マンガ認知行動療法eラーニングでうつ病1/5に

うつ病を予防するユニークな新手法が登場した。
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うつ病を予防するユニークな新手法が登場した。うつ病の予防効果が知られている認知行動療法(ものの考え方や受け取り方に働きかけて気分や症状を改善する心理療法のひとつ)に着目し、これを安価で多数の従業員に提供するために、マンガを使った全6回のeラーニングを、東京大学大学院医学系研究科の川上憲人(かわかみ のりと)教授と今村幸太郎(いまむら こうたろう)特任研究員が開発した。

IT系企業の社員381人にこのeラーニングを提供し、視聴を促したところ、調査期間後に遅れてeラーニングを提供した同数の社員に比べて1年間のうつ病の発症率が1/5に減った。eラーニングによる認知行動療法がうつ病を予防することを示した初めての報告で、広く企業に導入されて、働く人の心の健康が向上することが期待される。1月7日付の英科学誌 Psychological Medicine オンライン版に発表した。

働く人たちのメンタルヘルスの不調が増えている。1対1の対面や集団での認知行動療法で、うつ病のリスクが30%程度減少することは報告されている。しかし、対面や集団での認知行動療法はコストがかかり、多数の従業員に広く提供するのは難しい。低コストで簡易に認知行動療法ができる有効な方法が求められていた。

このため、研究グループは、ストレス対処の方法を1コマのマンガでわかりやすく示すインターネット認知行動療法eラーニングプログラムを独自に開発した。全6回で、毎週1回の講義と宿題で構成され、学習は宿題を入れて1回30分程度かかる。日本のIT系企業2社の社員762人をランダムに381人ずつにわけ、この認知行動療法eラーニングを受ける人たちを介入群、遅れて受講する人たちを対照群として、このプログラムの効果を調べた。

介入群の未学習者には週1回、学習を促すメールを送信した。宿題提出は任意とし、提出した者には専門スタッフの臨床心理士からコメントを返した。6カ月間の試験が終了した後、対照群にも同様のプログラムを提供したが、未学習であることを通知する催促メールは送らず、講義の視聴と宿題提出をともに自由にした。両群ともに初回調査から6カ月後、12カ月後に過去1年以内のうつ病の有無を追跡調査した。

介入群と対照群の男性比率はそれぞれ85%と82%、平均年齢は38.歳と37歳で、ほぼ同じ。講義視聴と宿題提出は、介入群で全6回のうち3回以上eラーニングを視聴して学習した人は291人(76%)、3回以上宿題を提出した人は173人(45%)だった。対照群では、3回以上eラーニングを視聴した人は66人(17%)、3回以上宿題を提出した人は41人(11%)にとどまった。

解析の結果、両群でうつ病を発症する割合に、はっきりした差があった。介入群の12カ月間のうつ病発症は対照群の約1/5にまで減っていた。両群の差から、32人の社員がこのマンガ認知行動療法eラーニングを受講すると、そのうちの1人についてうつ病発症が予防できると推測された。

川上憲人教授は「職場でのうつ病の予防が、低コストで、多くの従業員に一度に提供できるeラーニングで実現することは大きな意義がある。マンガは親しみやすく、受講するハードルを下げる。そのうつ病予防効果は驚くほど大きかった。今後はeラーニングプログラムを改良し、より大規模な研究で効果を検証する。認知行動療法のeラーニングがポジティブなメンタルヘルスや生産性に与える効果も含めて研究を進め、この方法を普及させたい」と話している。

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・東京大学 プレスリリース