テレビドラマは薄く広い「共感のプラットホーム」を作り出す

人は「誰かと感情を共有して安心を得たい」と思ってしまう生き物です。そんな欲求を満してくれるものが、どこにあるのか?「テレビドラマ」の中に、その答えの一つが見つかりはしないでしょうか?
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未来を予知することはできませんが、いくつか見通しがつくことはあります。それは、高齢化社会の進行と単身世帯の増加によって、一人暮らしが増えていくということ。そして、情報は「断片化」「個別化」の傾向をますます強めていく、ということです。

朝起きれば、メールにツイート、最新ニュース......。次々に情報が舞い込む。あっちからこっちへと、関心が移り変わっていく。ひとつのテーマをじっくり考えたり、深く味わったりするのがなかなか難しい時代。他の人と議論したり、共感しあったりする時間も少なくなった。拡散し断片化していく私たちの暮らしと意識。このフラグメント感は、今後増えることはあっても、減ることはなさそうです。

しかし。人はバラバラだけでは満たされない。一方で、つながりや重なり、継続、共感を求める生き物。

「誰かと感情を共有して安心を得たい」と思ってしまう生き物です。そんな欲求を満してくれるものが、どこにあるのか? 「テレビドラマ」の中に、その答えの一つが見つかりはしないでしょうか?

ドラマを視ている時はその世界に「所属している」という安定感に包まれます。ストーリーやドラマ世界を、他の多くの人々と共有している安心感を持つことができます。ドラマの世界が一度では終わりにならず、次回へと継続していくことに、期待感や充足感を覚えるのは、はたして私だけでしょうか?

一言でいえば、断片化、孤立化が進むこの時代だからこそ、新しい役割を担うドラマが登場してくる可能性がある。ドラマが薄く広い「共感のプラットホーム」を作り出している、と言えないでしょうか?

ドラマに対するネット上の感想書き込みの活況ぶりは、その現象の一つかもしれません。例えばヤフーのテレビ「みんなの感想」欄では、NHK朝ドラ「あまちゃん」に対して1か月間に約7千件の書き込みが。見知らぬ人と熱心にドラマの内容について感想を交わし、共感しあう−−そんな新たな楽しみ方が開拓されつつあるようです。

一方で、「最近のドラマは視聴率が低迷している」という話もしばしば耳にします。20%台にのるのはごく限られた作品だけ、一桁代のドラマもざらにある昨今。だから「家政婦のミタ」(2011年秋クール)が40%を記録した時には、社会的「出来事」として注目されたのでした。

でも、視聴率が必ずしも「今の視聴実態」を反映しているのかどうかは疑問があるところ。視聴率は、ご存じのように放映時のリアルタイム視聴をカウントしています。それが、お茶の間の視聴実態とズレてきているのではないか? 実態を正確に把握できていないのではないか? という指摘も出ています。

デジタル化が進み、ハードディスクへの録画はボタン一つで完了。以前にくらべてものすごく簡単になった。そのために、「集中して見たいものは録画」という流れが、急速に定着しつつあるのではないでしょうか。

「視聴率は放送時間中に見られた数値しか公表されていないが、視聴実態をより反映した録画を含めた数値をみると、人気ドラマの中には録画再生が放送中を上回る例もあった。テレビ放送が始まって2月1日で60年、視聴率調査が始まってから半世紀以上がたつが、公表数値が視聴実態と離れつつあることが浮き彫りになった」(朝日新聞「『ドラマは録画』くっきり 再生率が視聴率上回る例も」2013/1/31)

ドラマを録画して、後から見る「隠れ視聴者」は、私のまわりにもたくさんいます。

「仕事も食事もお風呂もすべて終わって、ゆっくりできる夜の時間帯に、録画しておいたドラマをじっくりと一人で楽しむの」

部屋の照明は落とし気味にし、携帯電話はオフ、トイレを済ませる。すべては画面に集中するための環境整備。好きなお酒を用意して、さあ録画再生スタート。

「誰にも邪魔されないこの時間がとても好き。最高の娯楽タイム」と彼女は言います。

バラエティやワイドショーは「ながら見」。けれどドラマはしっかりと集中して誰にも邪魔されずに没入したいから録画。それだけ真剣に対峙している、とも言える。

低視聴率=共有されないコンテンツとは早計には言えないし、「ドラマ離れ」と簡単に結論することは実態を反映していないのかもしれないのです。

テレビは表層文化。世の中の変化と併走して変容していきます。断片化の時代、ドラマは人々の感情を共有する「プラットホーム」となり、録画システムやドラマサイトと共存しながら独自の役割を担うのではないか――

そして、私にとってドラマは、「新しい世界との出会いと発見」を提供してくれる貴重な時間に他なりません。これからもドラマからもらった新鮮な驚きや発見、共感や違和感を、ネット上で積極的に発信し続けていくつもりです。