〝未来のジャーナリズム〟は男性クラブか

米国老舗メディアの「ロックスター」たちが、次々と新興メディアに移籍し、新たな〝未来のジャーナリズム〟を切り開こうとしている。その動きは、以前の投稿「『ジャーナリズム』のアンバンドル化が意味するもの」でも紹介した。これに対して、厳しい批判の声が、業界の各方面から上がっている。問題はその豪華な顔ぶれだ。
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米国老舗メディアの「ロックスター」たちが、次々と新興メディアに移籍し、新たな〝未来のジャーナリズム〟を切り開こうとしている。その動きは、以前の投稿「『ジャーナリズム』のアンバンドル化が意味するもの」でも紹介した。

これに対して、厳しい批判の声が、業界の各方面から上がっている。問題はその豪華な顔ぶれだ。

新たに立ち上げるネットメディアが、実は男性、しかも白人男性ばかり。それで多様な視点が確保できるのか、と。

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■白人男性ばかりのジャーナリズム

まず反響を呼んだのは、コロンビア大学ジャーナリズムスクールのデジタルジャーナリズムセンター所長、エミリー・ベルさんが英ガーディアンに12日に掲載したこのコラムだ。「ジャーナリズムベンチャーが白人男性だらけなら、それは革命ではない

ベルさんは、ガーディアンのオンライン版に長く携わり、同社のデジタルコンテンツ担当取締役も務めた。

そのベル氏がまずやり玉にあげるのは、2012年の米大統領選の勝敗予測を50州すべてで的中させた前ニューヨーク・タイムズのネイト・シルバーさんだ。

自身のブログ「ファイブサーティエイト」とともに、ディズニー傘下のスポーツチャンネルESPNに移籍。データジャーナリズムを核としたメディアの編集長として、新「ファイブサーティエイト」を3月17日に立ち上げる。

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タイムのインタビューで、シルバーさんがスタッフの採用について「選手控室での相性が重要なんだ(You know, clubhouse chemistry matters)」などと野球好きなところを見せた発言に対し、ベルさんは「職場の多様性、という言葉を聞いたことがあるんだろうか?」と手厳しい。

そして、このブログでも前々回「ジャーナリズムを支える金に色はついているか?」で取り上げたイーベイ創業者で会長のピエール・オミディアさんが、スノーデン事件のスクープで知られるグレン・グリーンワルドさんらと立ち上げた「ファースト・ルック・メディア」。

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さらに、ワシントン・ポストで人気ブログ「ウォンクブログ」を成功させたエズラ・クラインさんは、1月にネットメディアグループ「ヴォックス・メディア」に移籍。「プロジェクトX」と呼ばれていた新メディア「ヴォックス」立ち上げに取り組んでいる。

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だがベルさんは、これでは「プロジェクトXY」、つまり男性(の染色体はXY、女性はXX)、しかも白人男性ばかりではないか、と指摘する。

これにニューヨーク・タイムズ前編集主幹、ビル・ケラーさんが編集長を務める新ニュースNPO「マーシャル・プロジェクト」を加えてみても、事情は変わらない。

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ベルさんの言うとおり、ここまで出てきた名前は全員白人男性だ。

■女性はどこにいった

では女性はどこにいるのか。

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ウォールストリート・ジャーナルで人気テックニュースサイト「オールシングズD(現WSJ.D)」を運営していたカーラ・スウィッシャーさんウォルト・モスバーグさんが共同創設者となって今年1月2日、CNBCと提携した新テックニュースサイト「リ/コード」を立ち上げている。

オミディアさんの「ファースト・ルック・メディア」には、アカデミー賞候補(ドキュメンタリー部門)の経歴を持ち、スノーデン事件取材にも携わったドキュメンタリー作家、ローラ・ポイトラスさんが創立メンバーとして参加している。

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クラインさんの「ヴォックス」には、ウォンクブログのシステム担当だったメリッサ・ベルさんが一緒に移籍している。

ただ、表の顔ではない。

少し時計を巻き戻せば、女性創設者によるメディアベンチャーはいくつかある。

ウォール・ストリート・ジャーナルのテックライターから独立し、鳴り物入りで年間購読料399ドルの有料ニュースサイト「ジ・インフォメーション」を昨年12月に立ち上げたジェシカ・レッシンさん

