ノルウェーが難民をホッキョクグマのいる離島に収容しようとしているわけではない

「北極圏に位置するノルウェーのスヴァールバル諸島。ホッキョクグマがいる危険な離島に難民が送られるかも」という捉え方をされていたとしたら、事実は異なる。
|

ハフィントンポスト日本版に「難民はノルウェーに到着すると、ホッキョクグマがいっぱいの島に送られるかもしれない」という記事が掲載されたが、補足をしないと、一部で解釈に誤解をうむのではと感じたので、直接ノルウェーの政党から答えをいただいた。

Open Image Modal

話題となっているノルウェー北極圏 Photo: Espen Klungseth Rotevatn

「北極圏に位置するノルウェーのスヴァールバル諸島。ホッキョクグマがいる危険な離島に難民が送られるかも」という捉え方をされていたとしたら、事実は異なる。

まず、ここは人が普通に生活している場所なので、このエリアに住む人が「かわいそう」と解釈されてしまうとしたら誤解であり、住んでいる人々に失礼だ。

Open Image Modal

町には建物もある Photo: Espen Klungseth Rotevatn

このニュースが誤解されたまま世界に広がっているのは、ノルウェー語から英語へと情報が意訳され、加えて記事に使用されている写真が、「氷の上にいるホッキョクグマ」の1枚のみというのが大きい。他メディアの記事でも、「ホッキョクグマ注意」を促す標識の写真が使われていたりする。

注目を集めるために、極端なタイトルやステレオタイプ的な写真になってしまうのは仕方ないが、「さすがにこれは住民や、純粋に難民を受け入れたいと考えている人々に失礼なのでは」と感じた。

人が住む場合、生活することになる町の様子がどこのメディアでも紹介されていないので、住居エリアの写真を緑の環境党 スヴァールバル諸島 代表エスペン・ロテバトゥンより提供していただいた。

Open Image Modal

文化施設もあり、住民もいる Photo: Espen Klungseth Rotevatn

スヴァールバル諸島に難民を受け入れようと積極的な提案をしているのは、「緑の環境党」(MDG)だ。

14日でのノルウェーの地方統一選挙で、これまで無名に近かった同党は、大幅に支持率を伸ばし、現在では今後の国政選挙でも大きな影響を与えるとみられている党だ。

Open Image Modal

統一地方選挙活動中の同党の選挙小屋、左側の人物が共同代表ラスムス氏 別記事「日本とは違う、なぜノルウェー選挙運動は「祭り」のように楽しい?」 Photo:Asaki Abumi

今回の騒動は、複数のメディアによる極端なタイトルと写真が原因で、緑の環境党と、進歩党(FrP)が、難民を離島に収容しようとしているというイメージをどうしても与えてしまい、世界に広がった。

ちなみに、両党は、政策方針や移民・難民への受け入れ態度が両極端に異なる。進歩党は、ノルウェーの政党の中で最も移民政策に厳しいことで知られている。

今回は、誤解されている緑の環境党の本部広報と、同党のスヴァールバル諸島の代表から返答をいただいた。

インデペンデント紙などに、緑の環境党に関する記事が掲載されました。

それは、我々が"難民をスヴァールバル諸島へ追い払おうとしている"というような印象を与えるタイトルでした。これは間違っています。

ノルウェーの他の自治体と同じように、同島でも難民を受け入れることができるか、我々は地元の行政と話し合いを進めています。難民に仕事と住居を提供することができないか、地元の政治家が解決策を見出そうとしているというのが真実であり、冷淡な政治家が離島の北極圏に難民を追い払おうとしているわけではありません。

緑の環境党 本部広報 アンネシュ・ダニエルセン

我々は、ノルウェーの他の自治体同様に、難民を受け入れたいと思っています。難民危機の責任を、少しでも共用するべきだと思うからです。

スヴァールバル諸島にあるロングイェールビーンという町には、2千人以上の住民が生活をしています。飛行場もあり、西に位置する開発地域です。道路、店、文化施設、バーやレストランもあります。人口の四分の一は、外国人です。

住民の居住地ではホッキョクグマの出現率は極度に低く、過去40年間で亡くなった5名の事件は、生活区域圏外で起きたものです。

緑の環境党 スヴァールバル諸島 代表エスペン・ロテバトゥン

北極圏は確かに気候は寒く、雪に覆われており、首都オスロなどに比較するとインフラは整っていない。だが、ロングイェールビーン町には普通に生活している人々がいる。記事内容にかかわらず、タイトルと写真だけで誤解をうむこともある。スヴァールバル諸島に住むことを、「気の毒!」と第三者が解釈することのない記事を、メディアは伝える必要があるだろう。

Text:Asaki Abumi