どうしたら若者の自殺を止められる? 精神科医・森川すいめいさんに聞いた自殺希少地域の「ひとの話をきかない」強さ

精神科医・森川すいめいさんが、自殺が少ない地域を旅して体験したことをまとめた「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(青土社)」が今、注目を集めている。なぜ「その地域の人たちは人の話を聞かない」のか、さらに訊ねてみた。それは、深刻な社会問題となっている若者の自殺をどうしたら防ぐことができるのか、ということにもつながっていく。
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森川すいめい

精神科医・森川すいめいさんが、自殺が少ない地域を旅して体験したことをまとめた「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(青土社)」が今、注目を集めている。私たちの社会の「生きづらさ」を減らす仕組みがそこにはあったという前編のインタビューに続き、後編では、なぜ「その地域の人たちは人の話を聞かない」のか、さらに訊ねてみた。それは、深刻な社会問題となっている若者の自殺をどうしたら防ぐことができるのか、ということにもつながっていく。

■自殺希少地域でも悪口や陰口はあるけれど......

−−自殺希少地域でちょっとショックだったのが、森川さんがフィールドワークの中で、悪口や陰口を聞いたという話です。私たちの社会で悪口や陰口は「生きづらさ」につながっていると思うのですが、自殺希少地域はその点、他の地域とどう違うのでしょうか?

悪口や陰口は確かにあるのですが、自殺希少地域の特徴として、まず人間関係が緩く広くつながっているということがありました。言ってしまうし、聞くこともあるし、落ち込むけれども、その人が孤立するまではいかない。自分をしっかり持っていて、「彼はそういう悪口を言っているけど、私は同調しない」という。イジメにも通じますが、同調圧力がありません。我が道を行く人たちなんです。

−−まさに、タイトルにある「ひとの話をきかない」人たちなのですね。森川さんが訪れた神津島では、島外から来た若い男性のエピソードが印象的でした。自分がこの歌手が好きだと話をして、相手もいいねと言う。でも、興味がなければその音楽を絶対に聞かない。若い男性いわく、「この島の人たちは強い。自分を持っている」と......。

今、本を読んでくださった方のコメントを見つけて、楽しんでいるのですが、ある神津島に行ったことある人は、「確かにその地域の人たちの中で会議をやっていても、みんな好き勝手にしゃべってカオス状態になるのだけど、でもいつの間にか結果はでている」ようなことが書いていました。年配の人ほどそういう傾向があって、コミュニケーションが上手なのだろうなと思います。自殺の原因が各国で違うとしたら、日本の場合は、人間関係が狭くなって、孤立していく人たちが増えるということがあるのかなと。人と人が、緩く多くつながるようになるといいですね。

■「失敗してもいい」という大人のフォローが子どもの力をはぐくむ

−−若い人たちの自殺が社会問題化しています。あえて、お伺いしたいのですが、子どもたちの自殺をどうやったら止めることができるとお考えですか?

この議論をする時には、「外」と「自分」に分けて考えるといいかなと思います。まず、「外」ですが、鎌倉市図書館の話にもあったように、どこかに居場所をつくったり、環境をととのえたり、その質は高めていかないといけません。かつて、フィンランドでは自殺で亡くなる人がとても多かった。そこで、1986年から本格的に対策が行われ、自殺が一気に減りました。国がたくさん居場所や人を助けるシステムとつくり、そこにお金をかけたからです。次に「自分」ですが、フィンランドは同時に、個人の教育、一人ひとりの力を高めることもやりました。

じゃあ、日本の若い人たちをどうするかといった時、若くない人たちがこんなに生きづらい社会の中で、「外」をなんとかするのはとても大切ですが簡単ではありません。そこで、一人ひとり、どうしたら生きやすくなるのかという学びを知るのを同時に行うことが大切です。。受験勉強ばかりしていると、人との関わりが減るので、コミュニケーションがどんどん下手になり、人間関係がすぐ悪くなってしまう。SNSは自分の好きな人とばかり集まってしまうので、自分たちと違う人がわからなくなる。自分の中の多様性と、多様性を包摂する力は、こうした環境だとなかなか育ちません。

だから、子どもたち同士で遊んで、たくさんケンカして、ケンカした後にちゃんと話し合えるようにする。20回くらい失敗しないとわからないこともあります。失敗したら排除するんじゃなくって、「失敗していいんだよ」という環境を、大人が整えるのがとても大事です。ルールでがんじがらめにしてしまうと、子どもは自分の人生を試せないと思います。試してみて、たとえ失敗しても、フォローしてもらえるということが、子どもの一人ひとりの力がついていくことにつながる。その力がないと、対症療法しかなくなってしまいます。

自殺希少地域における岡さんの研究で一番、印象に残ったのが、先程も話にあった近所付き合いの意識調査で、立ち話程度が8割ということです。多くの人とたくさん軽いコミュニケーションをとって、対話に慣れる。対話に慣れることで、人は孤立しなくなる。そういうことがあるのだろうなと思います。

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「自殺希少地域」を旅した精神科医・森川すいめいさん。

■「相手は変えられない」という思いから生まれる多様性

−−多様性を包摂するということは、大人でもとても難しいですよね。今、盛んにあちこちでダイバーシティと言われていますが、実際にアンケートをとると排他的な人が少なくない時があります。つい最近も、大学院生の男性(当時25)が望まないアウティングをされて、転落死するという痛ましい事件がありました。どうしたら、私たちの社会は、多様性を包摂できるようになるのでしょうか?

自殺希少地域では、「相手は変えられない」という思いが強いです。訪ねた地域にはそれぞれ自然が厳しいとか、個人ではどうにもならない圧倒的なことがあったのかなって思います。だから、変わるのは自分。神津島で、「なるようしかにしかならない」という言葉を聞き、すごく印象的でした。寂しくもあれば、力強い言葉でもあるなと。でも、相手を変えようとはしない。受け入れていくしかなくて、受け入れた中で、みんなと生きていくには、多様だなと思わないと孤立します。

−−まずは、私たち一人ひとりの意識、なのでしょうか。

自殺希少地域の中で発見された予防因子について、新しいことはなかったと思います。なんとなく、みんな知っていて、でもどっちがいいのか悩んでいる中で、環境がそうさせたのか、より良い選択をしている地域だなと思いました。「情けは人のためならず」ということわざが浮かびます。相手が困っていたら助けるけど、助けっぱなし。助けられた方も助けられっぱなし。見返りを求めない。ああ、そういうことなんだなと。めぐりめぐって、みんな幸せになる。そういう安心感がみんなあるのかなと思います。そして、これは自分の職場や家庭でも、ひとつの地域として見れば実践できると思います。自分と自分のまわりから、少しずつできることをしていくことだと思います。

(終わり)

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9月10日の世界自殺予防デーにちなみ、9月10日から16日まで自殺予防週間が実施されている。相談窓口の一覧はこちら