原発は「ベースロード電源」に 「ベース電源」とは何が違うのか

政府が取りまとめた「エネルギー基本計画」案では、原発が「重要なベースロード電源」と位置づけられた。素案では原発は「重要なベース電源」と表記されていたが、「ベース電源」を「ベースロード電源」に変更したのはなぜか。違いはあるのか。
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The No. 4, from left, No. 3, No. 2 and No. 1 reactor buildings stand at Kansai Electric Power Co.'s Ohi nuclear power station in Ohi Town, Fukui Prefecture, Japan, on Friday, June 1, 2012. Japan's government moved a step closer to resuming nuclear power generation after last year's Fukushima disaster left the country without atomic energy for the first time in more than four decades. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images
Bloomberg via Getty Images

中長期のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の政府案が、2月25日に公表された。原発を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけ、安全性が確認されたものは再稼働を進めるとしている。

2013年12月13日に経済産業省の総合資源エネルギー調査会がまとめた計画案では、原発は「重要なベース電源」と表記されていた。「ベース電源」を「ベースロード電源」に変更したのはなぜか。違いはあるのか。

結論を言うと、「ベース電源」と「ベースロード電源」はどちらも「電気を安定的に供給する電源」という意味で、大きな違いはない。もともと海外では「ベースロード電源」と呼んでいるため、海外にならって文言を揃えただけとも言える。

しかし、これまでと今回の案では、ベースロード電源の「説明」に違いが見られる。これまではベース電源を単に「安定供給を行える電源」と説明していたのに対し、今回の案では「発電コストが安い」ことを説明に加え、原発がベース電源として必要であることに説得力を持たせているのだ。

これまで資源エネルギー庁では、日本における電源設備を3つのタイプに分類していた。常にほぼ一定の出力で運転を行う「ベース供給力」、電力需要の変動に対応して稼働し主としてピーク時に必要な供給を行う「ピーク供給力」、両者の中間的の役割をもつ「ミドル供給力」である。

これを今回の案では「コストが安くなる」という点を強調し、説明文を変えた。ベースロード電源は「発電コストが安く済み、昼夜を問わず安定的に稼働できる電源」としたのである。

エネルギーの安定供給のためには安価である必要があり、燃料価格が大きく変動することは困る。また、輸入も安定して行える必要がある。このような議論がなされ、「ベース電源」にはコストが安いことが不可欠との意見が出たためだ。

このような理由から、ピーク供給力やミドル供給力もベース供給力と同様に「ミドル電源:発電コストがベースロード電源に次いで安く、電力需要の変動に応じた出力変動が可能な電源」、「ピーク電源:発電コストは高いが電力需要の変動に応じた出力変動が容易な電源」と、説明文を変更している。

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エネルギー基本計画の議論に参加してきた京都大学原子炉実験所の山名元教授は、現段階ではガスや石油、再生可能エネルギーは「ベースロード電源」ではないとしている。燃料の調達や設備の整備に、コストがかかるためである。山名氏は再生可能エネルギーをベースロード電源にしていくためには、地熱エネルギーなどをどこまで増やせるかにかかると、課題を指摘している。

なお、今回発表された「エネルギー基本計画」をこれまでの案と比べると、元々ベース電源とされていた石炭の他に、地熱や水力などの原子力以外のエネルギーについても、「ベースロード電源」として表記を変更した点が見られる。ベースロード電源の印象を、原子力だけでなく各種エネルギーに分散したとも捉えることができる。

■地熱

ベース電源を担うエネルギー源となりうる。

ベースロード電源を担うエネルギー源である。

■水力

表記なし

一般水力(流れ込み式)については、運転コストが低く、ベースロード電源として、また、揚水式については、発電量の調整が容易であり、ピーク電源としての役割を担っている。

■「ベース」という言い回しをやめ、イメージを変える戦略

さらに「ベース」という言い回しをやめることで、国民の持つイメージを変えているとも言える。2013年12月の案で使われた「基盤となる重要なベース電源」という表記は、英語にすると「ベース」という言葉が重なることもあり、整理したほうが良いとの意見も出ていた。MSN産経ニュースは、文言変更の経緯を次のように報じている。

昨年12月に経産省の総合資源エネルギー調査会がまとめた当初案では、原発を「基盤となる重要なベース電源」と表現したが、原発活用を強調しすぎていると主張する公明党など与党に配慮して「基盤となる」の部分を削除した。「ベースロード電源」とは、常時一定量の発電を続ける電源を意味する専門用語で、経産省は「従来の『ベース』という表現が、原発の重要度合いを示すものでないことを明確化した」と変更の意図を説明する。

(MSN産経ニュース「安全性確認後の原発再稼働を明記 エネルギー基本計画の政府案決定 - MSN産経ニュース」より 2014/02/25 10:56)

茂木敏充経済産業相は今回の変更について、「基本的に方向性が変わったというふうには認識していない」と、閣議後の記者会見で述べている。

しかし今回の文言変更については、「ベースロード電源」という表現の意味がよく分からないとの声も上がっている。公明党の山口那津男代表は記者会見で、今後国民によく説明する必要があると話しており、与党内でも国民に内容を理解してもらえるような議論をしていかなければならないと話している。

【※】原発が「ベースロード電源」と位置づけられ、表記文言も変更されたたことについて、あなたはどのように考えますか。ご意見をお寄せください。

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