〝世界テレビ〟ネットフリックスが国境の壁を高くする

背景には、世界190カ国展開という〝世界テレビ〟戦略がある。
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ネットフリックスは14日、国別に実施しているコンテンツの視聴制限について、これを迂回して視聴しているユーザーへの対応を強化する、と発表した。

ネット動画配信では、コンテンツの配信ライセンスの条件に応じて、国ごとに視聴できたり、できなかったりという制限をかけている。

ただユーザーによっては、他国にあるプロキシー(代理)サーバーなどを介することで、自国では制限のかかるコンテンツを視聴しているという実態がある。

ここにきて、ネットフリックスはその〝ネット国境の壁〟を、さらに引き上げるというのだ。

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背景には、年初に打ち出した世界190カ国展開という〝世界テレビ〟戦略がある。

ハリウッドなどのコンテンツプロバイダーと、各国の規制当局への、目配せの意味合いが大きいようだ。だが、欧州連合(EU)は逆に、視聴規制の撤廃を強く求めている。

一方、同社は19日に、昨年第4四半期の決算も発表している。

世界の利用者は、年明け1日に7500万人を突破。年内1億人達成も視野に入ってきた。

売上高も18億2000万ドル(2160億円)と順調な伸びを見せる。

その勢いからか、「株主への手紙」では、NBC幹部による「視聴者は、神の定めた(従来型の)テレビ視聴方法に戻る」とのネットフリックス批判に反論。

「我々の投資家たちは、テレビに関する神の考えについてはよくわからない」と皮肉るなど、余裕の構えだ。

ただ、世界的な株安のあおりもあって、年初来の株価の下げ基調には歯止めがかからない。

●「プロキシをお使いのようです」

コンテンツ一覧には、ホワイトハウスを舞台にした政治サスペンスドラマ「ハウス・オブ・カード」が表示されている。

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だが、それを視聴しようとしてクリックすると、真っ黒の画面に、こんな文字が表示される。

申し訳ありません。問題が発生しました。

地域限定サービスの制限を回避するアンブロッカーもしくはプロキシをお使いのようです。該当するサービスをオフにしてもう一度お試しください。

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「ハウス・オブ・カード」はネットフリックスが独自制作した大人気ドラマで、同社の日本上陸では、ユーザーが真っ先に思い浮かべたタイトルの一つだ。

だが、ライセンスの関係からか、昨年9月から始まった日本でのサービスでは、配信対象になっておらず、コンテンツの一覧に表示すらされない。

●Tor経由もブロック

上記の例は、匿名ネットワークの「Tor(トーア)」を使って、日本から海外のプロキシーサーバー経由で、ネットフリックスにアクセスしてみた時の表示だ。

Torはいくつものサーバー(例えばフランス→ドイツ→米国)を経由し、その経路そのものを暗号技術でたどれないようにする。ユーザーが地理的にどの場所からアクセスしているのか、外部からは把握することができない仕組みになっているのだ。

このため、日本にいながら、あたかも海外で視聴しているように、少なくともネット上では装うことができる。

これは、人権活動家などが、政府のネット規制を迂回する場合に使う手法でもある。

だが今回、ネットフリックスはこの種の迂回方法についても、検知技術をつかって規制していく、と宣言した。

Torを使い、米国のサーバー経由でネットフリックスにアクセスすれば、「ハウス・オブ・カード」はメニューとしては表示されるが、視聴しようとすると、迂回検知に引っかかってストップしてしまう。

14日の発表文で、同社副社長のデイビッド・フラガーさんはこう述べている。

我々は(すべての地域ですべてのコンテンツ視聴が)徐々に可能になっていくだろうと期待している。だが今のところ、コンテンツを地理的な境界ごとにライセンスしていくという、歴史的に続いてきた実務によって、我々が提供するテレビ番組や映画の品揃えは、地域によってかなりのばらつきがある。当面の間は、地域ごとのコンテンツのライセンスを尊重し、それを執行していくことになる。

そして、その具体的な方策として、迂回アクセスの規制技術を導入する、と。

プロキシーや〝アンブロッカー(視聴制限解除)〟を使って、海外のコンテンツにアクセスしているユーザーもいる。これに対処するため、我々は他の事業者が使っているのと同種の技術を採用する。(中略)それによって、今後数週間で、プロキシーやアンブロッカーを使っているユーザーがアクセス可能なのは、自国向けのコンテンツのみになるだろう。

