【ネットフリックス、衝撃の低価格戦略】~テレビ無料視聴の壁、崩壊間近~

有料動画配信の世界に乗り込んだ「黒船」、米ネットフリックス(Netflix)が、いよいよサービスを9月2日に開始する。
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有料動画配信の世界に乗り込んだ「黒船」、米ネットフリックス(Netflix)が、いよいよサービスを9月2日に開始する。利用料は最安プランだと衝撃の650円(税抜き)。主にスマホユーザーをターゲットにした。その他、高画質・2台端末同時視聴プランは950円、4Kテレビ対応4台同時視聴プランは1450円だ。日本テレビが去年日本法人を買収し傘下に収めた"Hulu(フールー)"(会員数100万人・月額933円)やNTTドコモのdTV(会員数450万人・月額500円)などにとって、米ネットフリックスの最安プランは脅威となろう。

さて、「テレビ視聴は無料」の日本で、お金を払って動画を見る習慣が定着するだろうか?私の答えはYesだ。筆者は面白くない地上派のドラマはほとんど見ず、"Hulu" で洋画かアメリカのテレビドラマを視聴している。月額1000円ちょっとで、家のPC、事務所のPC、スマホやタブレットでどこでも視聴できる。一回体験したらもう止められない。

しかし、テレビ局の人間に危機感はないようだ。特に50歳以上となったらネットで動画はほとんど見ないだろう。某キー局の管理職クラスとこの間話したら、"Hulu" を見たことも無ければ、映画館にもほとんど行かないとのことだった。しかし、10代から30代くらいの層はスマホで動画を見ることに抵抗がない。電車の中でスマホで動画を見ている人は日増しに増えている。彼らは「ニコニコ動画」や「YouTube」などネット動画を子供の頃から見ているため、携帯での動画視聴に抵抗がないのだ。テレビ局が思っている以上に早いスピードで有料動画配信サービスの会員は増えるのではないか。

さすがにそれに気づいたか、在京民放5社は10月から無料で見逃し配信サービス「TVer(ティーバー)」を始めるほか、日本テレビは"Hulu" とドラマ「ラストコップ」をこの春共同製作し、地上波とネットで番組を配信した。ネット配信は、放送時間の制約や放送倫理コードなどに縛られず自由に番組が製作できるのが魅力だ。フジテレビも9月からネットフリックスと組み、独自番組「テラスハウス」の続編などを放送する。テレビ局が良質なコンテンツを提供しなければネットフリックスの成功はない、などと思っているなら、とんでもないしっぺ返しを食うだろう。

何しろネットフリックスは世界50か国に6500万人の会員を擁し、潤沢な資金と視聴データを誇る。既に権威ある米エミー賞を受賞した政治ドラマ「ハウス・オブ・カード」を100億円超かけて独自製作した実績が有る。ネットフリックスの資金力を当てにして各テレビ局が共同製作に殺到するかもしれない。ネットフリックスの力で全世界に配信されるのは確かに魅力だ。しかし、それでは地上波放送のリアルタイム視聴が減るばかりで、放送収入に影響が出る。痛しかゆしといったとこだ。テレビ局はお金をかけて質の高い独自番組を作るしか、拡がる動画ネット配信には対抗できないだろう。

もう一つ気になる動きが最近あった。7月、株式会社ドワンゴ及び株式会社ニワンゴがドキュメンタリー放送に乗り出したのだ。その「ニコニコドキュメンタリー」の第一弾『タイズ・ザット・バインド ~ジャパン・アンド・コリア~』エピソードは既に放送済み。製作はイギリスの制作会社Blakewayだ。従軍慰安婦、領土問題、ヘイトスピーチなどを取り上げた作品だ。

実際に視聴したが地上波では放送できないような反日作品である。それがドワンゴの狙いでもある。テレビが出来ないなら自分たちがやる、というドワンゴの気迫を感じる。既に今月、ドキュメンタリー「靖国-YASUKUNI-」や映画「南京!南京!」などの反日・抗日作品が「ニコニコ生放送」で放送されており、他の作品も放送予定だ。今後はオリジナルドキュメンタリーも製作するという。さらに番組の内容を掘り下げるテーマ別の討論番組も並行して放送している。

海外の動画配信サービス企業だけでなく、日本のネット企業が既にテレビに挑戦状を突き付けているのだ。それなのに、テレビ局の危機感はこれまた薄い。キー局のドキュメンタリー制作者にコメントを求めたら、ドワンゴのこの動きを全く知らなかったのには驚いた。今や地上波のドキュメンタリーは深夜か土日の午後などの時間帯に追いやられており、ほとんどが外注だ。先のドキュメンタリー制作者はこう呟いた。「俺たちに作らせてくれないかな・・・」この一言がすべてを物語っている。テレビは自分たちで骨太のコンテンツを作ることを放棄してしまっているのが現状なのだ。これではネットに勝るはずもない。

ネットフリックスやドワンゴと組んで番組を共同製作し、動画ネット配信のノウハウを吸収するのはよいが、それは諸刃の剣である。コンテンツの内部制作力を弱めてしまっては本末転倒、テレビ局はジリ貧となることを肝に銘じるべきだ。