テックニュースサイト「テッククランチ」のシニアエディターだったサラ・レイシーさんが独立し、2012年1月に立ち上げた「パンドデイリー」。

さらに遡れば、ハフィントン・ポスト創設者のアリアナ・ハフィントンさんもいる。

■多様性と雇用

新メディア立ち上げにあたっての、スタッフの採用状況はどうか。

ベルさんのカウントでは、「ヴォックス」のクラインさんの場合、常勤の男性ライターが自身を含む11人に対して女性は3人。

「ファイブサーティエイト」のシルバーさんの場合は、19人の編集スタッフのうち女性は6人。

これをジャーナリズムの革命、と持ち上げることには、ベルさんはとても同意できないようだ。

ジャーナリズムをそのイメージから作り直すといっても、しゃれた髪形やきつめの衣装にするだけなら、それは革命ではないし、進化ですらない。(中略)革命とは、遥かに深い体制の変革が求められるものだ。

■多様性の確保は採用だけでは終わらない

これに対し、オンラインマガジン「スレート」のライター、アマンダ・ヘスさんは、さらに皮肉な調子で、なぜこのような動きに期待をかけるのか、と言う。

これらのネットのプラットフォームは、ジャーナリズム(伝統的に白人男性が優位に立ってきた分野だ)とテクノロジー(白人男性優位がより強い!)が融合するということだ。その結婚の結果といえば、より強力な白人男性の一群をつくり出すことしかないだろう。

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人気バイラルメディア「バズフィード」の副編集長、シャニ・ヒルトンさんはより実務的視点からこの問題を取り上げる。「多様性のある編集部のつくるのは労力がいる」と。

まずベンチャー立ち上げの資金集めの時点から、白人男性に比べて女性や有色人種はかなりの苦労をするし、白人男性の周りには同じようなスタッフが集まる、とヒルトンさんは述べる。

はっきりさせておこう:白人女性を30%雇ったからといって、それがスタッフの多様性とは言えない。〝異なったバックグラウンドを持つ〟白人男性を雇った場合でも事情は同じだ。

その上で、こう指摘する。

現実には、〝多様性〟はいわゆる異なる視点の、人種、性別、性的指向、政治傾向を代表するような人物を採用すれば終わりという訳ではない。黒人のスタッフが黒人を代弁し、白人のスタッフが白人を代弁することを求められるような編集部なら、そんなところはうまくいくはずがない。

そして、その上のレベルを目指すとなると、「労力がいる」のだと。

さらに、そんな多様で優秀なスタッフを集めるのは、そう簡単なことでもないとヒルトンさんは言う。第一級の人材は、求人を待つまでもなく満足できる職を得ているし、中堅の人材は、ネットなどやらないから、求人のアンテナにひっかからない。

そもそも白人男性の採用担当者のネットワークは、有色人種の女性のネットワークとの接点もない。

結局、求人の網に引っかかるのは、ネット上のフットワークも軽く賃金も安い新卒(それが往々にして白人、しかも往々にしてアイビーリーグ出身者)、という確率が高くなってしまうのだ、とも。

なるほど、話がリアルだ。

■LGBTの多様性

多様性の観点から、さらに議論になるのが、性的指向、すなわちLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)の問題だ。

しかも、少々ややこしい形で問題化している。

「ヴォックス」のクラインさんが採用を決めた、ゲイのライター、ブランドン・アンブロシノさんの扱いだ。

アンブロシノさんはゲイの立場をとりながら、ゲイのコミュニティからはLGBT反対派を擁護する人物と見られているようだ。そのため、この採用は多様性を標榜しながら、その実、多様性の確保に反する、との批判がリベラル勢力からも出ているという。

これらの批判に対して、クラインさんは、フェイスブックにこんな声明文を公開している。

アンブロシノさんは、我々のLGBT専門ライターではないし、ヴォックスの唯一のLGBTのスタッフというわけでもない。才能ある若いライターだと思っている。(中略)アンブロシノさんにチャンスを与えて欲しい。

■そもそもの議論

なるほど。

組織の多様性をめぐる議論は、今に始まったことではないし、ジャーナリズムのベンチャーに限った話でもない。

既存メディアから新興メディア、ベンチャーへ、という新たな動きにスポットがあたる中で、改めて議論の俎上にのぼったということだろう。

ただ日本の場合は、その遥か手前、そもそもの〝未来のジャーナリズム〟を考えるところから始めなければならないわけだが。

※GQ JAPANのウェブサイトに、「ジャーナリズムの伝統と流行」というテーマで、筆者のインタビュー記事が掲載されています。「ジャーナリズムが得た新たな表現方法──平和博」。よろしければどうぞ。

(2014年3月16日「新聞紙学的」より転載)