●政府との摩擦

最大の理由は映画会社やテレビ局、番組制作会社などの、コンテンツホルダーの意向だ。

だが、視聴制限の迂回サービスを提供するVPN(仮想プライベートネットワーク)事業者も存在する。彼らにとっては、あまりいいニュースではない。

ワイアードの取材に対し、VPN事業者は「すでに同種のアクセス遮断は2014年にフールーが実施して、失敗している」と指摘。さらにこう述べているという。

ネットフリックスが我々のネットワークをブロックするなら、ほんの数日で、ネットワークを丸ごと入れ替えてそのブロックを迂回することもできる。

懸念材料は、コンテンツのライセンスだけではない。

NPRなどによれば、ケニアのスポーツ・文化・芸術省傘下の「映画審査委員会」は、ネットフリックスが、ケニア国内でのコンテンツの〝放送〟についてライセンスを得ていないとして問題視しているという。

ネットテレビが〝放送〟か〝通信か〟という問題だ。〝放送〟と見なされれば、放送免許が必要、というわけだ。

加えて、不適切なコンテンツが含まれていればネットフリックスをブロックする、との構えを見せているという。

一方で、地域ごとの視聴制限を問題視する動きもある。

デジタル単一市場〟を掲げ、域内でのデジタルサービスの自由な流通を推進するEUは、ネットフリックスのような地域ごとの利用制限に対し、撤廃を目指す姿勢を示してきた。

欧州議会は今月19日、「ジオブロック(地域制限)」の停止を求める決議も行っている。

消費者がネット上の商品やサービスにアクセスすることに対し、IPアドレスや郵便番号、クレジットカードの発行地をもとに地理的に制限することは、不当であり、やめるべきだ。

片やハリウッドの制作スタジオ、片やEUなどの規制当局。

ネットフリックスは、グローバル展開するグーグルなどのネット企業の例に漏れず、その多正面戦略の渦中にある。

●7500万人突破

人々は(3週目までに)テレビを神の定めた方法(従来のスタイル)で見るようになっている。その頃には(ネット動画の)インパクトも消え去っているというわけだ。

ネットフリックスは〝世界テレビ〟になるのか?」でも紹介した、NBCユニバーサルの調査・メディア開発担当社長のアラン・ワーツェルさんの、ネット動画配信(SVOD)に対する物言いだ。

ネット動画配信の視聴者数について、具体的なデータをあげて「恒常的な脅威ではない」と断言していた。

これが、ひどくかんに障ったのだろう。

19日、ネットフリックスが昨年第4四半期決算発表で公開したCEOのリード・ヘイスティングスさん、CEOのデイビッド・ウェルズさん連名の「株主への手紙」には、こんなくだりがある

ネットフリックスの成長はテレビのネットワーク局に懸念を生み出し、心配の声も上がっている。その一方で、NBCの幹部は最近、インターネットテレビが過大評価を受けており、従来型のテレビこそ〝神の定めたテレビ〟だと述べている。我々の投資家たちは、テレビに関する神の考えについてはよくわからない。だが、インターネットテレビが根本的に、より優れた娯楽体験であり、長年にわたってシェアを増やし続けるだろうとは考えている。

こちらも具体的なデータをあげる。

2015年にはネットフリックスの総視聴時間が425億時間となり、前年の290億時間からの大幅増。

さらに、北米のピーク時のダウンロード(下り)トラフィックに占める割合でも、ネットフリックスは全体の37%とトップで、前年から2ポイント上昇しているという。

「手紙」はさらにこう続く。

従来型のメディア企業の多くは、その未来をかなり明確に見据えているが、問題は、ネットフリックスやその他のネット動画配信事業者からの収入使って、優れたコンテンツ制作を行うと同時に、彼ら自身のインターネットテレビのネットワークも展開していかなくてはならない、という点だ。(NBCユニバーサルの)シーソー、BBCのiプレイヤーフールー、(仏カナル・プリュスの)カナルプレイHBOナウCBSオールアクセス、これはすべてその取り組みの始まりだ。

「神のテレビ」発言に反論し、返す刀でテレビの現状まで読み解いてみせる。

それもこれも、決算が好調であればこそだ。

第4四半期のユーザー数は、559万人増の7476万人。事前予測を40万人以上上回っている。ただ、米国内に関しては、増加分は156万人で、頭打ち感も漂う。

さらに2016年第1四半期には全体で610万人の増加を見込む。

単純計算で考えれば、年内1億人達成が、一つの指標になっているということだろう。

売り上げは18億2333万ドル(前年比23%増)とまずまずの結果だ。

だが、コンテンツ確保、グローバル展開などのコストがかさみ、営業利益は5989万ドル(8%減)、純利益は4318万ドル(48%減)となった。

年初来、下げ基調にある株価は、決算発表後こそ108ドル近くまで上向いたが、再び下がり、100ドルを切る動きを見せている

(2016年1月24日「新聞紙学的」より転載)