきたという指摘もある一方、周りの人から話を聞いてみるとマックに健康なんて望まないとか、健康面が気になる人はそもそもマックにいかない、マックは体に悪くてもあのポテトが良いんだ、という話も聞く。店舗が汚いとは特に思わないが、他のファストフードやファミリーレストランと比べて接客がやけに悪い、昔はマック=接客がハイレベルというイメージだったのに、という話も聞いた。

いずれも個人の感想・意見でしかないが、人によって全く見方は異なる。自分が書いた「破れたソファーと落書きを放置するマクドナルドはしばらく復活出来ないと思う件について。」という記事では、店舗設備がボロボロでこれではとてもリピートは望めないのでは、と指摘した。さきほど書いたように問題とされる24時間営業やフランチャイズ化もメリット・デメリットの両面がある。

結局マクドナルドのような大企業は、問題点はココでこれさえ解決すれば売り上げは回復する、などといえるほど単純な処方箋は無い。もし問題点をスパっと指摘できる人であれば、カサノバ社長より高い報酬で経営コンサルタントとして契約できるだろう。

以下の記事も参考にされたい。

先日の会見でカサノバ社長はビジネスリカバリープランと題した再建策を提示している。今後もマクドナルドの動向に注目したい。